たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

『ニューヨークの魔法をさがして』バナナマフィンにたどりつく

ドアを開けると、すでに店内は朝食をとる人で活気にあふれていた。土曜日の朝、アッパーウエストサイドでブロードウェイを、「ゼイバーズ・カフェ」(Zabar's Cafe)に向かって私は歩いてきた。
カフェのショーウインドウの前に立ちはだかるように、7、8人がレジの順番を待っている。焼きたてのベーグルやマフィンがぎっしりと収まっているショーウインドウを、一列に並んだ人の間からのぞき込み、ブルーベリーにしようか、と少し悩んでから、バナナのマフィンとコーヒーを頼む。

高齢の女の人が、私の右斜めの前の席に腰を下ろす。黒のウールのコートに茶色の帽子を身につけている。運んできたトレイには、全粒粉パンのようなものにスモークサーモンとクリームチーズをはさんだサンドイッチと、ダイエット・スナップルのジュースがのっている。
彼女はサンドイッチをひと口ひと口、ゆっくりと食べ始める。やがて、食べかけのサンドイッチを皿の上に戻すと、空いた手でジュースの瓶の蓋を開けようとしている。

ハンナはもともと、温かい人なのだろう。同じアパートの住人の息子が脳の病気で入院したことがある。ユダヤ系の病院だったので、金曜日の日没から土曜日の日没までは安息日で、調理ができない。そのため、作り置きのマヨネーズだらけのサラダやマカロニばかりが出されたことに同情し、半年以上、土曜日になると毎週のように、料理を用意して病院に持っていったという。

私はバナナマフィンとコーヒーの朝食をとりながら、その朝の様子をメモに残していたので、“証拠”をメールで編集者に送った。

岡田光世著『ニューヨークの魔法をさがして』より

 

シリーズ第6弾。岡田さんはバナナマフィンがお好きなようですね。ベーカリーでさんざっぱら悩んだあとに結局バナナに落ち着いてしまうのはすごく分かります。

それから、ユダヤ系の安息日の厳しさも。エレベーターのボタンも押しちゃいけないとかね。