たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

富士日記(15)昭和41年の暮れ

小学校の同級生に伊達巻店の娘さんがいた。

卵焼きだけで商売になるなんて...と不思議に思っていた。卵焼きに限らず、子どものシンプルな目から見て「なぜこれだけで生活していけるの?」な仕事はいろいろあるな。

とりあえず年末は家の手伝いで忙しそうだった。今も繁盛しているといいのだが。

12月8日(木)うすぐもり後晴
6時半起床。
朝 ごはん、おでん、ハム、卵、のり、わさび漬、パイナップルのゼリー。
(中略)
私の昼食は富士宮のパン屋で買ったクリームパンと甘食と牛乳。主人のカレーパンも買う。
(中略)
夜 とりの水たき(ベーコン、とり、白菜、豆腐、椎茸、ねぎ)、ごはん、煮豆。

12月9日(金)晴
朝7時起きる。
朝 ごはん、ねぎとさつまいもの味噌汁、豚肉つけ焼。
(中略)
3時に帰る。今日もカレーパンを買った。
(中略)
夜 ごはん、かにコロッケ、ピーマン炒め、キャベツ酢漬。


朝 ごはん、豚肉つけ焼と玉ねぎ炒め、のり、卵、味噌汁、佃煮。
(中略)
お茶と一緒にパンも頂く。そのパンは、間にバナナの匂いのするクリームが入っていて、何とも奇妙な味だが、お腹がすいているので、おいしい。
(中略)
夜 ごはん、納豆、しらす、味噌汁、いわしの煮たの、大根おろし。
明朝東京へ帰るので、残りものを食べてしまう。ドライイーストがあったので、パンを少し焼いてみる。

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夜 のりまき、餅のつけ焼、キャベツを入れたかき玉汁。
(中略)
明日の味噌汁を作ってしまう。

朝 味噌汁(さといも、キャベツ、卵入り)、ごはん、粒うに、大根おろし、のり、佃煮。
竹内家からもらった佃煮のつめ合せは、おいしく評判よし。
(中略)
酒屋では歳暮の品にのし紙をかけるのに忙しい。息子は、かんビールやうどんの配達や仕入れに、私がいる間に3度も車で出かける。昼飯のほうとうを食べかけては出かけなくてはならず、のびて冷たくなってしまったらしく「もうこれ以上おいたら喰えなくなるからな」と言って、客をかきわけて、座敷に駈けこんで食べはじめた。
タオル2本と湯呑み1個を歳暮にもらい、白菜の漬物も少しもらう。
(中略)
夜、うどん玉をサラダオイルで炒める。ベーコンと玉ねぎを入れた。電気鍋を食卓に出して、炒めるそばから食べた。
(中略)
食堂に入ってもらってビールを出す。おじさんは一升びんの焼酎をまぜて飲む。小林さんは酒もタバコも飲まない。船津一の真面目な遊ばない人だそうである。いためうどんをだす。おじさんは、はじめ遠慮がちだったが、だんだん腰をすえて飲みだす。

朝 ごはん、コンビーフ、大根味噌汁、卵、佃煮、のり。
昼 パン、バター、ポタージュスープ、佃煮。
(中略)
夜 ごはん、コンビーフ(花子)、ごはん、さつまあげ、大根おろし(泰淳)。朝の味噌汁にほうとうを入れて食べる(百合子、泰淳)。

駅に寄って昼代りのそばを食べる。
(中略)
昼 ごはん、ビーフシチュー(花子、主人)、さつまあげ(私)、佃煮、卵。
(中略)
夜 うどんバター炒め(ベーコン、玉ねぎ入り)、あとでコーヒーを入れた。
うどんに入れる玉ねぎを切ると、中まで凍っていてアイス玉ねぎであった。
今朝は、仕事机の上に置いてあった罐ビールが凍って、シャーベットのようになった、と主人の話だったので、今日はびんビールを買った。仕事部屋は天井が高いので、暖炉のある食堂から入ると、牢屋の如き寒さである。
味噌汁を作っておく。軍手、靴下の洗濯。

9時朝食 ごはん、わかめとねぎ味噌汁、卵、じゃがいもと鮭の油炒め、佃煮、のり。
(中略)
肉屋で福引券をもらったので、角のくじ引所に行くと、等外2本でサイコロキャラメルを呉れた。
(中略)
金物屋でカルメラやきセットを買う。110円。
(中略)
2時山へ戻る。
昼 トーストパン、牛乳。
正月飾りを仕事部屋の入口にかける。
風呂をたてて、早めに入る。
夜 ごはん、肉つけ焼き、大根とさといもとさつまあげ煮たの、キャベツ酢漬、すまし汁(のり、しょうが、梅干を入れた)。
(中略)
カルメ焼をストーブの上で花子とする。
今日買った口紅は、うちへ帰ってつけて鏡でよく見たら、似合わなかった。

12月31日(土)晴のちくもり
朝 ごはん、大根とさといもとさつまあげの煮たの、のり、うに、鯖味噌煮(主人だけ)。
昼 パン、ハム。パンを食べたくない主人だけ、かけうどん。
(中略)
午前中、チョコレート入りケーキの台を焼く。午後から生クリームを作って、台の上とまわりに塗りつける。台の上の飾りは花子がつけた。花子は残った生クリームで、ポコの食器皿の中へ花型に押し出して、ポコにもデコレーションケーキを作ってやる。犬は嬉しそうに、少しずつ食べる。
(中略)
改源と水筒のお湯を持ってゆく。昼飯に食べたハムが冷たかったので、昼ごはんのあとすぐ悪寒発熱して、あわてて2階へ上って黙って寝ていたという。熱が大分ある。「冷たいハムが胃に入って、胃が風邪ひいたかなあ。風邪は肺がひくと思ってた」というと「朝方のくもり空の散歩のしすぎもある。それとビールの飲みすぎ」といって、ふとんをかぶってしまった。頭と肩のところにタオルをふかふかに巻いてやる。
夜 卵、白菜、ねぎ、キャベツ入り雑炊、ソーセージのかんづめをあける。
主人、雑炊を一膳食べて、そのままずっと眠る。
私と花子は、昼のうちに正月料理を重箱に詰めてしまったので、ゆっくりと、紅白歌合戦と、ゆく年くる年を観る。
(中略)
正月料理重詰め品書き。
くりきんとん、昆布巻、伊達巻、紅白かまぼこ、田作り、酢だこ、なます、蓮、こはだ粟漬。
雑煮のだしをとって、とりの団子を作っておく。
今年は伊達巻をよく調べないで、安いのを買ってしまった。うっかりした。伊達巻を食べるのが、この世の楽しみの一つである私なのに。今年買った伊達巻は、イヤにつるつるぴかぴかしていて、おいしくなさそうである。150円である。いいのは450円である。

武田百合子著『富士日記』より