たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

ブナの実入りのサンドイッチ『らんたん』(3)

欧米の物語にでてくる食べ物の描写にうっとりするのは大正の時代も今も変わらない。 アーラムは進歩的な学校で何をするにも男女平等です。だけど、女子寮の門限が6時で男子は夜間外出自由なことだけがどうにも納得が行きません。でも、その分、男子たちは私…

パリのこどもパーティ『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』(4)

これ読んで「バタと粉チーズをふっただけの」パスタを食べたくなり、夜の10時から作成した。家に常備してある材料だけでできてしまうのが問題だ。 「今夜はまかせるから、何かおしいもの作ってよ」姉にそういわれて、私はロンシャン通りに、買物袋をぶらさげ…

ワインではない、ブドー酒だ『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』(3)

まだ「ワイン」というカタカナ語を使ってないんだよな。子どものころうちにあった絵本や聖書も「ぶどう酒」表記でそれなりに思い巡らしたものがあったので、どうもwineと同じ飲み物だという感じがしない。ましてや「白ブドー酒」=シャルドネだとは思えない。…

フレンチドレッシング『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』(2)

手作りしたフレンチドレッシングのおいしさは、小学校の調理実習で知った。英語だのプログラミングだの壺仕込みの道徳だの、新しい科目がぎっしり詰め込まれた今の小学校で、調理実習をやる時間はあるのだろうか。そもそも家庭科の授業は...。 昼間ご馳走を…

たまごとセーヌ河『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』(1)

レシピの説明がちょいちょい出てくることもあり、他の作品になく数字の扱いが興味深い。単語のひらき方は堺雅人のエッセイに似ている。どちらが先かはわからないが、連載誌だった『暮しの手帖』のかなづかいも思わせる。XX風を「ふう」に開くとことか。活版…

絵に描いたようないじめ『殿下とともに』

東宮侍従を務めた「オーちゃん」が今上天皇の婚礼を前に綴った手記で、雅子さまに一歩下がることを知恵として伝えなかった宮内庁や災害のお見舞いに動かない皇室への「苦言」は、賛同するか否かは別として今はもうこれほど親身な提言ができる人はいないだろ…

ベトナム料理流行時代『永遠の途中』

ザ・週刊誌連載小説。ずっとあらすじ文を読んでいる感じ。「ジェンダー」という語に注釈がついている。私は学生のときに上野ゼミに連れて行ってもらった程度には女性学に関心があったが、2007年当時に自分はどのくらい認識をアップデートできていたっけと思…

ソーダ水『けむたい後輩』(2)

ユーミンはリアルタイムでは『天国のドア』から入って、そこから遡ったクチだが、荒井時代の楽曲には十分ノスタルジーを感じる。オールナイトニッポンも結構しつこく聞いていた。リスナーが流行歌を地元の方言で歌う、という企画があり、工藤静香の『慟哭』…

メイド・イン・ジャパン『らんたん』(2)

この時代の日本の素材、水で作った焼き菓子はさぞや美味だっただろうな。二度と再現できない味。 生姜の辛みのある、人形を模したもっちりとした洋菓子と、茶色の香ばしい熱々の甘い飲みものはこれまで味わったどんなおやつにも似ていなくて、道は夢中で口に…

アメリカ人も読みたい『らんたん』(1)

JTCで業務を遂行できるレベルの日本語上級者から「語彙を増やしたいので日本語のページターナーをおしえて」と相談されて何冊か小説を勧めたのだが、その中で彼が「いちばん面白そう、長いのもいい」と選んだのがこの1冊。マンハッタンの紀伊國屋に買いに行…

戦場『最後の晩餐』(1)

小説やルポの食べ物シーンの引用が非常に多いエッセイ集だが、開高氏の地の文だけを引っ張る。 50年代のある年に老舎は友好代表団の団長として一行をつれて日本へいき、帰途に香港に立寄ったことがある。自分はちょっとコネがあったのでホテルに老舎を訪ね、…

その手をにぎる『その手をにぎりたい』(5)

幸か不幸か一度も入院の経験がなく、したがって病院食を食べたこともない。盲腸で入院した家族は、ベッドでテレビばかり眺めていた、これほど食べ物のことばかりやってるとは思わなかった、と言っていた。英国で出産した家族は、「やべー」と言いながら馬の…

蛸の桜煮『その手をにぎりたい』(4)

実際に飽食殺人みたいなプロットのミステリー、何度か読んだ気がする。 目についたやかんに水を入れコンロにかけると、急いで茶筒や急須を探す。料理好きの彼はよく台所に立ちパスタやピラフを作ってくれるものの、決して女を入れようとしない。 現れたのは…

腹が減っては...『顔に降りかかる雨』

この人たち、893から差し迫ったタスクを与えられてるのに、全体的にのんびりしてるんだよな。食事とか、寝る前の読書とか...。 中には、ローストビーフサンドイッチとサラダ、フルーツやケーキまで入っていた。意外に気が利く。なんだか嫌なことになったと思…

ウニ、トロ、平成の夜明け『その手をにぎりたい』(3)

寿司店でバイトしていたとき、トロのウニのせという鼻血が出そうなにぎりを注文する常連のアメリカ人客がいた。トロやウニが入っていない、売り切れたと言うと(どんな寿司店やねんと思うが、そういう日はたまにあった)この世の終わりのような顔をして嘆か…

車海老まつり『私のこと、好きだった?』

時代を感じる小説だが、いちばん昔感があったのは「箱根の高級旅館」の宿泊費。「一泊五万円という空おそろしくなるような料金」だと。やっす。それから四十を超えての初婚セレブ花嫁を取り巻く女性誌のはしゃぎぶりは、映画SATCそのもの。ああいうのもいろ…

鮨の匠が教えるパエリア『その手をにぎりたい』(2)

うちの実家、たまにドリアだグラタンだとサフランでご飯を炊いていた。あれって贅沢なことだったんだな。 「まず、アジから握っていただけますか」一ノ瀬さんの顔に一瞬、明るい色が浮かんだのがわかった。勉強がものを言った———。まずは及第点。5月の旬のネ…

カウンターの舞妓さん『その手をにぎりたい』(1)

冒頭の超高級寿司店に陣取る中高年男性と若い女性の組み合わせ模様を読んで、京をどりの日、三年坂のカウンターだけの料理店で、年配の男性と舞妓さんの2人連れと隣り合わせたのを思い出した。舞妓さんが、電話を取るために外に出た男性を料理を前にじーーっ…

Departures『80's』

90年代後半から21世紀の初めまで東京で過ごした者として、著者のいう街の音楽はとてもリアルなのだが(My Heart Will Go Onとかね。『タイタニック』を池袋の地下の映画館で見て地上に上がったら雪が降っていたものだ)、GlobeのDeparturesもその中に入って…

大団円『BUTTER』(18)

一応2時間のオンライン学習と試験合格を経てFood Handlerの認定証をとった(とらされた)身からすると、里佳が食中毒の懸念を知りながら晩餐会を決行したのをプロいと思う。私だったら、レシピを検索していてこんなキケン事例を知らされたら「子どもも来るの…

フライドチキンとからあげ『大草原の小さな町』(2)

フライドチキンと鳥のからあげは少なくとも日本人からしたら別もんだよな。ケンタはすでに大阪万博の年に日本上陸していて、本書は80年代に出た訳書だが、まだ一般用語としては使えなかったのかな。 とてもしあわせな毎日だった。野菜は順調に育っていたし、…

ラマダーンの愉悦『BUTTER』(17)

昔、片倉もとこ『イスラームの日常世界』でラマダーンの饗宴について知った。里佳も言っているように、律法的な断食修行というイメージとは真逆の習慣が描かれていた。 イスラームの日常世界 (岩波新書) 作者:片倉 もとこ 岩波書店 Amazon 身体に組み込まれ…

母さんと安倍『大草原の小さな町』(1)

ワイルダーがキャンセルされるようになった昨今ではなく、90年代の子どものときに読んでも「こういうことを地の文で書いてはダメなのでは」と十分ドン引きさせられた部分。改めてこだま・渡辺訳で読んでみて、この母さんの「インディアン」についての言い草…

私の乏しいターキー経験『BUTTER』(16)

在米10年を超えるが、感謝祭はいつもどこかのお宅や教会で七面鳥をよばれている。で、失礼だけど「うまいっ」というのにはまだ巡り合ったことがない。日本のお雑煮と同じように、家庭によって詰め物が違うのは面白いのだけど。一度、1週間塩につけて柔らかく…

ブール is『BUTTER』(15)

雲丹のブールブランソースは、ビネガーの酸味がよりいっそうそのなめらかさを引き立てる。あたたかい雲丹が舌の上でつぶれ、海の香りのするクリームに変身すれば、同じ濃度を保つ卵の黄身の味がくっきり残るフランに溶け合っていく。「ブール」はバターを意…

超高級料理教室『BUTTER』(14)

家庭科の調理実習も大嫌いだった私は料理教室に興味を持ったことはないが、YouTuberに教えられたレシピは超重宝している。 この超高級料理教室では、「味の想像がつかない」料理が好まれているが、私にはあれこれ混ぜる手数の多い料理は魅力的ではない。フー…

賢いやり方『BUTTER』(13)

せっかくのセントラルキッチンをまな板も置けない状態にしている人から「結婚したかったら料理の腕を磨くことだよ」と言われて思わず笑ってしまったことがある。 里佳は冷たすぎるビールに顔をしかめ、ナッツを無理に口に押し込む。 「(中略)彼女の魅力の…

バタ『BUTTER』(12)

私も好き、「バタ」表記。最初に見たのはたぶん、「暮しの手帖」の料理特集別冊。「アボカドは畑のバタ」と書いてあったの。 「家庭科の授業で習ったグラタンを、金曜日に父に作らなかったんです」「あなた、そんなに難しい料理作れるの? 玉ねぎも切れない…

犬と同じメニュー......『BUTTER』(11)

私が小学生のころ、地元には野良犬、野良猫がたくさん歩いていた。そのうちの1匹を友達と囲ってエサや寝床を与えていたことがある。で、やっぱり味見はしたよ、ネコ缶を。カレー風味がいいにおいすぎて。味はほとんどなかった。 帰宅すると、朝陽が差し込む…

新潟の絶品『BUTTER』(10)

あまり知られていないうまそうすぎる新潟土産のコーナー。 さっき駅構内の専門店で一緒に頬張った、熱々のおむすびの匂いが残っている。伶子の具はしゃけ、里佳はすじこだった。我ながらあきれるくらい、簡単に食欲は蘇っていた。 土産物の袋を覗き込み、バ…