たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

Entries from 2020-01-01 to 1 year

ポケベルが鳴らなくて 山本文緒『ブラック・ティー』

ポケベルや固定電話の留守電の使い方について知りたい人はこの短編集を読もう。 ちょうどやかんのお湯が沸いたようなので、僕は台所へコーヒーを淹れに行った。彼女はブラックが好きなのだ。ミルクと砂糖をたっぷり入れないと飲めないと僕は違う。ゆっくりと…

仙台の芋煮会 内館牧子『養老院より大学院』

この本は文庫2回、電書1回買ってしまった「特定のエピソードのために読み返したくなる」エッセイ。今読むと、院試の英語試験を「これでもかの意訳」で乗り切った、と繰り返してあるのが気になる。どうも「意訳」を原文に不誠実なネガティブな仕事だと思って…

ヨーロッパあちらこちら 犬養道子『お嬢さん放浪記』

本書で、犬養さんが療養していたサナトリウムが近所にあったことが分かって驚いた。 お嬢さん放浪記 (角川文庫) 作者:犬養 道子 KADOKAWA Amazon <アメリカ> アメリカに行ったら、浴びるほど飲もうと楽しみにしていたアイスクリーム・ソーダも、ついぞ口に…

アメちゃん 山本文緒『あなたには帰る家がある』

20年ぶりに改訂版を再読。とても良かった。 自宅外での食べ物の気軽なやりとりがしにくくなって、「アメちゃんコミュニケーション」は簡単ではなくなってしまいましたねえ...。 教会の屋外礼拝に行ったら、そうはいってもリフレッシュメントはあるんだけど、…

田辺聖子『女の日時計』から

「…まあ、その話は止そう。肉が美味い……。空気がいいからよけい美味いのかな」 彼はよく食べた。沙美子にも炭火で焼いた肉や野菜がおいしかった。そのことが、気持ちを楽にした。運転するからと、彼は酒を飲まなかったが、それもよかった。 「沙美子さんて、…

ほとばしる食欲 山本文緒『自転しながら公転する』

人間同士をつなぐ、そして人間の本能を呼び覚ます(無心に箸を動かす描写多し)会食の場面がいっぱい。そして、空気を変える甘味の時間も折々に。自転しながら公転する(新潮文庫)作者:山本文緒新潮社Amazon ものすごく美味いんだと連れて行かれた店は、バ…

カレーとコンビニサンドウィッチ 奥田英朗『沈黙の町で』

この小説にはいくつものシチュエーションでカレーライス、コンビニのサンドウィッチが登場する。どちらも日本の庶民生活に欠かせないことがわかる(天皇の好物もカレーらしいが)。コンビニのサンドウィッチは悪くないけど、いったん薬品の匂いに気づいたら…

過去の風習、おすそ分け 奥田英朗著『向田理髪店』

「おすそ分け」っていいよね。アメリカでも、キャセロールなんかを届けるのはよくある風景。でも、感染症のために素人が自分で作った食べ物を届けるなんて、到底不可能になってしまった。誕生日の子が学校にカップケーキを持って行くのも中止に。ドネーショ…

どこにでもいる「24時間モーニング」党 Emily Giffin "Something Blue"

日米の朝ごはんメニュー(シリアル除く)は私も好きだし、何時でも食べたいと思う。特にダイナ―では絶対に朝食を注文する。「24時間モーニング」を提供するお店は名古屋に限らず、アメリカにもたくさんある。ここに出て来るIHOPもそのひとつ。 "Nothing you …

村上春樹『雨天炎天』トルコ編

一応の記念撮影が終わると、中尉が兵士の1人にチャイを持ってこいと命令する。ちょうど日本のお茶みたいな感じでチャイが出てくる。もう1人の兵士が椅子を持ってくる。どうも話が長くなりそうな雰囲気である。(中略)でも国境警備隊でお茶を飲ませてもらう…

村上春樹『雨天炎天』ギリシャ・アトス島編

『やがて哀しき外国語』『遠い太鼓』を中心にムラカミの紀行文は好きで何度も読み返しているのだが(時々小説以上に女性差別視点がのぞくのだけは気になる)、もう30年以上前に出た本書は初めて。ギリシャ語の勉強を始めたのを機に。「やれやれ」づくしだっ…

Comfort foodとしてのシリアル Emily Giffin "Something Borrowed"

かつて、日本でも洋書の登竜門として大人気だった作品。やはり、まず1冊読み通そうと思ったら、英語の難易度にかかわらずページをめくる手が止まらない本を選ぶのがいいね。 I chug a big glass of water, take two Advil, and contemplate ordering fried e…

戦時中の贅沢 小林照子著『これはしない、あれはする』

戦時中、集団疎開を前にはからずもみんなでかわいがっていた学校のアヒルを食べさせられた、という話も出てくるが、チキンな私は引用できない。 WFPがノーベル平和賞を受賞し、その食糧供給量よりも日本のフードロスのほうが多い、という事実が話題になって…

脂がのっていない『かもめ食堂』

映画『かもめ食堂』はふとしたときに見返したくなることがあって、配信アクセスを購入している。日本では、家具屋のモデルルームで流しっぱなしにされているのを見かけて、借りなおしたりしたものだ。(いまだにレンタルDVDが生きている日本は特殊だよね) …

さらに脂がのる会食シーン 林真理子著『最高のオバハン 中島ハルコの恋愛相談室』

村上開新堂のクッキーと同じく、私には、Opus One(300ドルくらい。庶民に手の届くレベルの贅沢)とトレジョワイン(3ドル)との違いも全然分からない。どっちも同じくらいカリフォルニアーンだと思う。 ギャルソンが椅子を並べ始めたカフェを見つけ、2人は…

脂ののった会食シーン 林真理子著『最高のオバハン 中島ハルコはまだ懲りてない !』

『愉楽にて』でも高値こいた記述がされていた村上開新堂のクッキー。私がおばあちゃんちで食べたときは、期待を上げ過ぎたこともあってか、「ブルボンと言われても気づかん...」と思った。というか、個人的にはモロゾフとかヨックモックのほうがおいしいと思…

雪冷え、花冷え、涼冷え、日向燗、人肌燗、ぬる燗、上燗、熱燗、とびきり燗『ファースト・プライオリティー』

日本酒を飲みたくなること必至。まるで真水のような質の高い日本酒を。 「お、いい匂い。今日は何?」姉がいつもの時間に帰って来て、台所を覗きそう聞いてきた。「小鰺のよさそうなのが売ってたから南蛮漬けにした。あと、そら豆とエビの炒め物と、カボチャ…

70年代 皇室の食卓『陛下、今日は何を話しましょう』

学習院のカレーも生協だろうか。銀座のとんかつ~ 食堂と思われるその部屋は和室になっていて、細長い大きなテーブルがありました。ただし、椅子の部分が掘りごたつ式になっているのです。(中略) 海外からのお客さまには和室で正座して食事をとるのは難し…

記憶に残っていた場面 山本文緒『シュガーレス・ラヴ』

「ねむらぬテレフォン」の一節で、この短編集は既読だと気づいた。そして、鮮烈に記憶していたあるラストシーンが「夏の空色」のそれだったことも。見終わった瞬間に忘れる映画、再読であることに気づかないまま読み終えてしまう(読書メモを見て唖然とする…

ひなあられとクリストフ 山本文緒『そして私は一人になった』

山本氏はうつに苦しみ、「楽しい」と心から思えるようになるまでの日々を日記として発表している。本書は時系列としてはその前の時期の記録である。一般向けパソコンの黎明期。まだ彼女もワープロを利用。飲み会である人に「編集者に原稿を取りに来させるよ…

狭くえげつない東京『パレード』

トーストが食べたくなった。地元には最低限でもヤマザキレベルの美味しい食パンがないので、あまりトーストを食べない。 それから、東京の狭さ、怖さを思い出した。7年近く住んで当時は怖いと思ったことなどなかったのに。 本作は当然のように映画化されたよ…

『ツ、イ、ラ、ク』で成績アップ

この小説は何よりも、次の記述が白眉。 2学期の中間試験での隼子の成績は23位に上昇した。期末試験は18位だった。全学年に比してはるかに上がった。セックスの体験は成績に現れた。テストの神聖なイメージに縛られ、答案用紙に向かうと、ぜったいにミスは許…

宮野真生子、磯野真穂著『急に具合が悪くなる』から

日本国外在住の私にとって、和書は電子版が出されない限り入手しにくいもの。それでもKindleなき時代と比べれば絶対に文句は言えないのだが。これまでも「電子化リクエスト」をバンバン出版社に出してきたが、この本こそそれを望んだことはなかった。帰国し…

インスタントコーヒーにドーナツ 篠田節子著『恋愛未満』

印鑑の記述、やっぱりナンセンスよね...。署名文化の国にいる私も、「本人の代わりにマネしてサインする」とか普通にある。小さな会社では、留守の多い社長のために、何人か代筆していいことになってる人がいたり笑。同じナンセンスなら、署名のほうがいいよ…

宮さま、サラダに挑む『浩宮さま 強く、たくましくとお育てした十年の記録』

こうして抜き出してみると、宮さまのサラダ嫌いに3度も言及してあって笑える。でもこのしつけのおかげで後にオックスフォードの寮の食事も楽しめたのではないかと思う。 私は2つの小学校に通ったが、1校は構内で給食をつくっており、この皇室のように全部食…

フライドポテトは野菜 内田親子の『街場の親子論』

私は対談本が好きだ(9割ハズレだが)。考えてみればアメリカでは、インタビュー本はあっても対談はあまり聞いたことないな。村上・オザワの音楽対談本の英訳も稀有に思えた。そもそも企画モノっぽい本があまりない気がする。やたら多作な論客も思いつかない…

パイナップルとリンゴ 冨永愛『Ai 愛なんて大っ嫌い』

彼女の小さいころの両親との数少ない思い出はどちらも果汁の水気と甘さとともにあった。「お熱」とウサギやスリスリリンゴ、リンゴジュースを食べさせてもらった記憶がセットになってる人、少なくとも日本には多いよね。 「ねえ、お父さん」「うん?」「あれ…

老人ホームの食事 林真理子著『我らがパラダイス』

日米で4か所の高齢者施設に見舞いや外出の手伝いで行ったことがある。この本に出て来るような高級施設ではないので、だいたい小学校の給食献立表のような1か月の「普通食」メニューが食堂前に貼ってある。祖母の暮らしているところはカレーが多い。月に2度カ…

10年ぶりの即席ポテトグラタン 林真理子著『ウェイティング・ルーム』

ポテトグラタンについては昔の食堂にも掲載した(だから、覚えていたのだろう)林真理子の『怪談』改題『ウェイティング・ルーム』。最近、彼女の短編集がぼつぼつ新装版でタイトルを変えて発売されている。駅の書店で手に取りやすいのよね。私も分かっててK…

素敵な森ミールと屋台の焼きそば『英子の森』

ファーマーズマーケットなどに並ぶフードトラック好き。結構割高だが。最近だと、アムステルダムの屋台で食べたフライドポテトとコロッケドッグの芋尽くしが最高だった。 「アボカドのポテトサラダ用意してきたのよ。どこかのお店でサラダとしてできたのをア…