たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

6畳エコライフ『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』

6畳の2人暮らし、家で仕事をするのでなければエコでいい。考えてみれば、私も東京暮らしのときは、6畳1間に4人を泊めたりしていたものだ。

当然、ふとぅんは足りないので、阿佐ヶ谷姉妹同様、誰かはコタツ睡眠。でもコタツで寝ると、消耗するというか、ちゃんと疲れがとれないんだよね...。

我が家にははっきりした決まりはないのですが、家事の分担はなんとなく姉がご飯担当、私が掃除担当となっております。
昼ご飯は焼きそば、ネギトロ納豆丼、夏は冷やし中華をよく作ってくれます。夜はご近所のお煎餅屋さんが時々おかずを下さるので(手作りコロッケ、シチュー、カレー、ハンバーグ、ほうとう、漬物、野菜など。ありがたや!)、そのおかずと共に姉がご飯を炊き、味噌汁を作ってくれたものを食べたり、昔から通っている中華屋さんに行ったり、仕事先でもらってきたお弁当を食べております。

「おねえさん、今日煮物いっぱい作っちゃったの、もらってもらったら、困る~?」とカボチャや筑前煮から始まり、いつの間にか、シチュー、コロッケ、鮭ハラス、ほうとう、餃子、煮込みハンバーグというメイン料理にまで及び、我が家の食卓が、差し入れのお惣菜だけで足りる程度のいただき物をするようになってしまいました。

その中でも焼き餃子は、餃子の街、宇都宮育ちの私エリコの厳しい舌をもうならせる逸品。自作やお店、数々の餃子を食べ歩いた中でも「阿佐ヶ谷姉妹杯 美味しい餃子ランキング」殿堂入りのお味です。
中の餡のお肉とお野菜のバランスもよい上に、鶏ガラスープを仕上げに入れて焼き上げる事で、中ふんわり外パリパリ、全体的にしっかりとお味のついた、そのままでも冷めても、何とも美味しい餃子に。ああ、今書いていても食べたい~。
餃子も、最初は5、6個のおすそわけ常識の範疇での分量だったのですが、そこにみほさんが同居し始め、2人しておいしかった~おいしかった~と素直な感想を伝えるうちに、10個になり、15個になり、気付けばフライパンぎっしりグルッと敷き詰めて焼いて下さったものをそのまま、姉妹のためにおすそわけいただくようになっていました。

私達が自宅にいる時に、わざわざ「これから餃子焼くけど、こまる? 困る~?」と聞きに来てくれた上で、焼きたてのものを下さるのです。
何という愛情! 私達への優しさもさる事ながら、美味しいお料理を、美味しい状態でおすそわけしてくれようとする、そのこだわりがお料理のすみずみにまで溢れていて、ますますひとくち一口が胸にお腹に沁みわたるのです。
「『ぷっ』すま」という番組で、自宅で手料理を振る舞うというロケにて、ステーキ丼を作るも、ちょうど差し入れて下さった餃子を食べた草彅さん、ユースケ・サンタマリアさん、FUJIWARAの藤本さんに「今まで食べた餃子で一番うまい!」と絶賛され、御三方とも美味しすぎてそればかり食べてしまうという、まさかの展開になりました。

私もいただき始めの頃は、自分でも作ったものをお返ししなくてはとチャレンジした事もあったのですが、豚の紅茶煮を作っておすそわけした次の日、お煎餅屋台さんから手作り具沢山ピザをいただき、その具に差し上げた煮豚が細かく刻まれ、さらに美味しくアレンジメントされているのを見て、「これはもう、何をやったりとったりしたかわからなくなっていらっしゃるのかも。混乱を招くのはやめよう~」と、自分なりに都合の良い解釈をし、地方に行った折々で、お土産を買ってきたりしています。毎回とても喜んで下さり、そしてその後のおすそわけの倍返し感ハンパなく。結果、手がふさがるほどのお返しをいただいて、ドアノブをおばさんに回してもらって帰ってくる始末です。
お煎餅やお赤飯を買わせてもらう事ももちろんあるのですが、少し買うと、その3倍くらいのおすそわけをいただいてしまい、得させているのか損させているのかわからない状態になってしまうので、なかなか難しい所です。

私は学生時代から、600円のにら玉定食が大好き。みほさんも感化されて、2人で時時行っては、にら玉と、大ぶりな餃子やクセになる麻婆味の春雨などをシェアして食べています。

川秀さんは、ランチで国産の鰻丼を10年前くらいは750円(!)でやっていて、夜は1500円になるのですが、お笑いを始めたばかりの姉妹はお金がなく、ご主人に姉が「昼の750円の鰻丼は夜は食べられないんでしょうか?」と聞くと、快く「お昼のサイズでもよければ、いいですよ」と言って下さったので、ずっとご主人に甘えて夜も750円で美味しい鰻丼をいただいておりました。

夜よく頼むメニューは、ほうれん草のおひたし、いくらおろし、たまに魚貝がいっぱい入った茶碗蒸しをつまみに(お金がないと言っている癖に結構頼んでいるなあと思うかもしれませんが、ちょっと給料が出た時ですよ。それにおつまみ一品400円位なのです。安い!)。最近はあまり飲めなくなってしまったのですが、3、4年前は夏はビールの小瓶、冬は熱燗を飲みながら、鰻丼もしくはお寿司を待つという、最高のスタイルでありました。
鰻丼を頬張りつつ、一緒についてくるおかみさんお手製の白菜やキュウリの漬物に七味とうがらしをちょいとかけて、また一杯、と思い出すとああ~お腹がグーと鳴りそうです。
姉は鉄火丼も好きでよく頼んでいました。川秀さんは月曜が定休日なのですが、日曜に鉄火丼を頼むと、在庫をなくすためなのか、はたまたサービスしてくれていたのか、ほんの気持ち色の変わったマグロや中トロもたんまりのっていて、もはや中トロ丼になっている鉄火丼を姉は美味しそうにベロベロ食べていました。

それにしても私はなぜゼリーが好きなのだろう? 思い返すと、子供の頃からゼリーやら寒天やらが好きだった。たとえばハウス食品のゼリエース。イチゴ味もメロン味も色がきれいで固めの食感が好きだったし、母がお正月に作る、卵寒天やコーヒー寒天も楽しみにしていた。

阿佐ヶ谷で不動産屋を営んでいる親子が見に来てくれて差し入れをくれたらしい。なんでも阿佐ヶ谷に新しくできたゼリー屋さんのゼリーだという。箱を開けてみると、いろんな形の色とりどりのゼリーやババロアが入っていた。
「おお美しい! すごいすごい~」
四角い何層にも分かれたゼリーの中に、繊細にカットされたフルーツが浮遊しているのがあったり、ドーム型のババロアを、花びらが入っているゼリーで閉じ込めてあるのだったり、手間暇がかかっていそうなものばかりだった。こんなゼリーは見たことがない。早速四角いフルーツゼリーを食べてみる。ちょっと固めで私好み。フルーツの甘さをうまく生かしていて、色んな層を一緒に食べても調和しているのだった。素晴らしい。さぞかしゼリーを愛している達人が作っているのだろう。
「美味しいねこれ!」
「でじょ。大味じゃないしね」
姉を見るといつの間にか、西友で買った半額シールが貼ってある、色んなお刺身の切り落としが入ったパックを出して、美味しそうにベロベロ食べていた。

ベンチで3歳位の女の子とお母さんが、たべっ子どうぶつを食べながら休憩していた。

ショーケースの中には十数種類のキラキラしたゼリーやババロア、ムースが夢のように並んでいた。美しい......。じっくり1つずつ眺めていくと、急に変な黄緑のゼリーがあった。
「ええっ?」
思わず声が出てしまった。なんだか恥ずかしい。透明な容器に入っていて、底に真緑の藻みたいなのがあり、黄緑の中にタピオカなのだろうか、黒くて丸い物体がたくさん浮かんでいて、上にはカエルの足跡の形にクリームが飾られている。商品名「アマガエル」と書いてある。洒落が利いている......!
ドクドクと興奮で心拍数が上がっていくのを感じる。私がアマガエルを見ているのを察したのか、
「アマガエルは緑茶のゼリーなんですよっ」
と教えてくれた。

「お疲れ、お疲れ。はい今日は玄米茶」
「ありがとう。ああ~もうじんどい」
姉は寿司の詰め合わせを出してまたベロベロ食べ始めた。
「ねぇお姉さん、今日ゼリーバンバンに行って来たの。これ見てっ」
興奮してアマガエルゼリーを見せても、寿司に夢中で驚かない。
「うんカエルだね」
「ゼリー屋で短期バイトするかも。明日面接に行って来るから」
サーモンの寿司を頬張りながら、
「カエルだし、いいんじゃない?」
と力のない声で言うのだった。

昼休みは交替制で、私は外食に行ったり、駅前でお惣菜を買ってきて和室で食べたりしていたのだが、勇樹がたまにけんちん汁などを作って振舞ってくれるので、私もお返しに豚汁を作ったりして、だんだん2人と打ち解けていった。
(中略)
ある日、新作のゼリーを食べてほしいと言われたので、わくわくして厨房に入ると、作業台の上に2つのゼリーが並んでいた。
「うわぁ~きれいですね~!」
「こっちはレモンのババロア! どうぞ」
レモンのババロアはピラミッド型をしていて、下がきれいなレモンイエローのババロア層で上が透明なゼリーの層、中にレモンの果肉やピール、銀箔が舞い踊っている。店長が見ているので恐る恐るスプーンを入れて口に運ぶ。ゼリーが少ししょっぱ酸っぱくて、ババロアはまろやかな甘さでいい塩梅。
「おお~さわやか。最高に美味しいです!」
「じゃあこっちも!」
「......んん?」
もう1つは謎のゼリーだった。アマガエルみたいな面白ゼリー部門なのかもしれない。楕円形をしていて、ベースは白いゼリーなのだが、茶色の部分と黒い部分が不規則に配置されている。食べてみると白がミルクで茶色が紅茶、黒は少し漢方薬みたいな味がした。すごくいい香りでミルクの所と一緒に食べるとこれまた美味しい。変な形だなと思ったがそれは言わず、
「すごくいい香りで美味しいです! 黒いのは何を使ってるんですか?」
「それは、仙草っていうのを使ってるんですよっ」

店長と私はコック服に着替え、店長が持ってきたバナナを1本、ぱくっと口に放り込みガブガブとペットボトルの水で流し込むと、真夜中のゼリー作りが始まった。
バナナが効いたのか集中しているのか、どんどん作業が進んでいく。フルーツを切る店長の手が美しい。速い速い。私は店長の作業がスムーズに進むよう、材料を計ったり、ボウルを洗ったりする。
空が明るくなってきた頃、20人前位の大きさの、下の層がババロア、上が7色のフルーツたっぷりのゼリーが出来上がったのだった。
「おお~美しい......。7人の鬼婆だから7色なんですか?」

荷物を置き、その店でよく頼むイチゴジュースとナポリタンを後先考えずに注文し、店の外に出て大竹マネージャーに電話しました。
(中略)
喫茶店に戻ったら、冷めたナポリタンと水滴のたくさんついたイチゴジュースがテーブルの上に。好物のはずなのに、まったく食欲がわかなくて、申し訳ないけれど2、3口だけ食べたように形を崩して、喫茶店を後にしました。

鼻声ながら、何とか平静を装って答えたら、「カレーは作りましたよ」といつものみほさんの口調。「あと、もし冷めてたら、そこのご飯、食べない分、冷凍庫に入れといて下さい」
見ると確かに、冷凍するためにラップに包んだご飯が、4つほど台の上にありました。まだ食欲もなかったので、4つすべてを冷凍庫に入れようと扉を開けた時。
目に入ってきたのは、バーモントカレーのルー。私の好きなバーモントカレーのルー。辛口派のみほさんが、普段は絶対買わないはずのバーモントカレーのルー。
みほさんが「今日のはこくまろと、バーモントの中辛です。甘口じゃないのよ、中辛だからね」と言ってくれているのを聞いて、嗚咽が止まりませんでした。

きっと、私が凹みまくっているのを察して、私が子供の頃から好きな甘いカレーの銘柄にしてくれたのでしょう。冷凍庫に残っていた、蒸しホタテとオキアミを使ったカレー。お肉は一つも入っていないけれど、コクと旨みに甘みの強いカレーの味。食欲がなかったはずなのに、ゆっくりゆっくりいただいて、ひと皿分を完食しました。

常に風呂敷を持ち歩いて、仕事先であまったお弁当を持って帰るのは当たり前ですし、仕事先で出るカレー弁当に1個ずつ付いてくるじゃがいも用のバターも余っていたらしっかり持って帰ります(結構バターを使わない人が多い。バターは高級品ですし、捨てられちゃうんだったらもったいない!)お水やジュースも力の限り持って帰ります。

とにかくお寿司が好きで、コンビニでいつも鱒の寿司を買いますし、地方の仕事に行く時、朝っぱらからお寿司を買って食べていたり(姉の家族もお寿司が好きなのでこれも遺伝?)、阿佐ヶ谷のレッカさんというお店のローストビーフが美味しいので、時折自分へのご褒美で買っていたり、阿佐ヶ谷のイトーヨーカドーで肉コーナーをじろじろ見て割引になっている美味しそうな黒毛和牛(小パック)を買っていたりします。

下に降りてきてから、お蕎麦屋さんで鴨南蛮そばを食べて体を温め、旅館に戻ろうとした途中だった。

「これ、食べてみて下さい」
年雄さんからその包みを受け取ると、ほんのり冷たい感じがあった。
「冷たい。何かしら」
「ジーマーミ豆腐」
「え?」
「ジーマーミ豆腐、いや、ジーマミー豆腐だったかな。沖縄の豆腐なんですよ」
「沖縄の、お豆腐」
なぜ大阪に行っていたのに、沖縄のお豆腐を? 夜道でもわかるくらい、私の顔は不思議そうな表情になっていたに違いない。年雄さんはこう続けた。
「今日の懇親会、沖縄料理屋だったんです。そこで最初に出されたのがこの豆腐で。僕、初めて食べたんですが、ものすごく美味しくて。そういえば蕗子さん、この間賄いのおぼろ豆腐、おかわりしてたなって」
恥ずかしい。そんな所を見られていたなんて。
「それで、店にお願いして1つだけ分けてもらってきたんです」
「え? それを私に?」
「はい」
私がいただいてしまって、いいのかしら。
「あの、ほかの方には」
「みんなには、ちんすこうを買ってきたから大丈夫です。まあ、どちらもまったく大阪土産ではないけど」
(中略)
ジーマーミ豆腐は思ったより小さかった。1人で食べるにはちょうどよいサイズだ。プラスチックのスプーンと、赤いフタの小ボトルがついている。おしょうゆかと思ってかけたら、少しとろみのついたタレだった。ゆっくり口に入れてみる。普通のお豆腐よりとろっとしていて、自然な甘みがあり、何ともまろやかな味がする。おいしい。思わず、顔がほころんでしまった。みたらしのような甘辛いタレも何とも後をひく。一口ごとに心がほぐれていくようだ。気取りのない、真っ直ぐで素朴で角のない優しさ。まるで年雄さんのよう。
「参っちゃうな」
スプーンを片手に持ちながら、お行儀悪くコタツの上で頬杖をついた。
「参っちゃうな〜ほんと」
次の日、年雄さんからの大阪土産として休憩室で配られたちんすこうは、従業員からなんでやねんと総ツッコミをくらっていた。

結局その日は、お目当ての家具のパンフレットだけもらい、IKEA内のカフェでみほさんとソフトクリームとホットドッグをもそもそ食べて、帰宅しました。

先日はピーマンの煮浸し、その前はビーフストロガノフ風煮込みを持っておじゃましました。

この日はみほさん主導でかぼちゃのシチューを作ってくれたので、私はちょっとしたお手伝いをすまし、副菜やスプーンなどをテーブルに並べて、部屋でテレビを見ていました。
するとみほさんは、湯気の出る根菜たっぷりの美味しそうなシチューを、自分の分だけよそってきて、いただきますと言って食べ始めたのです。

みほさんの豚汁は、しょうが多めで白滝入りで、シチューに負けず劣らずとても美味しいです。

エリコ:ほんとに距離の近いお隣同士ということで、私の部屋でそうめんを茹でて、みほさんの部屋に持っていって2人で食べたりの日々です。
ミホ:私のほうからは、キウイを切ってヨーグルトをかけたものを作って、そうめんと一緒に食べたり、スープをお椀に1杯もらったお返しのヨーグルトだったのかしらね。
エリコ:そのスープはプチトマト4つもらったお礼だったのよね。
ミホ:なんでプチトマト4つあげたんだろう?
エリコ:栄養補給のためを思ったんじゃない?
ミホ:あとうちの豚肉をちょっとあげたりね。

阿佐ヶ谷姉妹著『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』