たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

アボカドとベーコンの炊き込みごはん 冬森灯『うしろむき夕食店』

アボカドとベーコンの炊き込みごはんはぜひ作ってみたい。

全然関係ないけど、今、日本のワイドショーをYouTubeで見て眞子さまのご結婚について好き勝手言っててドン引きしてる。いったい何様...。

今年、眞子さまの願いがかないますように。いや、絶対にかなうよ!

アメリカに来ちゃいなよ!

冷たいグラスに注がれたビールは輝いて見えた。ほどよい冷たさがのどを滑りおりると、体に溜まった日々の澱が洗い流されていく。きめ細やかでやさしい泡の口当たり。はじけながらのどを潤す炭酸のさわやかさ。甘さとほろ苦さの余韻も、私を内側から浄化してくれるよう。
満足のひと息があふれ出ると、ミントソーダを手に菫が笑った。グラスに浮かぶミントは涼しげで、葉についた気泡が、白熱灯のあたたかな光をきらきらと反射する。

お通しは洋風きんぴらごぼう。アンチョビ醤油で仕上げたというきんぴらは、粒マスタードのぴりっとした辛みがきいて、ビールによく合う。この一品で料理への期待はぐんと高まった。

今日の炊き込みごはんはアボカドとベーコン、ムニエルは太刀魚だと希乃香さんは楽しげに教えてくれる。
「ごはんはご注文いただいてから炊き上げるので、少しお時間いただきますね。今日の太刀魚、大きくてとっても新鮮ですよ! お魚って大きく育ちすぎない方がおいしいものも多いんですけど、太刀魚は珍しく大きければ大きいほど味がよくなるんです」
その話を聞きつけて、常連らしいカウンター席の中年男性が太刀魚を注文していた。
(中略)
希乃香さんはお料理に合う飲み物もいくつか挙げてくれ、おすすめに従って、菫はハーブのブレンドされたお茶、私は山椒の香りがするクラフトビールを頼んだ。
慧眼というべきか、ローズマリー風味のフライドポテトと、ルッコラとくるみとカッテージチーズのサラダに、山椒の香るクラフトビールは素晴らしく合い、ムニエルと炊き込みごはんが来る頃には、おかわりを注文していた。

「お待たせしました、太刀魚のムニエルと、アボカドとベーコンの炊き込みごはんです。太刀魚はレモンとディルのバターソースでどうぞ。炊き込みごはんは、お取り分けしますね」
太刀魚はあらかじめふたつに切り分けてあり、その気遣いがうれしかった。薄い衣をまとった銀色の肌に、黄色と緑のソースが映える。希乃香さんが土鍋の蓋を取ると、おだしと肉のうまみが調和したいい香りが広がった。色つやを増したアボカドもベーコンも、はやく食べてくれと言わんばかりに、輝いて見える。
口に運ぶと、緑の鮮やかなアボカドは、ただただ濃厚なおいしいクリームと化していた。うまみの凝縮したベーコンと、おだしと肉汁をたっぷり吸い込んだお米が、ぴかぴか光っている。菫も私もほぼ無言であっという間に一膳目を食べ終え、おかわりをよそった。
希乃香さんに見立ててもらったクラフトビールのゆたかな苦みは、アボカドとベーコンのうまみを引き出してくれ、おのずと目尻が下がる。

希乃香さんが、ガラスの小皿をふたつ運んできてくれた。みずみずしい、いちじくだった。
「あちらのお客さまのお土産です。もしよろしかったらどうぞ」
あのもみあげの男性が軽く手をあげて微笑んだ。見ればどの席でもいちじくを手にしている。後味のさっぱりした甘みはお酒のあとに心地よく、お礼を言うと、彼は照れくさそうに扉を指さした。
「気に入ったら、大通りに曲がるところの自動販売機に行くといいよ、おかわりあるから」
あの野菜の自販機のことだ。入っていたのは、いちじくだったらしい。

冬森灯著『うしろむき夕食店』から