たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

富士日記(6)にわとりは1羽250円

一度だけ、「食」のロジスティクスについて学ぶ体験学習で鶏をしめるところからチキンカレーを作ったことがある。察した鶏がおののきの声を上げたりしてグループごとに1羽をころすのは阿鼻叫喚だったのだが、恐ろしいことに食べられなかった人は一人もいなかった。ごく素人でも首から血をぬいても平気になってしまうのだ。羽をむしるときなど、「お湯をかけるとスイスイ抜けるね〜」と楽しい感じすらあった。世界じゅうで誰かがやってくれている仕事。

夕陽が遅くまで射しこんで、久しぶりに陽に一杯あたりながら、昼と夜兼用の食事をとる。錦松梅入りのやきにぎり、サラミソーセージ、しそとしょうが塩づけ、タラコ、味噌汁。

山にくるとお茶がおいしい。お茶がおいしいので、ごはんのあと、クローバーで買ってきたアマンドパイを一切れずつ食べ、まだ、お茶がおいしかったから、チョコレートとポテトチップを食べる。ポコには魚のソーセージ1本。

 

朝ごはん ごはん、うに、海苔、かれいの煮付(東京で煮て持ってきた)。

(中略)

ひる パン(トースト)、バター、ジャム、ハム(かんづめをあける)、玉ねぎスープ、サラダ。

3時、紅茶と菓子。

(中略)

4時頃、さつまいもを電気鍋で焼いて食べる。私は食べたくなかったが、主人の提案でやる。しかし、一番沢山食べたのは私。

夜 錦松梅をいれた、海苔のおにぎり2個ずつと味噌汁。

 

3月26日(土)晴ときどき曇

朝 ごはん、海苔、うに。

ひる頃、花、百合子、車で野鳥園へ行く。スタンドで車に水を入れる。水しか入れないのに、アイスクリーム2個くれるので、ようかん(100円)買う。

 

夜 やきにぎり、中身は、うにのと、錦松梅のと、梅干のと。もやし味噌汁、煮豆。

 

3月27日(日)晴

朝 ごはん、うに、海苔、卵、鯖の味噌煮。

11時、3人とも車に乗る。番茶を魔法水筒につめ、ゆで卵4個包んで持つ。

(中略)

スタンドのおばさんは、アルマイトの弁当箱におでんを入れてくれる。こぼさないように走って、赤松林のところで食べる。

夜 ごはん、豆腐味噌汁、まぐろ油漬、もやしとわかめ三杯酢、ふき佃煮。

 

朝 ごはん、うに、海苔、卵、いか煮付、玉ねぎ味噌汁。

(中略)

ひるごはん用に、のりまきにぎり6個(梅干、錦松梅入り)と、卵焼、ふき佃煮、サラミ、番茶を仕込んで、11時にドライブに出る。

(中略)

外川さんの家には親戚らしい人たちがきていて、こたつでそばを食べているらしく、音がしていた。外川さんの家では、人がいるときは、大ていのとき、そばを食べている。その音がしている。

(中略)

4時ごろ、お好み焼(やき豚、ねぎ、桜えびを入れる)を電気鍋でする。

夜 おかゆ、ふき佃煮、なす油いため、梅干、バター。花子は電気鍋でヤキソバを自分で作る。新キャベツをいれたら、おいしかった。食後、夏みかんを食べる。

 

3時のお茶代りに、ブルドーザーとジープの人3人に、やきそばを作って、ビールを出す。

(中略)

9時半に赤坂の部屋の椅子にこしかけた。主人「宮川でうなぎとろう」と言う。うなぎ(泰淳)、三色丼(私)、きじ丼(花子)をとって食べた。

 

今日はバカに私は空腹で睡気がくる。途中のドライブインに、あんパンでも買おうかと寄ったらパン類はない。食堂の方へ行けばパンを食べさせている、という。何にも買わないで「元祖へそまん」まで走り、へそまんで一番小さい折り150円のを買う。すぐ食べるからというと、湯気の立つのを折りに詰めて、紐をかけないで、輪ゴムをかけてくれる。観光バスが何台も停っていて、その車掌も2人、へそまんを買っていた。その人たちは、おとくいさんであるらしく、150円のを2箱で200円にしてもらっている。車に戻って4個食べたら気が落ちつく。

(中略)

おこわをふかして、牛肉、ひらめ、海苔で食べる。私は大根の味噌汁を2杯のんで、らっきょうを10個ほど食べる。

 

朝ごはん ごはん、海苔、うに、ひらめでんぶ、牛肉の煮たの、味噌汁。

(中略)

ひる お好み焼(中味は、さくらえび、牛肉の刻んだの、ねぎ、青のり)、スープ、キャベツ炒め。

そのあとで、へそまんの残りをふかして食べる。

(中略)

夜 ごはん、塩鮭、さつまいも味噌汁、夏みかん。赤坂もちを食べる。黄な粉の残りをポコは喜んでなめる。

 

朝 トースト、スープ、キャベツ巻。

ひる グリンピースとバターの炊きこみ御飯、佃煮、味噌汁。

ポコは、この御飯もわけて貰ったし、キャベツ巻も喜んで食べた。

 

夜 やきそば(キャベツ、牛肉、桜えび)。

私は一皿食べたあと、二皿めを食べていたら、急にいやになって、残りは明日の犬のごはんにやることにする。「百合子はいつも上機嫌で食べていて急にいやになる。急にいやになるというのがわるい癖だ」と主人、ひとりごとのように言ったが、これは叱られたというおkと。

(中略)

この頃、やきそばやお好み焼をするので、桜えびを沢山使う。今日納戸の整理で出てきた、かびた桜えびに熱湯をかけてざるにとり、夕方西陽のあたっているテラスに出して干してみた。

 

4月11日(月)くもり後氷雨、夜は雪

朝 ごはん、大根味噌汁、たらこ、のり、卵。

ひる カレーライス。

夜 ぶどうパン、コンソメスープ、山芋のとろろ、夏みかん。このぶどうパンは、ただのぶどうパンではない。とてもおいしいぶどうパンだった。

干ぶどうが、プクプクふっくらとしていた。

朝から霧がおりてきている。家のまわりを霧が巻いてゆっくり動いている。

(中略)

ポコは夜のとろろを待ちかまえていたらしく、残りをぱくぱくと噛むようにして食べてしまった。

8時、主人眠る。

私は、昨日の桜えびの洗って干したのを、またもっと、ストーブのそばで乾かしていつうち、食べたくなったので食べてしまった。

 

朝 カレーライス(泰淳)、お好み焼(百合子)。

(中略)

ひる グリンピース味つけ御飯、さんま干物、くらげ酢のもの、きゅうり。

夜 トースト、スープ、やまいものとろろ、鯵油漬。

ポコは珍しいものずきであるから、とろろを食べ、トーストのきれはしをたべ、鯵を食べ、舌なめずりをして満足した。

明日、帰る予定。

 

おばさんは、漬物を持ってゆけという。すぐ食べられるようにしてやるから、といって、洗って刻んで折りに入れて、新聞紙に包んでくれた。沢わんである。「この次は菜ッ葉のをくれてやる、それもすぐ食べられるようにしてくれてやる」と言った。すぐ食べられるようにというのは、刻んでくれることだった。

(中略)

夜 早めにごはんを食べる。味噌汁(新じゃが)、スタンドでくれた沢わん、ひらめのでんぶ、おこわ。

 

運転手にバームクーヘンと紅茶を出す。長く待たされて、ふくれっ面をしていた。

(中略)

昼 お好み焼とスープ。

(中略)

夜 グリンピースのバター味つけ御飯、塩鮭、味噌漬を刻んで、おかかをかけたもの。のり。

ポコはグリンピースの御飯を大喜びで食べる。動物が下を向いて御飯を食べているとき、その頭を撫でていると気が和む。しゃがんで動物に御飯をやるときが好きだ。

夜、星空。

 

外川さんはポリ袋のわかさぎをくれる。いまは、わかさぎの小さなときなので、大きなのを選ってきたという。湖畔の大石部落の先で、奥さんの兄さんが曳いていた網から買ってきたらしい。天ぷらの用意をする。外川さんはビールをすすって、わかさぎを食べながら「湖畔は今日か明日が桜の満開だ。東京の上野や飛鳥山の桜は大したことない。東京の桜は花の色がへんだ」と感想をのべる。昨夜は山を下りてから消防の寄合いがあって、馬肉のバーベキューをした。盛岡からきた特上馬肉、100グラム85円のを6キロ買って、油をしいて、その上で焼いてから、バーベキューソースというのをつけて食べた。20人ばっかでやった。「馬肉はさしみでもバーベキューでも、何でもかんでも、俺(う)ら、好きだ」と、その肉の味を思い出しているように語る。外川さんの天ぷらの食べ方は、汁の中に5匹ぐらい、ギューギューにおしこんで浸してから、しばらくして5匹一ペンに食べる。

そのほかの今日の外川さんの話

◯にわとりは、この辺では1羽250円で買える。それをむしって4つ位に切って、からあげにするとうまい。

武田百合子著『富士日記』より