8月15日を正確に「敗戦記念日」と言っている。
主人はビールを飲んでは、ひとりサンドイッチやほかのものを食べつづけている。憎たらしい。
西湖では西湖荘にあがって食事をする。山菜料理とワカサギ。竹内さんは、西湖の、熔岩が押し流されて岬のようにつきでた黒々とした湖畔が好きだと言う。中国の景色に似ていると言う。
3人とも風呂に入ってから夜ごはんにする。東京から用意してきた牛肉、ねぎ、しらたき、焼豆腐、椎茸など、コタツ部屋でスキヤキをする。私が台所で下拵えをして運ぶと、竹内さんが味をつける。主人が手を出して味をつけると、すぐ竹内さんは「からい」と言って砂糖を入れて直す。煮えてくると「さあ、これは食べていいよ。それはまだ早い。ダメ」と言って、食べごろのを指定して教えてくれる。竹内さんの味つけは上手。いつもするすきやきよりおいしい。うちのやり方は、ずーっと間違っていたのかな。牛肉は少し紫色がかっていて、泡など出て煮えていたので、食べると誰か死ぬかな、と思いながら食べたが、味は変らなかった。「この肉、持ってくるうちに少し古くなったから、酒飲んで食べれば消毒になっていいから、酒飲め」と、主人、私と竹内さんに教えてすすめる。ゆっくりと酒を飲み乍らすきやきを食べつくし、人のわる口も沢山しゃべった。主人がコタツ部屋に眠ったあと、竹内さんは食堂で私とウイスキーを飲んでから、2階の主人の寝室へ入る。水を持ってゆくと「百合さん、疲れたでしょう。早くおやすみ。武田はお殿様だねえ」と、ふとんの中から竹内さんは言った。「はしゃいだのね。竹内さんが来たから」。私は小声で笑った。
朝ごはんは、そらまめとじゃがいもの味噌汁と粕漬のさわら。竹内さんはごはんの方と、食パンも1枚食べる。竹内家は、朝はトーストとコーヒーなのかもしれない。
昼 ごはん、茄子味噌汁、粕漬さわら、シューマイ、サラダ。
晩 ごはん、そらまめ味噌汁、粕漬さわら、きゅうりもみ。
6月7日(月)ハレ
朝から、気持のよい風が吹き上ってくる。
朝 おかゆ、東坡肉、サラダ。
夜 タンメン。
外川さんの話
◯(中略)田植には男8人と女7人で1日で植え終る。昼と3時のお茶と夜ごはんを出す。夜は5、6種類のおかずと酒を出す。さしみ、酢のもの(サバやタコなど)、鳥のから揚げ、サラダともう1種類くらいと汁物(椎茸、みつばなどいれる)を出す。3時のお茶は、生菓子を富士吉田で2千円位買って出す(河口の町にはいいのはない。吉田の菓子をだす)。
◯田植1日で1万はかかる。奥さんは田植より、御馳走作るのに、かかりきりである。田植は日当、女で1200円位。親類の手伝には、米が出来たとき米でやる。
夜 パン、ピーナッツバター、チーズ、ベーコンとじゃがいも炒め、とりのスープ。
6月8日(火)ハレ
朝 ごはん、サンマかばやき(罐詰)、味噌汁(じゃがいもとそらまめ)、わかめときゅうり三杯酢。
(中略)
昼 ホットケーキ、きゅうりとパイナップルのサラダ、スープ。
夜 ごはん、かに酢醤油、大根ととり肉の煮たの、きゅうり塩もみ。
フデリンドウの花はもう咲いていない。
なるこゆり2本咲きはじめる。
石和の甲斐路荘という、高級でないところに行く。ここは1日200円で、小部屋が貸切りで、200円の中にお湯銭も入っている。食事は外から、ラーメンをとる。酒もないから、持込歓迎で、1日湯に入って、ごろごろしている。180円は大部屋だが、自由がないから200円の方がみんな好きで、20円余計出して入る。
朝 赤飯、ひらめ煮つけ、佃煮。
夕 ごはん、豆腐みそ汁、はんぺん、わさび漬、野菜炒め。
勝手口のコンクリートのふちに沿って、月見草とノハナショウブを植える。
朝 ごはん、豆腐みそ汁、卵焼、のり、大根おろしをたくさん。
(中略)
夕食 ごはん、肉の煮こみ、くだもの。
朝 駅弁。
昼 持ってきた鮭入りおにぎり。
夜 パン、とりスープ、コンビーフとじゃがいも、サラダ。
今日は朝から降ったりやんだり。
朝 ごはん、また、コンビーフ、スープ、納豆。
昼 パン、牛乳、ゆで卵。
夜 すいとん(茄子、ねぎ、ちくわ入り)。
午後、講談社佐久さんより電報「シンブンレンサイイタダキタシ」
今日は箱のように大きな伊東静雄の伝記をずーっと読んで、そのあとギターを弾いてばかりいた。お菓子を持ってこなかったので、我慢をしているためにそうなっていた。この次は、東京からやっぱり持ってこなくちゃ。お菓子を持ってこなかったのは、はじめてで、ウリばかり持ってきたので、そればかり食べていたせいか、下痢している。胸がつかえている。
「うんこビリビリよ」と言うと、「俺は病気の女は大キライ」と言う。憎たらし。
出がけに作ってきた焼きにぎりで朝食すませる。後、昼寝。
関井さんが来て、勝手入口ドアより雨がふきこむので、ワク木をいれる。持ってきたビーチパラソルの具合よろし。
昼 ごはん、牛肉煮こみ、佃煮。
夜 パン、バター、スープ、プリンスメロン、なす中華風炒め。
草も木も、ますます繁る。
7月14日(水)曇ときどき晴
8時朝食 ごはん、味噌汁(いんげんとじゃがいも)、わかめの酢のもの、ゆで豚。
(中略)
昼 ごはん、粕漬、きゅうりもみ、夏みかん。
勝手口のドアにニスをかける。
外川さんは腹痛で元気がないのか、選挙でうまくないことがあったので元気がないのか、あまり元気でなかったが、しまいにはチーズを食べて、ウイスキーも少し、ビールも少し飲んで帰った。
朝食は新しく買ったトースターで焼いたパンとスープときゅうりとパイナップルのかんづめとソーセージ。昼食はぬき。私は5時間ひるねした。そして父とポコと散歩。夜食は、はんぺん、キャベツのいためもの、つくだに。私と母はお茶漬というとりあわせ。
そのあと、父は寝て、母はあとかたづけ。私はちょっとだけ勉強。そのうち、母がカーテンをつけるといったのでいっしょにつけた。意外とよかった。
トーストを食べて、何もかも放りだして、部屋に入って眠る。
(中略)
夜 おじや、卵を入れる。ハンバーグステーキ、サラダ。
夜、濃霧。
朝 ごはん、ひらめ煮付、のり、うに、コンビーフ。
昼 ふかしパン、紅茶。
夜 チャーハン(百合子、母)、おかゆ(主人)。たこときゅうり酢のもの、ベーコンをおかゆに入れる。
朝がたは霧が深かった。
昼すぎ、列車便で原稿を出しに河口湖駅へ下る。
そして、ごった返しの奥の座敷まで上りこみ、お茶と漬物をたべて、工事を一通り眺めまわしては帰って行く。
管理所には2組ほど客があって、会社の寮にきたらしい人が「かに罐があるから、マヨネーズを買ってかけて食べればいい」と、相談していた。そして、インスタント味噌汁はないか、と聞いていた。
7月25日 晴
暑くなってくる。室内は25度。
朝ごはんは、パン。
午前中、花子は手すりのペンキ塗りをしたあと、熔岩にペンキを塗って人形を作っている。髪の毛は松葉。
7月29日(木)晴
朝 おかゆ、茄子にんにく炒め、さつまあげ、大根おろし、味噌汁。
昼 ごはん、ロースハム1枚ずつ、やきのり、卵。
夜 おにぎり、コンビーフ(花)、冷やっこ、ババロア。
風呂をわかしかえし、ポコを洗ってやる。
運転手さんはビールを飲んではいけないので、テラスのパラソルのかげで、トマトやそのほかをひっそり食べていた。
7月30日(金)快晴
朝 花、百合子はトースト、スープ。主人はコンビーフとごはん。
11時半、山中湖へ泳ぎに行く。
(中略)
昼はやきおにぎり、サラミソーセージを包んできて岸で食べる。1時間ほど泳いで帰る。帰りがけ、ビール1ダース、チーズ、いか、茄子、スイカ、2010円。うちへ着くと、管理所に電話があったからくるようにとのことで、管理所へ行く。谷崎[潤一郎]さんが亡くなられた知らせ。告別式は8月3日后2時よりとのこと。
夜 ごはん、茄子しぎやき、しらすと大根おろし。花子は冷し中華。
昼はおにぎりとチーズを食べる。
(中略)
帰り、牛乳をのみ、鳴沢村口より上って帰る。
ガソリンとオイル代、1995円。
みんなで西瓜を食べた。
夜 ごはん、精進あげ(さくらえびとさつまいものかき揚げ、なす、ピーマン)。
夕方から細い三日月のすぐそばに星が一つ出ている。
夜 豚肉つけ焼き、ごはん、サラダ、きゅうりといか三杯酢。
今夜も西瓜食べた。
スバルライン入口で生ジュースというの、2本で60円。これはまずい!! 今度から買ってはいけない。
酒屋のおばさんは、貝の干したのを3切れくれて、しゃぶれという。花子と一切れずつしゃぶる。管理所に、留守となるから、明日の牛乳は冷蔵庫にいれておいてくれ、と頼む。
(中略)
ポコは、車が門につくと、すぐにせっせと迎えに上ってきたので、酒屋でくれた貝の一切れをやる。
昼 ごはん、残りのコンビーフ、納豆と海苔。
さしみ、トマト、酢のもの(いか、くらげ、さば、たこ)をビールと一緒に運んできてすすめられる。
湖の見えない席で、西瓜とジュースを4本、外川さんは注文してくれた。
8月6日
正午、石工の小父さんがひるの休みに、そばやうどんを手打にするときにこねる、木をくりぬいたこね鉢を持って庭を下りてきた。この辺では、とうもろこし粉をこねてダンゴにして食べるが、今では、ほとんど使わないという。千円お礼をする。
(中略)
私は、疎開しているときに食べていたとうもろこしの粉の団子が、とても真黄色で、おいしかったことを話した。
梅の木と山りんごにちっかりん肥料をいれる。
朝 トースト、とりのスープ、じゃがいもとベーコンのバター炒め。
昼 ごはん、サバ干物、たらこ、納豆。
夜 のりまき(かつぶし入り)、卵やき、大根おろし。
朝 ホットケーキ、サラミ、スープ。
昼 いもがゆ、クサヤ干物。
夜 チキンライス、かぼちゃ煮たの、ゼリー、キャベツときゅうり塩もみ。
朝 ごはん、茄子中華風いため、大根おろし、しらす。
昼 ふかしパン、紅茶。
夜 コロッケ(鮭かんをいれたら、主人まずがる)、ごはん、トマト。
池田前首相がガンで亡くなった。ほかの人は死なない。
そのほか、東京から持ってきたもの、ひらめ切り身(昨日煮ておいた)、生鮭、ロースハム、黒パン、ようかん、サラミ、そのほかお中元に届いた残りのかんづめや菓子、トイレットペーパーなど。
朝 ごはん、ひらめ煮付。
昼 サンドイッチ、スープ。
夜 ごはん(おかゆ)、また、ひらめの煮付。じゃがいも炒め、鮭バター焼(主人)、キャベツ漬けもの。
8月15日(日)晴
朝 ごはん、のり、卵炒め、大根おろし。
昼 すいとん(茄子とねぎをいれる)。
すいとんは、茄子のすいとんが一番おいしい。
(中略)
帰りみち、醤油のおだんごを買う。
(中略)
夜、おだんごをたべた。
今日は敗戦記念日だった。
8月16日(月)
主人、花子、焚火をながくながくしていた。
おにぎりを食べてから、マウント富士[ホテル]へ上って、ホテルのプールの使用料を聞いてみる。大人500円とのこと。湖はタダだからな。藻が沢山のときや水の汚ないときのほかはめったなことでは来ないぞ。マウント富士からの眺望は素晴らしいが、すぐ飽きてしまう。ホテルは空いていて、ボーイはぼんやりしている。
朝 トースト。
昼 おにぎり。
夜 サンマを焼く。
明朝3時に起きて東京へ帰ると主人は言う。弁当を作り、ゴミのしまつをする。
岸の砂地の空いたところで、ブラスバンドがジャズを鳴らしていた。間の抜けた音が空中に拡がってゆく。おにぎりを食べて帰る。
夕方から、納戸の中にとりつける机を作りはじめたら、夕飯の支度が遅くなって、9時にごはん。
夜 ふかしパン、やき肉、きゅうりといかの酢のもの、スープ。ふかしパンの中に、主人のだけ、ベーコンを細かく刻んでまぜてみる。
夜は、いなりずしを作る。明日の焼きにぎりを作る。また1年経つまで、夏は終り。
昼 トースト、サラミ、キャベツ。
昼 きつねうどん。
夜 串カツ、ごはん、たまねぎサラダ。
◯天皇陛下がみえたときは、熔岩とコケモモのジャムと献上した。以上。
Sさんは、夕方になってもう一度、中央公論からの速達を持ってきてくれた。
夜 海苔のおにぎり、茄子の炒めもの、卵焼、大根おろし。
河口湖のスタンドで、フラッシャーの前左のランプが切れているのを取り替えて貰い、その間、すすめられて店の中に入って、お茶を飲み、いなりずしを食べる。わるいから土産用の登山杖の形をしたようかんを買う。白灯油1罐(350円)も買う。
(中略)
ポコは、馬肉を食べて元気よくなる。風呂をわかす。
今日はお彼岸のお中日だ。
朝 いもがゆ。
昼 いなりずし。
晩 ごはん、さつまあげ、ハンペン、みょうがのすまし汁。
朝 ごはん、かき玉みょうが汁、茄子炒め、コンビーフ。
昼 手打うどん(豚肉入り)。
夜 ごはん、サンマ、さといも甘煮、がんもどき。
わらび餅を作って、おやつにする。うまくもまずくもない味であった。
昼 パン(サンドイッチ)、とり肉スープ、ツナの罐詰と大根おろし。
私だけ眠っていると、大岡[昇平]さんの御一家が管理所のジープで来られる。
(中略)
夜 東京からもってきた火鍋子で、羊の肉を水たきにする。白菜、椎茸、羊肉、ねぎ、冬菜を入れる。羊肉は細く切った方がおいしい。冬菜も摘みたてだからおいしい。
庭の羊歯は黄色くなった。くまいちごだけが、青々と、黒いほど青々としている。
大岡さんはぶどう酒を下さった。帰りがけに奥様が「ここに置いてまいります」と小さな声でおっしゃった。もの静かな、和服の似合う人。こんな優雅な美しい人、私は知らない。
サンマを買った店のおばさんが、砂糖のついた小さいおせんべいを手に一杯つかんで、くれるという。紙もないので断わったが、上衣のポケットにじかにおしこんで入れてくれた。
朝 ごはん、ちくわ、味噌汁(里芋といんげん)、生卵、のり。
昼 キツネうどん。
朝 ごはん、豚つけやき、もやし炒め。
昼 ごはん、ベーコンと豆腐と白菜で湯豆腐をする。
3時ごろ、一人で月見草の種子を採りに御胎内の近くまで行く。そのついでにガソリンを入れに下る。ガソリン1500円。
スタンドで洗車サービスをしてくれるというので、その間、お茶を飲む。先客に、九州弁のおばさん二人、若い女、子供、六十位のおじさん、若い男、男の子一人の組が熔岩菓子[熔岩そっくりに出来ている砂糖菓子]を食べていた。食べ終ると、ながい間、売れずに掛かっていた富士山の大きな額を2枚買って、すばらしい大型車に乗りこんで帰って行った。九州から1週間かかって旅行してきたのだという。
夜 ふかしパン、とうもろこしスープ、羊のコンビーフ、きゅうりとキャベツサラダ。
西湖荘食堂でカツ丼(主人)、トースト(私)、盃3個150円。
罐ビール2本200円。
(中略)
西湖荘で昼飯。泰淳はカツ丼、百合子はトーストと紅茶。キノコの形に木をくりぬいて作った盃、主人3個買う。
朝 ごはん、味噌汁、塩鮭、卵。
昼 カツ丼、トースト。
夜 ごはん、コンビーフ、チクワとキャベツ煮付。コーンスープ。
河口湖駅前の店で、おでん2皿、月見そば1杯をとる。おでん1皿50円。いか一切れとちくわ二切れとコンニャク二切れ入っている。そばは、おばさんが白い丼を持って駅売りのそば屋に駆けて行き、そば玉をもらってきて鍋で作っていた。
寒いので夜、段戸で火を焚く。
朝 ごはん、味噌汁、コンビーフ、海苔。
昼 そば、おでん。
夜 ごはん、ベーコン、白菜、じゃがいも、ちくわの焼いたの、やきうに。
明朝、早く帰ることとなる。
朝昼兼用の食事 パンとスープ。
ゆっくり昼寝をするつもりで、その前に夕食のおでんをしかけていると、沢の向うの家に工事に来ている石工の人たち、女2人男1人、昼休みに遊びにやってくる。
(中略)
暗くなるまで眠る。
夕食 おでん、茶飯、塩鮭。
朝 トースト、ハム、スープ、サラダ、鮭とキャベツ炒め。
昼 いもがゆ、いわし干物、大根おろし、卵焼、コンニャク味噌煮。
夜 磯辺巻、りんご。
コンニャクを買おうとしたら、1枚が座布とん半分ほどの大きさなので、おどろいて8分の1ほどに切ってもらって買う。「田舎はこれが1個なのよお。小さく切るのは、これ位まででかんにんしてえねえ」と言うので、8分の1にしてもらったが、それでも、おでんに入れたあと、味噌煮にして、まだ余る。黒くて草みたいなものが入っていて、おいしいような気もするが。
西日のあたる中で、りすの餌箱を作って、とうもろこしを入れて松の木にかけた。
朝 ごはん、ハムエッグ、味噌汁。
昼 ごはん、サンマ干物。
夜 トースト、カレースープ。
いつも列車便を出してから、駅の向い側の店で、罐ビールを車の中で飲む分だけ買うのだが、駅の売店にもあることが判って、今日は駅の売店で2本買う。よく冷えていて2本150円であった。これからは向い側の店では何も買わないことにした。
(中略)
帰り、スタンドで売っている山芋を買うと、おじさんは「タダでやる」といってきかない。わるいから、なめ茸の瓶詰2個、ごぼう味噌漬など、買ってしまう。すると今度は、おでんを2皿「タダでやる」と言う。タダで食べる。おじさんは、そばに椅子を持ってきて腰かけて話をする。おじさんのおかみさんは、今日は東京のナントカ会館に遊びに行っているそうだ。おかみさんは昨夜は嬉しくて嬉しくて眠れなかったそうだ。
(中略)
朝 ごはん、ローストビーフ、おでんの残り。
昼 ごはん、白菜と豆腐とベーコンのお鍋。
夜 カレースープ、手製クッキー。
夜 ごはん、塩鮭、むしがれい、味噌汁。
ポコにハムの炒めたのをやる。
今日は車から降りないで「すぐ上って行く」というと、おじさんはおでんを二人前、銀紙のお皿によそって、箸を2ぜんつけて窓のところへ持ってきてくれる。雨で、いつもの十分の位一しか客が来ず、おでんが余ってしまうので、サービスしてくれたのだ。
(中略)
おでんをこぼさないようにゆっくりと走って、赤松の林のところに停め、おでんを食べる。コンニャク、チクワ、サツマアゲ、コブ、卵があった。ゆで卵はおでんの汁が何日もしみこんでいるのか、燻製のようでおいしかった。
(中略)
昼ごはんの、お餅を食べおえたころ、勝手口で「ごめん下さい」と小さな声がする。潮出版の志村さんであった。12時半の電車で、座談会のゲラ刷りを持ってきた。ビールとかに罐、チーズ、サラミを出して、そのあとお腹が空いているらしい様子なので、海苔をまいたお餅をだす。
車で駅まで送る。霧が深くなってきた。
朝 おかゆ、かにたま。
ひる やき餅、おでん。
夜 ごはん(たらこと鮭の茶漬)。
明朝帰るので、片づけを終ってから、車の中で食べるおにぎりをつくる。
河口湖の駅に寄り、駅売りのうどんを食べる。私は素うどんにしてもらう。主人は天ぷら(精進揚げが入っている)うどん、2杯120円。痩せた赤い顔のおばさんが、ごぼうを沢山千六本に刻んでいる。その仕事の合間にうどんを作って客に出している。
(中略)
夜 ごはん、シューマイ、白菜のつけものを油炒めする。味噌汁(豆腐、つまみ菜)。
蒔いた冬菜は、20センチの大きさに育った。それをつまんで味噌汁の実に。
トーストとスープで遅い昼食をたべ終る頃、スタンドより若い衆2人灯油を届けにくる。この家は、すぐわかったという。かんづめの梨と紅茶を出して一服してもらう。はじめはおずおずしていたが、すぐ暖炉に薪を入れる手伝いなどして、馴れてしまう。
(中略)
山芋一箱(6本入っていた)、スタンドの主人からだといって置いて行く。キズのある方の人は、紅茶だけ飲んで、梨には手をつけないで帰った。酒しか飲まないらしい。
朝 ごはん、さつまあげ、味噌汁。
昼 うどん、トースト、スープ(とり)。
夜 ごはん、とろろ汁、鯖の干物を焼く。
この頃、1日1度はとろろ汁を作って食べる。主人は歯が少なくなったから、のどの具合がいいそうである。
11月20日 晴
昨夜からダンロのオキで豆炭を熾し、アンカを2つ作る。
今朝は風が冷たい。正月に吹く風のようだ。
朝 ごはん、コンビーフ、大根おろし、のりまき餅、スープ(玉ねぎ)。
(中略)
山芋を買いにスタンドに寄る。おじさんは本のお礼を言って「山芋は呉れてやる。いっぺんに沢山呉れてもうまくなくなるから、チョクチョク呉れてやる」と、大きいのを2つぶら下げてくる。
(中略)
昼 肉うどん。
夜 ごはん、豚しょうが焼、コロッケ屋のコロッケ(百合子)。
明朝東京へ帰るので、弁当の焼きにぎりを作る。ポコは早めに馬肉を食べる。
急いで作ったドーナツとおせんべいで、一服してもらう。
(中略)
朝 ごはん、粕漬の鮭、大根味噌汁、サラミ。
昼 トーストパン、オムレツ、キャベツ、スープ、とろろ汁。
夜 のりまき餅、白菜漬、とりスープ。
大分時間をとられてしまったので、途中、ツアールインという看板の店で、卵入りうどんを頼んで食べ、みかん2袋買う。私はコーヒー牛乳も飲む。
3時着。入口に松の杭が沢山積んである。うちの庭で使うのらしい。
お赤飯をふかし、めざしを焼く。それと、わさび漬など。
一番はじめに肉屋に行く。肉屋はまだ肉をウインドーに出していない。庭をやりにきている人たちのお茶うけに、串カツでもしようと、豚もも肉400グラム、430円買う。
次にビール屋に行く。ビール三打とさつまあげ2枚、ハイミー、豆腐、苺ジャムを買う。4950円。「苺ジャミ(原文傍点)が食べたい」と主人が言うので買った。おばさんは自家製の白菜漬半分と、カライリ南京豆1袋を呉れた。
(中略)
真赤な頰をした若い男が3人、事務机に向って四角い弁当箱をひらき、顔だけこっちに向けて、口に頰ばったまま返事をする。お弁当がおいしくておいしくて噛みしめているので、一刻も席を立ちたくない様子なので、私は遠くの入口から大きな声で、どこが悪いかを説明し、明日までに直してくれるように頼む。
(中略)
仕事場にいるおかみさんは、小さい男の子と2人で、うどんだかそばを、茶わんの熱い汁に浸してすすっているところだった。おかみさんは食べかけのまま、表へ出てきて、建具屋さんの自宅までの道を地面に指で書いて教えてくれる。私も熱いうどんが食べたくなる。おかみさんは煮干の匂いのする咳をし乍ら話すので、食べたくなる。
(中略)
うちへ戻り、すぐ昼食を作って食べる。
3時のお茶のころ、庭作りの人たちは杭をとりにいっていなかった。夕方になって戻ってきた。寒くなったので、食堂に入ってもらいビールをぬいて串カツを出す。暖炉に火を焚きはじめると、急に馴れてきて遠慮せずに食べたり飲んだりする。
その人たちの話では、来年4月にいんげんとじゃがいもを植え、5月か6月にきゅうりの苗を下ろせば、買出しにゆかずに結構食べられるようになります、とのこと。
今日は人が出たり入ったり、犬が吠えるし、いつも外で出すお茶を食堂でしたので長びいた。原稿が書けなかったようだ。
朝 おこわ、卵焼、大根おろし、さといも味噌汁、わかめと玉ねぎのサラダ。
昼 トーストパン、とりスープ、ハム、ジャム。主人、待望のジャミ(原文傍点)を一杯つけて食べる。
夜 ごはん、白菜、ベーコン、豆腐の鍋。
「千葉の芋だよ」といって、おばさんはその人たちにフカシ芋をザルに一杯、サービスしていた。80歳位のおじいさんは石油を石油罐に一杯買いにきたのだが、ストーブにあたり、お芋を沢山食べて、ゆっくりと話しこんでいる。
(中略)
台所で、主人が白菜を山のように切って、鍋ものの用意をしていた。買ってきた椎茸も入れて、ベーコン、残りのハム、肉、ねぎ、白菜の鍋。ラーメンも入れる。ビールを出し、庭の3人と関井さんをよんで休んでもらう。寒くなってきたので、大喜びで食べてゆく。
(中略)
夜 トーストパン、スープ、すじこ、サラダ菜とわかめと玉ねぎのサラダ、紅茶。
朝 ごはん、鯖干物、大根おろし、味噌汁、海苔。
(中略)
吉田の町で、職人さんのお茶用に、いなりずし、ダンゴ、タコ、みかん買う。
(中略)
タコは近海の小ダコだからおいしいとすすめられた。切ってもらう。
(中略)
スタンドのおばさんは、羊かん一切れ、私の手のひらにのせてくれて、右手にお茶をもたせてくれてしまう。
山に戻ると12時半。皆、お昼を食べに管理所へいっている。午後から天井のベニヤを張りだし、4時までかかる。これに3人かかり、あとの2人はトラックでバラスを運んでは、庭のぬかるんだ道にいれる仕事をする。
鮭のコロッケを揚げ、いなりずし、酢ダコ、醤油ダンゴ、ビールを出して一服してもらう。酢ダコは1人を除いて皆大好きで残らず食べた。急いで作ったコロッケが大きすぎたので、いなりずしの方はあまり食べない。
夜 山芋をおろして卵をいれて食べる。それと残りのいなりずし。
武田百合子著『富士日記』