たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

富士日記(53)糖尿病対策

糖尿病になりやすい日本の食習慣...。1型糖尿病は社会文化病だよね。金持ちも貧乏人もそれぞれ別の理由でかかる。アメリカに来てから知人2人を糖尿病でなくした。1人は爪先を切る手前まで行って亡くなり、もう1人はせっかく移植を受けられたのに数か月で力尽きた。支援の罐詰漬けになってそれまでなかった糖尿病患者が爆増した国のことも思いだす。

6月23日(金) くもり朝のうち小雨
朝 麦ごはん、くしろ塩焼(これ、まずい!!)、つまみ菜おひたし、豆腐味噌汁、じゃがいもととり煮付、いちご。
昼 ホットケーキ、トマトと玉ねぎスープ、シューマイ、キャベツ塩茹で、わかめとちりめんじゃこ三杯酢、プリンスメロン。
夜 麦ごはん、天ぷら(キス、いかのかき揚げ、いんげん、茄子)、かきたま汁。
午前中、霧のような雨。タマも主人もずっとねている。
(中略)
夕飯の支度をしていると、いったん帰られた大岡夫人が、きす5本とあいなめ(?)2枚、もってきて下さる。おていちゃんの友達が大磯から差入れにきたそうで、大きな氷が一緒に入っている。

6月24日(土) うすぐもり
朝 麦ごはん、かぼちゃ味噌汁、魚煮付、春菊ごま和え、きゅうりとしらすとわかめ三杯酢。
昼 ふかしパン、オムレツ、ほうれん草バター炒め、夏みかんゼリー。
夜 麦ごはん、なすしぎ焼、いんげんと肉とじゃがいも煮、わかめと玉ねぎサラダ、かぼちゃと小豆の煮たの、いか煮付。
午前中、2時間ほど、午後も2時間ほど、草刈り。
草刈りを少ししては休み、また草刈りをしていた主人、休むたびにテラスで罐ビールを飲みながらおせんべいをかじっている。一人言のように言う。
「俺、なんでトウニュウなんぞになったのかなあ」
「こーんな大きな茶碗に3杯ずつ朝昼晩、御飯食べたでしょ。その間におやつにパンを食べたでしょ。酒も沢山のんで、うなぎや肉の脂身食べるのが好きで、野菜や果物食べなかったでしょ。若いときからずーっと。それがたまって糖尿病になったの。運動しないで食べすぎ、のみすぎだとなるらしい(中略)そのおせんべだってカロリーに入るよ。2枚がごはん1杯分かな。それはお米でできているから、はっきりしてる」
「えッ。これ、米でできてるのかなあ? ちっとも知らなかった。これも米でできてるのか? 茶色いから米じゃないと思ってた」
「茶色いのは醤油の色。おせんべ沢山食べてビール沢山飲むと、ほかのもの減らすよ」
もうすでにおせんべいを何枚も食べたあとだったからか、主人はめずらしくすぐ、おせんべいを食べるのをやめた。残りの罐ビールだけ飲んでいる。そして手の中にあった食べかけのおせんべいのかけらを、テーブルの上にぽとっと置いた。歯が入ったから、パリパリと噛んで食べてみたいと長い間思っていた固いおせんべいを食べられるのが嬉しくておいしくて、毎日食べていたのだ。

朝 麦ごはん、大根味噌汁、魚煮付、わかめとキャベツ三杯酢、いんげんとちくわ煮付、プリンスメロン。
昼 うすやき、玉ねぎとトマトスープ、春菊ごま和え、夏みかんゼリー、中華オムレツ。
夜 麦ごはん、野菜スープ、いんげんとキャベツおひたし、肉団子。

●昭和48年

昼 麦ごはん、ゆばとわかめの味噌汁、キャベツの塩もみ、牛肉バター焼。遅く3時ごろ食べた。
(中略)
海のみえる崖の上の食堂で、お刺身(主人)、いか丸焼(私)をとる。いかの丸焼は、年とったいかだったらしく、大きいことは大きいが、硬くて味がなく、ゴムを食べているようであった。食堂を出て、そのへんを歩いて海をみたりした。

談合坂で一休み。つつじが満開。肌寒い。カレーライス(主人)、チキンライス(私)、出された水を飲むと体が寒くなった。チキンライスをとったのに、この前食べたタケノコ御飯定食の御飯と同じ味の醤油炊き込みライスであった。この次から、もうこれはとらないことにする。
(中略)
昼 麦ごはん、こんにゃくとにんじんと椎茸の白和え、とりささみつけ焼、キャベツ酢漬、とろろ昆布のおつゆ、トマト。
(中略)
夜 麦ごはん、あこうだい煮付、あんかけ豆腐、ほうれん草おひたし、夏みかんゼリー。

5月2日(水) 雨
朝 麦ごはん、大根味噌汁、シューマイ、キャベツ塩もみ、しらす大根おろし和え、りんご。
(中略)
昼 ざるそば(私)、かけ(主人)、なめこ大根おろし和え、がんもどきといんげん煮付。
夜 麦ごはん、はんぺんとみつば清し汁、かにたま。

●昭和49年

6月16日(日) 快晴
朝 麦ごはん、大根味噌汁、まぐろ煮付、アスパラガスおひたし、茄子油炒め。
9時ごろ電気屋来る。壁の照明灯2個、電球を入れ直してゆく。
昼 パン、サラダ、ソーセージ、プリンスメロン、紅茶。
夜 麦ごはん、かきたま汁、のり、うに、佃煮、さつまあげ。

6月17日(月) くもり時々晴
朝 麦ごはん、なす味噌汁、トンカツ、じゃがいも粉ふき、きゅうりとアスパラガスと紫キャベツのサラダ。
昼 パン、ソーセージ、とりスープ。
夜 麦ごはん、豚汁、紅鮭、炒り卵。

夜 麦ごはん、海苔、明太子、大根おろし、うに、はんぺんとみつば清し汁、くこ酢味噌和え。

6月26日(水) 晴、夜くもり
朝 チキンカツ、麦ごはん、紫キャベツサラダ、いんげんおひたし。
夜 麦ごはん、海苔、鮭罐詰、大根おろし、コンフリーごま和え、キャベツ糠漬。

6月28日(金) くもり時々晴
午後4時ごろ、大岡さんパンを持ってきて下さる。昨日家の中で電気ストーブにあたっていたら、めまいがしたから、今日はビールは飲まないといわれる。

カレーパン1個、コロッケパン1個、卵パン1個、食パン、合計290円。
(中略)
夕方、花の苗を植える。
夜 麦ごはん、けんちん汁、まぐろ煮付。

武田百合子著『富士日記』より

富士日記(52)「カツ丼が270円でカツライスが150円なのはどうしてだろう」

植木屋さんのじゃがいも弁当を「とてもおいしそう」という百合子さん。日本の見本ろう細工、新しい飲食店にはほぼないだろうけど、意外と廃れないですね。すごく面白いカルチャーだと思う。工場は一度行ってみたい。

4月23日(日) くもりのち雨
朝 ごはん、豚汁、のり、炒り卵。
昼 きつねそば(私)、カツ丼(主人)、S農園で。
夜 ごはん、はまち照り焼、大根おろし、きゅうりとしらす三杯酢、キャベツ油炒め。
9時半ごろ、女2人、男2人、N村の植木屋が上って来る。
お昼にコンビーフとお茶を持って行くと、門の石垣に腰を下ろして食事をしていた。ほうれん草のおひたしが弁当箱に一杯、たくわんが弁当箱に一杯、ぎっしり詰っている。ごはんがビニール布の上にパカッとあけてある。
10時のお茶のときは、袋に入れた茹でじゃがいもに塩をつけて食べていた。それがとてもおいしそうだった。
主人を乗せて山中湖へ下る。S農園で昼食。「カツ丼が270円でカツライスが150円なのはどうしてだろう」と、S農園を出たあとで主人が言う。カツ丼をとったら、見本のろう細工のカツ丼にそっくりの色と形をしていた。主人は3分の2を食べて「百合子、食べろ」とくれる。食べようとしても、私はどうしても食べられない。
(中略)
雨が降ってきたので、植木屋のお茶は食堂で出す。お汁粉とおせんべいとお茶。一人だけ甘いものが食べられない男衆がいる。

夜 新キャベツとしその葉の塩もみ、ごはん(五目炊き込みごはん)、大根味噌汁、むつ煮付、あこう鯛煮付。

昼 焼きそば。
夜 五目炊き込みごはん、かにコロッケ、かきたま汁。

夜 麦ごはん、ひらめフライ、はんぺん清し汁、キャベツとアスパラガス、白菜酢油漬、プリンスメロン。

朝 麦ごはん、ちくわつけ焼、大根おろし、豆腐味噌汁、白菜と椎茸と桜海老中華炒め、プリンスメロン。
(中略)
夜 麦ごはん、木須肉、水菜おひたし、とりスープ、いちご。
星が沢山出ている。

足柄で。主人便所へ行く。ちくわ(200円)を買い、タマ1本、私1本、主人1本食べる。小田原のちくわ。冷蔵容器に入っていたから、冷たくて、おいしい。
(中略)
昼 ごはん、シューマイ、新キャベツ炒め、コンフリーおひたし、豆腐味噌汁。
夜 ごはん、粕漬さわら、はんぺんとみつば清し汁、ふきとしらす煮付、きゅうりといか酢のもの。

5月18日(木) 快晴、風なし
朝 麦ごはん、キャベツ味噌汁、木須肉。
昼 ふかしパン、グリンピース塩茹で、野菜スープ、すみれのおひたし(隣りのおじいさんにもらった)。
夜 ごはん、大根と牛肉煮付、かれいフライ、さつまいもから揚げ、ニラといかのぬた。

5月23日(火) くもり時々晴
前11時、東京を出る。東名高速を通る。足柄でちくわを買い、食べる。

朝 ごはん、味噌汁、とりのハム、白菜ときくらげと桜えびの油炒め。
昼 うす焼、野菜スープ。
夜 ごはん、しらす大根おろし和え、ほうれん草とわかめのおひたし、トマト。

夕方、外川さん、石工の男1人連れて遊びに来る。仕事の帰り、門のとrこおを通ったら車がとまっていたから、と言う。
ビール、ウイスキー、チーズを出す。

6月3日(土) くもり
朝 ごはん、さつま汁、なまりの煮たの、わかめのおひたし、つまみ菜ごま和え、グレープフルーツ。
昼 ごはん、あじ塩焼、大根おろし、はんぺんとみつば清し汁、コンフリーおひたし。
夜 パン、トンカツ、キャベツサラダ、スープ。
タマ、うぐいすをとってくる。

夜 ごはん、コロッケ(かに)、野菜スープ、みつばおひたし。

6月11日(日) 晴
快晴。いろんな鳥の声が、方々でしている。
朝 ごはん、ひらめのでんぶ、卵とじゃがいものオムレツ、大根味噌汁、コンフリーおひたし。
昼 すいとん。
(中略)
夜 ごはん、まぐろ照り焼、大根おろし、みつばおひたし、はんぺんつけ焼、さつまいも甘煮。

朝 ごはん、紅鮭、大根おろし、白菜酢油漬、海苔。
昼 天ぷらそば(桜海老のかき揚げ)。
雨は夕方まで降ってあがる。
夜 ごはん、コンビーフコロッケ、いんげんとあぶらげ煮びたし(隣りからもらった)。

昼 ごはん、ハンバーグステーキ、じゃがいもうらごし、春菊ごま和え、きゅうりとしらす三杯酢、わかめ味噌汁。

6月22日(木) うすぐもり
朝 ごはん、いさき塩焼、大根味噌汁、茄子しぎ焼、のり、いちご。
昼 パン、玉ねぎとトマトスープ、とりささみバター焼、ほうれん草バター炒め、プリンスメロン。
夜 粟餅のりまき、グリンピース塩茹で、漬菜ごま和え、かまぼこ。

武田百合子著『富士日記』より

金原瑞人『翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった』

いつからか積ん読になっていたのだが、本を減らしたいと思い苦痛を乗り越えて読みきった。こういう微妙な雑談が長い翻訳講師いる。縦書き・横書き考は収穫。

父親は釣りが大好きだったが、釣って帰った魚はよく自分でさばいていた。そしてそのうち、息子にさばかせるようになった。というわけで、フナ、ハヤといった川魚から、チヌ、メバル、ベラ、ブリ(さすがにこれは釣れない)といった海の魚まで、息子はしっかりさばけるようになっていった。もちろん、タコ、イカもさばけるし、カレイの5枚おろしもOK。ついでに包丁も研げる。
父親はすき焼き、ちり鍋といった鍋物だけでなく、いくつか得意料理を持っていた。たとえば、ハヤの南蛮漬け、牛肉の醤油煮込み、ウズラの串焼き、味噌うどん炒め、タラの真子の煮付け、きんぴら、バラ寿司、などなど、あの頃の男性のなかでは、かなりレパートリーは広かったと思う。もちろん失敗も多く、白菜の漬け物を、ポリバケツに3杯ほどつくって、すべて腐らせたこともある。(中略)
とにかくうちの父親は、客を呼ぶのが好きだった。次々に客を呼び、料理を出し、酒を勧めるのが大好きだった。そして「うまかった」とか「ありがとう」といわれるのがなにより嬉しかったらしい。
そんなわけで、息子もその血をついで、客を呼ぶのが好きで、料理をするのが好きになってしまった。浪人の頃、受験勉強で忙しいはずなのに、鶏を1羽ゆでては友達を呼んで食べていたし、大学院の頃もよく仲間を呼んではパーティを開いた。たとえば、そのメニューは次のような感じ。
- イカの塩焼き、クラゲの酢の物、ブタのレバーの煮付け、豆腐干とハムのサラダ
- 挽肉に香料などをまぜて練り、薄焼き卵で巻いて、蒸し上げたもの(蛋捲肉 タンチュアンロー)
- スープ(コーンポタージュ、あるいはコンソメ)
- 鶏を1羽そのまま蒸したもの
- ブタの角煮
- チャーハン
- 長芋をすり下ろした衣で胡麻餡を包んであげた、饅頭。
なぜか中華が多かったが、そのほかにもいろいろ試したことがある。
(中略)
そしてもうひとつ考えるのだが、息子の翻訳好きは、やはり喜んでもらいたいというところからきているらしい。自分が読んでおもしろかったものを、他人に勧めて、読んでもらって「よかった!」といってもらう......それが嬉しい。

金原瑞人著『翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった』より

金原ひとみ氏の実父であることはごく最近知った。

富士日記(51)颱風

「颱風」。この本で初めて見た漢字表記。きちんと活字があって素晴らしい。

すきやきと言えば、昨日Hマートで買ったブタバラにハングルですきやきと書いてあるのが読めて嬉しかった。どんなあんぽんたんでも10日で読めるようになるというハングルだが、私は10日ではすべてさらうことはできなかった。表音文字は覚えることに知的興奮が少ない。神経衰弱をしてる感じ。

8月4日(水) くもり、風つよし
朝 ごはん、ひらめ煮付、味噌汁。
昼 とうもろこし粉を入れたふかしパン、野菜ととりのスープ、トマト、ベーコンエッグ。
夜 ごはん(味つけごはん)、かます干物、ひじきとなまりの煮たの、茄子しぎ焼、みょうが汁、はんぺんつけ焼。
颱風19号が九州に上陸。

朝ごはんのとき、西の原っぱに虹が低くゆるゆるとたつ。ごはんを食べながら見ている。「この景色、あすこからここまで全部あたしのものだぞ」と言うと、主人は知らん顔をしていた。また始まったというような顔。
昼 ふかしパン、スープ。
(中略)
ウイスキーとビール、ソーセージ、じゃがいもフライ、かにとキャベツサラダ、山芋天ぷら、冷しハムとクラッカー。
(中略)
8時過ぎ、奥様が迎えにみえる。「雨が降っていても花火が上ってましたよ」といわれた。そうめんを頂く。
皆で飲んでいると、テラスに出し忘れていたパラソルが風でとんで、溶岩の角にあたって裂けた。

8月6日(金) 雨、時々晴、風つよし
7時、眼がさめる。今日も荒れ気味のお天気。
8時朝食 ごはん、かにたま、鮭と玉ねぎ酢油漬、味噌汁、サラダ。
今朝も、ごはんを食べていると、西の原っぱに虹がかかる。
(中略)
昼 そうめん、ごま入りのおつゆ、ちくわと紫蘇の葉の梅干和え。
夜 ごはん(桜めし)、みょうが汁、丸焼茄子、あとは、昨日と朝の残りもの。

主人は「腹がすいた」といって、持ってきたサンドイッチを食べはじめる。
(中略)
山へ着いて、遅い昼食。ごはん、じゃがいもと玉ねぎのオムレツ、スープ、りんご。
主人も私も昼寝。
夜 牛肉バター焼、ごはん、大根おろし、わかめとねぎ味噌汁。

10月24日
本栖湖、西湖、朝霧高原へ行く。紅葉を見に。
昼 天ぷらうどん、おひたし、
(中略)
夜 桜めし、おでん、漬物。

談合坂の売店で、肉まん2個(主人)、シューマイ弁当(私)を買って車の中で食べる。タマに弁当の中のカマボコをやる。
(中略)
昼 ごはん、とりささみバター炒め、キャベツ千切り、春菊おひたし、わかめとしらす酢のもの。
(中略)
手打うどん製造所「はなや」で手打うどんを6玉買う。「はなや」の店の奥は障子がたてきってあって、家族は皆こたつにあたっているのか出てこない。チャンチャンコを着た男が出てきて包んでくれる。
魚屋で。かれい一切れ120円。伊達巻と紅白のかまぼこが、もう並べてある。新しい光っているブリキのバケツが重ねて積まれている。バケツには蓋がしてあって「酢だこ」とレッテルが貼ってある。
(中略)
夜 かけうどん、ニラと卵の油炒め、春菊ピーナツ和え。

12月15日(水) 晴少し風
アルプスは真白だ。
朝 ごはん、じゃがいもとニラの味噌汁(卵をおとす)、かれい煮付、蓮根炒め煮、いちご。
昼 ホットケーキ、トンカツ、牛乳、みかん。
夜 ごはん、鯖味噌煮、ニラおひたし、大根おろし。

12月16日(木) 快晴
朝 ごはん、シューマイ、キャベツ千切り、ちくわ、味噌汁。
昼 うどんバター炒め。
夜 粟餅のりまき、貝柱とねぎ清し汁。
10時ごろ、タマが外に出たがって騒ぐ。

●昭和47年

4月21日(金) くもりのち晴
昼 パン、スープ、中華風オムレツ。
夜 ごはん、すき焼。

4月22日(土) 快晴
朝 ごはん、キャベツ味噌汁、すき焼の残り、きゅうりとわかめとしらす三杯酢。
昼、河口湖フラミンゴで食事。牛ヒレ肉ストロガノフというのを主人はとった。800円。川鱒、しばえびフライ500円、サラダ300円、アイスクリームを、百合子はとった。
フラミンゴには、私たちのほか、1組客がいるだけでしんとしていた。その1組は若い男と年上らしい女で、その女は、はじめ鱒のフライをとって食べ、次にまた、牛ストロガノフをとって食べた。
夜 ごはん、たらこ、うどときゅうりとハムのサラダ、豆腐あんかけ汁。
河口湖を一周して本栖湖まで行った。

武田百合子著『富士日記』より

富士日記(50)おいしがって汗を出す

西海岸ではとりあえず冷凍の巨大鰻が手に入る。先週もうちのアメリカ人が1人でどんぶりを作成して嬉し気に食べていた。私は本当においしい鰻というものを食べないまま人生を終える気がする。イメージとしては浅草で扇ぎながら焼いてるやつ...。獲れないというのだからしかたない。

7月21日(水) 晴
朝食が終ったとき、東京から戸祭さん[大工さん]ともう一人の大工さんやって来る。談合坂をうっかり通りこしてしまったら、どこにも食堂がなかったという。
大工さんへ朝ごはん。味噌汁、ごはん、目玉焼とハム二切れ、粕漬まな鰹、きゅうりととり肉のあんかけ。
(中略)
昼 かにコロッケ、ごはん、はまぐり汁、トマト、煮豆、キャベツ酢漬。

夜 ごはん、かにたま、豆腐のおつゆ、おひたし。

7月23日(金) くもり時々雨
朝7時ごろ、地震。テレビでは震源地は道志村だといった。
朝 ごはん、味噌汁、大根おろし、うに、海苔。
昼 ワンタン。
夜 鮭と玉ねぎオイル漬、枝豆の黄身うに和え、はんぺんつけ焼き、キャベツ甘酢漬、おかゆを食べる。

7月24日(土) くもり時々雨
朝 ごはん、味噌汁、豚角煮(東坡肉)、大根おろし、いんげんごま和え。
昼 チーズトースト、玉ねぎスープ、トマト。
夜 ごはん、塩鮭、かきたま汁、茄子しぎ焼。

7月25日(日) 快晴、時々曇
朝 ごはん、味噌汁、東坡肉、大根おろし。
昼 ごはん、とろろ汁。
夜 ごはん、炒り豆腐、丸焼茄子、たらこ。
(中略)
夕方、大岡夫人、沢山のきゅうりと、卵とエクレアを持ってきて下さる。来客のおみやげをわたして下さる。

7月26日(月) くもり
朝4時、私だけ東京へ。暗い道にタマと主人、見送っている。6時少し前、赤坂に着く。
買出し。宮川のうなぎ、鱒ずし、佃煮、のり、あんみつなど。
(中略)
大岡さんへ美術全集と「青年の環」と、買出しの品を届ける。今日はうなぎとあんみつの闇屋。

朝 ごはん、うなぎ(主人)。
昼 とろろそば(花子)、山芋天ぷらそば(主人と私)。
夜 きゅうりと赤貝の三杯酢、なまり煮付(私、花子)、かきたま汁、ひらめ煮付(主人)。
(中略)
中年の主婦が3人でおにぎりを食べている。深刻な顔をし合って「お金を貸したのにいまだに返してくれない某さん」についてワル口をいっている。暗いスゴい顔をしている。
溶岩菓子2箱400円、鈴200円。
いか(焼きいか)150円、とうもろこし100円。
(中略)
若い男の運転するマークIIがとまって、中から、おじいさん2人とスーツ姿の太ったおばあさんが降りた。草むらへ入って野苺を夢中になって採って食べはじめた。
(中略)
S農園まで下って、昼食におそばを食べ、山へ戻る。

7月28日(水) 晴ときどき曇
朝 ごはん、豚角煮、味噌汁、丸焼茄子、大根おろし。
(中略)
夜 ハンバーグステーキ、ごはん、スイカモモ、ぶどう。
庭の大根を抜いて大根おろしにしたら、とても辛かったが、却っておいしかった。主人、おいしがって汗を出す。

夜 ごはん、いかつけ焼、生鮭バター焼、玉ねぎバター炒め、きゅうりと揚玉中華風(にんにく入り)三杯酢、なまりとひじき煮付、つまみ菜冷やし汁。

7月30日(金) 晴のち曇
朝 ごはん、たらこ、味噌汁、オムレツ。
(中略)
終って昼食。
ごはん、ゆで豚、精進揚げ、山芋天ぷら。
(中略)
夜 野菜スープ、ごはん、佃煮。

7月31日(土) 快晴
朝 ごはん、うに、のり、納豆、野菜スープ。
昼 ふかしパン、スープ。
夜 おかゆ、コンビーフ、鮭と卵油炒め。
(中略)
午後1時、読売新聞社のインタビューの人来る。
ビール、コンビーフ、じゃがいもフライ、山芋天ぷら、を出す。

8月1日(日) 快晴
くらくらするほどの青空。今日は日曜だから山を下りない。一日、草を刈る。
朝 ごはん、たらこ、うに、のり、納豆。
昼 お好み焼、スープ。
夜 ごはん、かにコロッケ、清し汁。

昼 チーズトースト、スープ、トマト、じゃがいも粉ふき。
夜 ごはん、オムレツ(主人)、いわしみりん干(私)、トマト、大根レモン漬。

うなぎ、食料品どっさり、郵便物、雑誌など持って、1時半家を出る。
暑い暑い。くらくらするほど暑い。中央道のパトカーのお巡りさんも休んでジュースを飲んでいる。
3時半、山へ戻る。
夜 うなぎごはん、はんぺんとみつば清し汁。

武田百合子著『富士日記』より

富士日記(49)おはぎ

おはぎは成人してから美味しいと思い始めた食べ物のひとつ。大人になるっていいよね。

6月3日(木)くもり、夜になり雨
朝 ごはん、鮭と卵と玉ねぎの油炒め、じゃがいもとわかめ味噌汁、みつばの酢味噌和え、夏みかん。
昼 カレーライス。私はドーナツを食べる。
夜 ラーメン(野沢菜と肉の油炒めをのせる)、プリンスメロン。
畑の菜っ葉の間引き。

6月4日(金) 雨風つよし
朝 ごはん、炒り卵、海苔、大根味噌汁、夏みかん。
昼 ごはん、牛肉大和煮、白菜炒め、きゅうりといか酢のもの。
夜 かけうどん、茄子と豚肉の中華揚げ煮。
雨が降るたびに、草はのび、葉や枝はひろがり、緑は深まってきて、時間が刻々過ぎ去ってゆく。毎年私は年をとって、死ぬときにびっくりするのだ、きっと。

朝 ごはん、ひらめ煮付、焼き茄子の実の味噌汁、コンフリーおひたし、山椒佃煮。
昼 ごはん、海苔、うに、卵焼。
夜 かけうどん、きんぴらごぼう、ほうれん草おひたし。
主人の電気毛布をしまう。

6月20日(日) 小雨、一日中降ったりやんだり
朝 ごはん、味噌汁、のり、うに。
昼 ふかしパン、スープ。
夜 ごはん、豚肉と高野豆腐煮付、きゅうりと油揚げとピーマンのにんにく醤油漬。グリンピース塩茹で。

6月21日(月) 終日、雨
朝 ごはん、味噌汁、鮭の罐詰、大根おろし。
昼 グリンピースごはん、コンビーフ、スープ、青菜炒め。
夜 湯豆腐(ベーコンと玉ねぎ入り)、パイナップル。

6月22日(火) くもり時々小雨
朝 ごはん、麻婆豆腐、かきたま汁、茄子丸焼。
昼 ごはん(焼きにぎり)、はんぺんとみつばの清し汁、サラダ。
夜 おかゆ、コンビーフ、春菊おひたし、バター、のり、うに。
庭の野ばらがだんだん咲く。

朝 ごはん、シューマイ、大根味噌汁、トマト。
昼 ごはん、はんぺんとみつばの清し汁、炒り卵とひき肉甘辛煮、プリンスメロン。
夜 かけうどん、ひじきの煮たの、ひらめ煮付。
夜になって豪雨となる。
昼間は二人ともぐっすり昼寝した。

朝 ごはん、豆腐味噌汁、ひらめのそぼろ、のり、卵、トマト。
昼 パン、野菜スープ、鮭と玉ねぎ酢油漬。
夜 グリンピースごはん、いんげんごま和え、がんもどき煮付、とりささみフライ。
(中略)
プリンスメロン120円、プラム1箱130円、夏みかん120円。
プラムは真赤なのに、おどろいた、このまずさ!!
隣りへしらすをあげたら、ほうれん草をくれた。

6月30日(水) 雨時々曇
朝 ごはん、じゃがいもとキャベツ味噌汁、わかめと玉ねぎサラダ、まぐろ罐詰、大根おろし。
昼 ごはん、オムレツ、清し汁、トマト。
夜 釜あげうどん、プリンスメロン。

主人はおそばを4、5人の客と食べていた。

主人は「ワグナーをきいていたら霊感が湧いて、小説の題を2つも考えてしまった」と言った。大岡さんは「貸してやるから持っていっていいよ」とおっしゃった。大岡さんは「タダでこのレコードは貰ったけれど、本当は14万円ぐらいするぞ」とおっしゃった。
お刺身を御馳走になった。楽しかった。

7月10日(土) 快晴
午前中、朝霧高原へ主人を乗せて行く。帰り、河口湖一周、サニーデで昼食。カレーライス(主人)、ミックスサンド(私)、660円。
(中略)
夜 ごはん、とろろ汁、塩鮭、大根葉漬物。

7月14日(水) 快晴
朝 ごはん、ベーコンオムレツ、牛肉そぼろ、味噌汁。
昼 とろろ汁、ごはん、塩鮭、トマトサラダ。
夜 卵のおじや、牛肉そぼろ。
陽ざかりに草刈りをする。夕方も草刈りをする。顔が火傷をしたように熱い。あまりながくしていたら気持がわるくなる。やめたら癒った。

7月15日(木) 快晴、夕方雨
朝 ごはん、味噌汁、うに、のり、卵、いわし大和煮。
昼 パン、野菜スープ、トマト。
夜 ごはん、コンビーフ、たたみいわし、おひたし、清し汁。

7月16日(金) 快晴
朝 ごはん、味噌汁、大根おろし、佃煮、卵、のり。
昼 うどんバター炒め。
夜 ごはん、とろろ汁、塩鮭。
(中略)
お盆なので仏様に作ったから、と大きなおはぎを4つ下さる。おはぎは本当においしかった。のどをすべるように入っていった。主人は1つ食べた。私は3つ食べた。

武田百合子著『富士日記』より

富士日記(48)つくしの煮たの、わらびおひたし

結局まだつくしを食べたことがない。

4月13日(火)晴
朝 ごはん、じゃがいもとニラ味噌汁、コンビーフ、キャベツ酢漬。
昼 ホットケーキ、スープ。
夜 ごはん、のり吸い、なまりの煮たの、卵中華風オムレツ、ニラのおひたし。
(中略)
私は、昼、おかゆ。夜、おじや。

朝 チキンライス、野菜スープ、パイナップル。
昼 ホットケーキ、鮭燻製、コンビーフスープ、紅茶。
夜 ごはん、さつま汁、山椒佃煮。

石川で鮭のちらしずし二折り。
山へ上って行く道の両側に富士桜が咲いている。
庭の梅は満開。お尻丸だしという風に開ききっている。すみれが咲いている。
ほうじ茶をいれて、ちらしずしを食べる。
(中略)
夜 おかゆ、梅干、おかか、バター、時雨煮。
主人、「海」の原稿があがったあとで食欲まるでない。おかゆを食べる。私もおかゆを食べる。湯浅[芳子]先生が東京の家へ持ってきて下さった時雨煮を、そのまま持ってきてよかった。主人、時雨煮ばかり食べる。おいしいと言う。

4月25日(日)晴
朝 豆腐味噌汁、ごはん、かれい煮付、いちご。
昼 ごはん、生鮭のフライ、キャベツとちくわの煮たの。
夜 うどんバター炒め、夏みかんゼリー。
(中略)
夜、つくしの煮たのを持って隣りのおばあさんが来る。「タネの上にかぶせる土は、まいたタネの大きさの3倍の深さにかぶせる。私は娘のときまでは百姓でしたから。じいちゃんよりよく知ってるの。いまはちっとも百姓したくないの。娘のときしましたからね。土がキライで外で働くのがキライになりました」と、勝手口で教えてくれた。

朝 ごはん、わかめとたけのこ味噌汁、炒り豆腐、しらす、大根おろし、さつまあげ。
(中略)
昼 チキンライス、スープ、じゃがいもサラダ。
夜 おかゆ、紅豆腐、バター、とりのささみつけ焼、つくしの煮たの、ふきの煮たの。

朝 ごはん、シューマイ、味噌汁。
昼 じゃがいもにバターをつける。スープ。
夜 五目ごはん、かきたま汁、かれい煮付。

久しぶりで月江寺通りまで行くと、月江寺駅の近くに「女帝大飯店」という中華料理店が出来ている。その中に、また、すし屋が出来ている。
「中国産ハチミツあります」と貼り紙がしてあるので、薬屋に入ってみせてもらう。店の主人は「日本のより安く、何よりもいいのは純度が高いことだ。日中友好のハチミツです」と言う。吉田の酒屋には、中国産のとりの罐詰が置いてあった。
朝 ごはん、しらす、大根おろし、じゃがいも味噌汁(卵入り)、ロースハム。
昼 サンドイッチ、野菜スープ。
夜 ごはん、蛤のおつゆ、ほうれん草ごま和え、あじ干物(私)、鯖塩焼(主人)。

5月11日(火)晴
前7時半、東京を出る。
談合坂で、シューマイ弁当と幕の内弁当を買って、車の中で食べた。タマにかまぼこをちぎってやる。タマ、今日はおとなしい。弁当の中味は同じで、つめ具合だけがちがっていた。
(中略)
昼 鮭とのり茶漬、きゅうりとしらす三杯酢。
(中略)
夜はかけうどんにしようと思っていると、隣りのおばあさんが鯛の刺身と草餅を持ってくる。鯛はT先生が東京から持ってきた。草餅は植木屋が作って持ってきてくれたからとのこと。
夜 ごはん、鯛の刺身、ひじきとなまり煮付、かきたま汁。これは主人の食事。
私は草餅を食べた。この草餅は皮が分厚くて、いやに緑色(草が入りすぎているのかな)だ。口の中で一杯になってしまって、なかなか呑みこめない。チューインガムの感じだ。大きさはおにぎり位。5個頂いて、2個食べた。3個めは食べられなかった。ふつうの味だった。

朝 ごはん、オムレツ、味噌汁。
昼 お好み焼、スープ、夏みかんゼリー。
夜 中華粥、ひじきの煮たの、むろあじ、野沢菜油炒め。

5月13日(木)晴
朝 ごはん、じゃがいもとそらまめ味噌汁、しらす、大根おろし、東坡肉。
(中略)
昼 ごはん、さつまあげとキャベツ煮付、コンビーフ。
夜 炒り卵と海苔のまぜごはん、けんちん汁。

5月14日(金)うすぐもり
朝 ごはん、オムレツ、けんちん汁。
昼 お好み焼、おやつにラーメン。
夜 ハヤシライス、わらびおひたし、夏みかんゼリー。
(中略)
灰であくぬきをして、10本のわらびを茹でる。主人はおいしいと言った。

<今日は植木屋が5人連れで用がないのにぶらっと上ってきた。おにぎりを持っているのでお茶だけ出したら、一休みしていった。一休みしたら、皆でどこかへ出かけていった。下の山の中へ入ってワラビを抱えて帰ってきた。『どの辺にあるか』と訊いたら『下の方』というだけで教えてくれない。でも私は植木屋が帰ってきたときの方角で、大体のところは見当をつけておいた。明日お天気だったら一緒に採りに行こう。一人で山の中へ入るのは気味がわるいから>と、おばあさんは、このようなことを話した。

武田百合子著『富士日記』より