たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

日本

林屋!『野ばら』

昨今の宝塚のあれやこれやに触れて思い出したので再読し、なんだか感動してしまった。ダラダラと飴をしゃぶるような快楽を味わえるサービス満載の一級レジャー小説。斜陽を前にした桜の木の下のシーンなんて「細雪」だし...。自分のメモによると実に17年ぶり…

家の献立『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』(22)

私の世代でも、「家で食事を用意してくれるのは家族以外の人」という子はたまにいた。商売をやっている家の子とか。 たべものに淡白で、クッキーにバタをぬって、「こんなおいしいものはない」といってるのだから、簡単なものだ。姉も私も下の弟も甘いお菓子…

一番高級なおいしいアイスクリームの作り方『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』(21)

コルドンブルーで作り方を教えている「一番高級なおいしいアイスクリーム」は向田邦子のエッセイに描かれた昭和の一般家庭での作り方と同じやぞ。材料も今よりはるかにいいだろうし、そりゃ美味しいにきまってる。 一番高級なおいしいアイスクリームの作り方…

トマトとシャンボン『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』(18)

XXを食べると疫痢になる、という親の心配は向田邦子のエッセイにも書かれていたな。 「トマトだけ切ってくれればよいわ」 といって、トーストにトマトをはさんで、 「あーおいしい」 なんて思っているのだから、人間の好みも変るものだ。トマトを好きになっ…

食缶とアセロラドリンク『スペードの3』

「アスパラとベーコンのクリームペンネ」、私がパスタでよく作るやつ。この文字面を見ただけで食べたくなる。 「食缶」がなつかしい。ていうか、給食にフランスパンが出るの? アセロラのドリンクもなつかしい。 「ごはんは? 私たちはもう食べたけど」ハイ…

戦時中『らんたん』(8)

ヨーロッパの大戦中の手記を読んでもよく「代用コーヒー」なるものが登場する。いよいよ危機の時、とっておきの本物を飲んだらいかにエネルギーが湧いたかということも。 「お疲れですよね。そうだ、授業が始まる前に、ご気分を変えてみませんか? 今日は涼…

おつけもの、レタス『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』(10)

スナッキングといえば、西海岸のおつまみとしての枝豆の浸透ぶりに驚く。日本食レストランで名指しするのはもちろんのこと、普通に冷凍の「エェダマァミィ」を買って家でも食べている。鮨店に加えてどんどん増えてるラーメン店が出してるんですかね。 一般の…

ピーナッツ・ウィーク『らんたん』(7)

「ピーナッツ・ウィーク」、遠い記憶が刺激された。似たような誰かにこっそり親切にするならわしのことをどこかで聞いた気がするのだが、はっきり思い出せない。自分でやっていたら絶対に相手のことを覚えているはずなので体験はしていないのだろうが...。特…

おじやは太る?『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』(9)

私は80年代の大半を地方で過ごしたが、うちにはなぜかサフランがあってたまに食卓に黄色いご飯のピラフやドリアが出てきたんだよな。母はチャレンジャーだった。アメリカに来て体感しているが、ちゃんこなべとかご飯みたいな元の素材の形が見えるものは、パ…

学生のたべもの『もういちど生まれる』

勤めの傍ら通っていた今はなき某IT専門学校は、週末、オールでマシンが開放されていたのでクラスメートと誘いあさせてしょっちゅう利用していた。たまに1時過ぎに行くココイチも楽しみだったが、校内でホットの紅茶花伝を買って夜景を眺めながら止まり木で飲…

しゃぶしゃぶなるもの、フォンデュなるもの『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』(7)

私は大阪出身だが、実家にしゃぶしゃぶという料理は存在せず、初めて知ったのは関東の友人宅で(毎週末に夕食を共にするという離れのおばあさんから友人宅の内線に電話がかかってきて、何が食べたいか聞かれたらしく「ひさしぶりにしゃぶしゃぶでも〜」と8歳…

大正9年のマンハッタンの日本人『らんたん』(4)

ゆり(30代)はコロンビア大学に、道(40代)はユニオン神学校に通学。ふたりで留学生活。こんなの楽しいに決まってる。そこにロックフェラー家との邂逅が。 訪問客の誰もが遠慮なくよく食べるので、道とゆりは週の最初に一週間分の献立を女中さんも交えてよ…

のどを使うプロのタブー食と駅弁『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』(5)

日本の駅弁の思い出は残念ながらあまり良いものではない。冷たくくっついた俵おむすびのまずさ。今だったら食べてみたい銘柄がいろいろあるのになー。そういえば、昨年帰国時に551に行列ができていて驚いた。20年前、毎日のように阪急を利用していたころはい…

ブナの実入りのサンドイッチ『らんたん』(3)

欧米の物語にでてくる食べ物の描写にうっとりするのは大正の時代も今も変わらない。 アーラムは進歩的な学校で何をするにも男女平等です。だけど、女子寮の門限が6時で男子は夜間外出自由なことだけがどうにも納得が行きません。でも、その分、男子たちは私…

絵に描いたようないじめ『殿下とともに』

東宮侍従を務めた「オーちゃん」が今上天皇の婚礼を前に綴った手記で、雅子さまに一歩下がることを知恵として伝えなかった宮内庁や災害のお見舞いに動かない皇室への「苦言」は、賛同するか否かは別として今はもうこれほど親身な提言ができる人はいないだろ…

ベトナム料理流行時代『永遠の途中』

ザ・週刊誌連載小説。ずっとあらすじ文を読んでいる感じ。「ジェンダー」という語に注釈がついている。私は学生のときに上野ゼミに連れて行ってもらった程度には女性学に関心があったが、2007年当時に自分はどのくらい認識をアップデートできていたっけと思…

ソーダ水『けむたい後輩』(2)

ユーミンはリアルタイムでは『天国のドア』から入って、そこから遡ったクチだが、荒井時代の楽曲には十分ノスタルジーを感じる。オールナイトニッポンも結構しつこく聞いていた。リスナーが流行歌を地元の方言で歌う、という企画があり、工藤静香の『慟哭』…

メイド・イン・ジャパン『らんたん』(2)

この時代の日本の素材、水で作った焼き菓子はさぞや美味だっただろうな。二度と再現できない味。 生姜の辛みのある、人形を模したもっちりとした洋菓子と、茶色の香ばしい熱々の甘い飲みものはこれまで味わったどんなおやつにも似ていなくて、道は夢中で口に…

アメリカ人も読みたい『らんたん』(1)

JTCで業務を遂行できるレベルの日本語上級者から「語彙を増やしたいので日本語のページターナーをおしえて」と相談されて何冊か小説を勧めたのだが、その中で彼が「いちばん面白そう、長いのもいい」と選んだのがこの1冊。マンハッタンの紀伊國屋に買いに行…

その手をにぎる『その手をにぎりたい』(5)

幸か不幸か一度も入院の経験がなく、したがって病院食を食べたこともない。盲腸で入院した家族は、ベッドでテレビばかり眺めていた、これほど食べ物のことばかりやってるとは思わなかった、と言っていた。英国で出産した家族は、「やべー」と言いながら馬の…

蛸の桜煮『その手をにぎりたい』(4)

実際に飽食殺人みたいなプロットのミステリー、何度か読んだ気がする。 目についたやかんに水を入れコンロにかけると、急いで茶筒や急須を探す。料理好きの彼はよく台所に立ちパスタやピラフを作ってくれるものの、決して女を入れようとしない。 現れたのは…

ウニ、トロ、平成の夜明け『その手をにぎりたい』(3)

寿司店でバイトしていたとき、トロのウニのせという鼻血が出そうなにぎりを注文する常連のアメリカ人客がいた。トロやウニが入っていない、売り切れたと言うと(どんな寿司店やねんと思うが、そういう日はたまにあった)この世の終わりのような顔をして嘆か…

車海老まつり『私のこと、好きだった?』

時代を感じる小説だが、いちばん昔感があったのは「箱根の高級旅館」の宿泊費。「一泊五万円という空おそろしくなるような料金」だと。やっす。それから四十を超えての初婚セレブ花嫁を取り巻く女性誌のはしゃぎぶりは、映画SATCそのもの。ああいうのもいろ…

鮨の匠が教えるパエリア『その手をにぎりたい』(2)

うちの実家、たまにドリアだグラタンだとサフランでご飯を炊いていた。あれって贅沢なことだったんだな。 「まず、アジから握っていただけますか」一ノ瀬さんの顔に一瞬、明るい色が浮かんだのがわかった。勉強がものを言った———。まずは及第点。5月の旬のネ…

Departures『80's』

90年代後半から21世紀の初めまで東京で過ごした者として、著者のいう街の音楽はとてもリアルなのだが(My Heart Will Go Onとかね。『タイタニック』を池袋の地下の映画館で見て地上に上がったら雪が降っていたものだ)、GlobeのDeparturesもその中に入って…

犬と同じメニュー......『BUTTER』(11)

私が小学生のころ、地元には野良犬、野良猫がたくさん歩いていた。そのうちの1匹を友達と囲ってエサや寝床を与えていたことがある。で、やっぱり味見はしたよ、ネコ缶を。カレー風味がいいにおいすぎて。味はほとんどなかった。 帰宅すると、朝陽が差し込む…

赤飯文化『BUTTER』(9)

初潮のあとの赤飯ムーブはほんとにきもいと思ってた。玉姫殿なき今、赤飯=めでたい、ごちそうというイメージは残っているのかな。そもそも炊ける、自宅で炊くなどということを思いつくご家庭も減ってそう。 お茶請けとして出されたのはセロファンで包まれた…

手作りお菓子のプレゼント『BUTTER』(7)

手作りお菓子は美味しいものしかいただいたことがない。自信がある人しかやらないからだ。ところでたまーに「手作りに抵抗がある」という人に実際に会うが、それって口に出して言っても何もいいことないのにね。 「そうね、なら、甘ったるいチョコレートでは…

元気の出ないレストラン『BUTTER』(6)

「カロリー低い」味気ないレストランといえば、SATCの火を通さない食事のみを出すヒップなプレイスを思い出すな。サマンサとスミスが出会った場所な。 オーガニックの貴腐ワインは水のようにするすると入っていく。 「ほら、ここはカロリー低いから、いくら…

健康マニアの不養生『さくら日和』

おそらく10年以上ぶりに再読したのだが、なんてことのない内容を結構覚えていた。さくら先生が病気で亡くなった今読むと、重病にかかるかどうかは人による、という事実を改めて突きつけられる。 このエッセイにかかわらず、さくら先生の健康マニアネタにふれ…