たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

東京拘置所でもらうバレンタインチョコ『この社会の歪みと希望』

信頼している書き手二人の対談。実務家ならではの話で面白かった。
佐藤氏が逮捕される事態になったとき、外務省の中で味方になったのは女性外交官だけだった、というエピソードをイエスの最期(男性弟子は全員逃げて女性だけが十字架のもとに残った)と合わせて紹介していたのがつくづく興味深い。

「私とは、私と私の環境である」という、オルテガ=イ=ガセット(スペインの哲学者)の有名な言葉がありますが、自立支援ホームの子たちを見ているとまったくそのとおりだと思います。(佐藤)

新しい施設は、やまゆり園と違って日中はみんな働きに行くそうです。一方、やまゆり園では一日中施設にいることも多かったそうです。結局、支援の違いで障害の重さは変わる、ということではないでしょうか。(雨宮)

佐藤 たとえば、私たち(未決囚)が自費で購入できる飴はカンロ飴だけなんだけど、死刑囚はそれに加えてライオネス・コーヒーキャンディも買えるんです(笑)。
ささいなことに思えるかもしれないけど、拘置所の中ではすごく大きい違いなんですよ。飴を1種類しかなめられないか、2種類なめられるかはね。拘置所の中にいる人間は甘いものに飢えているから。
あと、ビスケット類でも、未決囚は「しるこサンド」しか買えないんだけど、死刑が確定するとリッツクラッカーも買える。
雨宮 「しるこサンド」(笑)。食べたことないです。
佐藤 それと、未決囚は拘置所の部屋でテレビを一切見られないんだけど、死刑が確定すると見られる。しかも、週1回はDVDも見られる。

佐藤 監督の岩淵弘樹さんが映画の舞台裏も含めて文章化した、同題の著作がありますね(幻冬舎アウトロー文庫)。そこから引用してみます。
「毎日の昼飯で定番となっているのが、ご飯、さんまの蒲焼きの缶詰め、食堂で無料のたくあん。米と缶詰めは母親から送ってもらったものなので、実質0円」......いつもこんな感じの食生活なわけです。
雨宮 東京拘置所の食事って、どんな感じなんですか?
佐藤 私が逮捕された最初の日の食事をいまでも覚えているけど、麦3割のご飯と、チンジャオロースと中華スープとザーサイだった。
雨宮 えっ、いいじゃないですか~(笑)。
佐藤 メニューがスパゲティだったら、サラダとドレッシングとイタリアンスープ、ベーコンがついたり......。
雨宮 なるほど、それはたしかに「拘置所の食事のほうがいい」ですね。
佐藤 しかも、土日はだいたい甘いものが出ます。土曜の昼は必ず焼きたてのコッペパンが出ました。マーガリンとジャムがついて。メインはシチューで、うずら豆を煮たのとか、小豆のお汁粉とかが出る。週に1回だけパン食なので、すごい楽しみでした。
お正月にはおせち料理が出るし、クリスマスにはケーキ、バレンタインデーにはチョコまで出ます(笑)。
雨宮 季節感、イベント感がある(笑)。
佐藤 そうです。でも、東京拘置所の食事は、1人当たり1日分240円ぐらいの低予算で作っているんです。
雨宮 1日? 1食じゃなくて?
佐藤 1日。囚人労働で作るから人件費はいらなくて、食材費だけだから。おせち料理とかケーキは、普段の食費を節約した分を回すんでしょうね。そういう特殊事情はあるにせよ、工夫次第で1日240円でも結構まともな食事ができる。『遭難フリーター』の食生活はそれよりもはるかに劣悪だったので、衝撃を受けたわけです。
雨宮 やはり収入が少ないと、どうしても食生活も貧しくなる。とくに寮を転々としているような生活だと、調理器具もあまり持てないですからね。それが路上になると、いっそう厳しいです。
たとえば、一昨年の年末、池袋の炊き出しで配食を手伝いました。ちゃんこ鍋をご飯にかけて配ったんですが、最後にご飯だけ余ったんですね。それで、希望する人にご飯だけを配ったんです。パックにご飯を入れて......。そうしたら、そこにも長い行列ができました。
「明日の朝食にします」と言っている人もいましたけど、年末に野外だからご飯はもう冷え切っているんです。しかも、並んだ人の多くは路上生活だから、電子レンジなんかもちろんない。「大みそかの朝に、冷え切った炊き出しのご飯を、おかずも何もなしで食べるのか」と思ったら、胸が痛みましたね。

創価学会の第二代会長である戸田城聖氏が、『小説 人間革命』という作品を書いているんです。(中略)根幹にあるのは、“正しいものを信仰すれば生命力が強まり、間違ったものを信仰すると生命力が弱まる”という考え方ですね。(中略)何が言いたいかというと、それと同じで、出世教とか拝金教とか、そういう間違ったものを信仰して生きていると、だんだん生命力が弱ってくるということです。(佐藤)

これ、この1年、身近な人に感じたこと。昨年の秋頃から陰謀論にはまった人が、生気を削られていくのを目の当たりにしてきた。いつも鼻歌まじりで機嫌がよかったのに静かになり、特に「7月に前大統領が復活する」と信じていたらしく、それが破られた後はさらにむっつりと人目を避けるようになり、部屋は汚れていった。前はこまめに掃除していたので、視力が落ちたのかな?と思った。

そして先日、ついにワクチンも打たないまま赤い州へと引っ越していった。その人の心酔する前大統領はそそくさと接種して「おまいらも打て!」と言ってるんですけどねぇ。キリスト教の素地のある人なので、↓ こうなったらいいと思うけど...。聖書で言えば、「悔い改め」ですね。

間違った考え方―彼の場合はネトウヨ思想―を捨てて人間として蘇生するためには、それまで拝んでいた、間違った信仰対象を自分で捨てないとダメなんですね。偶像を自分で破壊して、自分の足でそこから出て行く―そういう手順を踏まないと、きちんと蘇生できないんです。(佐藤)

佐藤優、雨宮処凛著『この社会の歪みと希望』より

装丁のセンスがそこはかとなく気持ち悪いんだけど、これは出版社の趣味なのかな...。惜しいです。