たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

チンパーティ 内館牧子『女盛りは意地悪盛り』

車社会に引っ越してさみしいのは、出かけた先で気軽に飲めなくなったことだ。「自分チ」か、「人んチに泊まるとき」が唯一の飲酒の機会である。

(実際のところ、私の住むカウンティでは「1杯くらいのアルコール量まではOK」的なルールがあるので、たいていの人は外食で飲んでいる。ただし、DUIは日本よりもずっと重犯罪、即牢獄行き。)

内館作品との出会いは「ひらり」「私の青空」を毎日見ていたことから始まる。

著書は『養老院より大学院』がいちばん好きで、何度か買い直してしまった... 今は電子版があるので、海外にいても手にとれる。

「俺の田舎の山うどのうまさ、懐かしいよなァ。東京のうどは味がしないよ」

と言い、何人かの男子メンバーが「そうだ、そうだ」と同調した。

実は「うど」は東京が大産地なのだが、やはり故郷の味とは違うのだろう。女子メンバーは全員が東京か近県の出身だったが、男子メンバーは大学入学時に東京に出て来た人が圧倒的に多かった。そしてその席で、Aさんは、

「うまいうどの天ぷらとキンピラ食いたいなァ」

とため息をついたわけである。

ところが、シルクロードを取材するため、写真家の管洋志さんとスタッフと、中国の西安に向かったのが6月のことだった。西瓜シーズンの始まりで、市場でも露店でもすでに最盛期のような西瓜の山。リヤカーに積んで売り歩く行商も賑やかだった。

到着したばかりの私たちは、暑さと人いきれの市場を歩きながら、決して美しいとはいえない店に入り、西瓜ジュースを飲んだのだ。そのおいしかったこと!たぶん、「メロンのとこ」も使っているのだろう。青くさくて甘くて、おいしいの何のって、私たちは全員がハマってしまった。

ある時など、「喜び組」の1人と青葉山界隈をドライブした。そして、お茶を飲もうということになり、店に入った。彼は運転するので、当然、

「僕、ジュースにする」

と言った。将軍様は何も考えずに、当然、

「私はビール。そうね、肴はホタルイカ」

と言った。

そして、その「チンパーティ」の前夜、メンバーのA子から、何を持って行こうかと電話があった際、私はつい言った。

「掟破りだけど、私、サラダだけ作っとくわ」

するとA子、叫んだ。

「えーッ、サラダ作ってくれるの? 本当? 泣けてきた…」

たかだか野菜をちぎるだけで、この感動だ。女の可愛さも極まれりではないか。A子は次に言った。

「乾き物はあるの?」

何よりも先に「乾き物」と言う発想が貧しくて、泣けてくるではないか。私はすぐに答えた。

「あるある! 仙台の牛タンジャーキーもあるし、ピーナツもあるし、柿の種もあるわ」

「そんなにあるの?」

「うん。サキイカとホタテの薫製もある」

「すごい…… 。 あなたの食生活って充実してるのね」

(中略)

そして当日、A子はプラスチックの器に作りたての「明太子パスタ」を詰めて、胸を張ってやって来たのである。私はといえば、ここは掟破りでも致し方ないからと、フライパンとオイルを用意して待っていた。私の自宅に着くまでに、パスタはくっついているはずで、もう一度火を通すしかないと思っていた。

しかし、到着したA子は、

「ヘーキ、ヘーキ。チンすりゃオッケーよ」

と言う。そして、チンしたら、何とくっついたパスタはアッという間に離れてしまった。あぶった海苔をかけると、ほとんど作りたてのおいしさである。私とB子は、A子によって改めて「チン」の偉大さを確認させられたのであった。

彼女が私の家に来た時は、私が作るしかないので作るが、常に秋田のキリタンポ鍋である。大きな土鍋に、市販のキリタンポと市販の出し汁を入れ、野菜と比内鶏をぶちこみ、

「アタシの故郷、秋田のキリタンポ鍋にしたわ」

と言えば、猛暑だろうが、残暑だろうが鍋料理を出す立派な理由になるわけで、つくづく故郷が「鍋どころ」で助かっている。

 

その料理上手のトミちゃんが、深夜の電話で何気なく言った。

「今日はひじきをたくさん煮たの。大豆と油揚げをたっぷり入れて」

それを聞き、私は猛然とひじきの煮たのが食べたくなった。

内館牧子著『女盛りは意地悪盛り』より