たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

マラソンメシ 柳美里『貧乏の神様 芥川賞作家困窮生活記』

ジンギスカンが供されるという「遠野じんぎすかんマラソン」。
ここまでど真ん中ではなくても、地方のマラソン大会ではだいたい地域の名産をふるまってもらえる。
大会公式の配布ではなくても、沿道で近所の人がお八つをくれたりして交流できるし。開催する側のボランティアとしても楽しいんだよね~。
マラソン大会って、いろいろな面で素晴らしい町おこし手段だと思う。

休憩所で蕎麦を食べて、歩き始めたのが13時過ぎ。

ロッジ前のベンチで、尾瀬名物の花豆ジェラートを食べて、晩夏の尾瀬ヶ原を彩るチングルマ、ハクサンシャクナゲ、ゴマナ、ヤマハハコ、キツリフネ、ジャコウソウ、オゼヌマアザミ、ツルリンドウ、クルユマリ、ナガバノモウセンゴケなどを発見しながら、ゆっくりと木道を歩いていきました。

大清水小屋の食堂で昼ごはんを食べました。
わたしは山菜そば、息子は天ぷらうどん、村上くんはカレーうどん。

6時に朝食をとり、昼食のおにぎり弁当を受け取って、7時10分にチェックアウトしました。

「よしッ、ここでお昼にしよう」
と、わたしが声を掛けると、村上くんはザックから尾瀬沼ヒュッテで拵えてもらったおにぎり弁当を取り出しました。

小松さんは、わたしと村上くんにコーヒーを、息子にオレンジジュースをおごってくださいました。

ストレスによる過食症です。気が付くと台所に行って、クッキーやチョコレートや菓子パンやチーズやバナナなどを立ったまま貪り食っているのです。

昨夜は、台所で朝ごはんの下拵えをする村上くんを、黙って見ていました。
「そんなとこ立たれとったら監視されとるみたいで感じ悪いから、はよあっち行って寝てくれや」
と言われましたが(神戸で生まれ育った彼は関西弁を話します)、うどんの具である人参と大根を刻み終えるまでの10数分間、わたしはその光景を睨み付けていました。

久しぶりにスターバックスに入り、ショートサイズのカフェミストを飲む、という贅沢をしました。

夕食の時、村上くんが拵えたカレーライスを食べながら骨壺に目をやると、ウッドデッキの上を跳び回りながらツルバラの花を散らしていた靜の姿が蘇りました。

撤収ムードに逆らって、桂子と千恵子コーチは、焦げてチリチリになった残り物のジンギスカンをもらって食べ始めたのですが、わたしは固形物など食べようものなら即座に戻してしまいそうだったので、レモンのかき氷を買って階段にしゃがみ込みました。

平壌冷麺で有名な玉流館(オンリュグァン)で間昼間から大同江(テドンガン)ビールを飲んで、「マシッソヨ(おいしい)!」を連発しました。
(中略)
雨の大同江でクルーザーをチャーターして、船内で焼肉(牛、豚、羊、アヒル)を食べました。

放浪中は仕事がひと段落する深夜に、マクドナルド、ケンタッキー、ファーストキッチン、吉野家、松屋、リンガーハットなどのファストフード店で腹十二分目ぐらい食べて、そのまま眠ることが多いので、体重は増加の一途を辿っています。

固形物を口に入れるとすぐに吐いてしまうので、村上くんが林檎を擦ったり、アイスキャンディーを崩したりして持ってきてくれるのですが、食べるために顔を傾けること、口を開けることすらできない。
(中略)
お腹が空いた。
村上くんに三分粥を拵えてもらいました。
お椀に半分食べることができました。

お金が無いのに、謝礼金を手にして気が大きくなり、息子への京都土産にバウムクーヘンと焼栗と餅を買ってしまったことが悔やまれます。
3000円も使ってしまった……。

腹が立つと、甘いものをメチャ食いする癖があるのです。
一昨日は、サーティワンのアイス・ダブルを食べた後、ロールケーキを食べました。
昨日は、マカダミアナッツクッキーと不二家のルックチョコと源氏パイを食べました。
今日は、ジャムバターたっぷりトーストとキャラメルポップコーンを食べました。

今日、晩ごはんのおかずに買ったカンパチのお刺身、完全に腐っていました。
息子がひと切れ食べて、「なんかネトネトしてるから、もう要らない」と言ったのです。
驚いて食べてみたら、臭いも味も完全におかしかった。

柳美里著『貧乏の神様 芥川賞作家困窮生活記』より