有職のちまき、土用丑の日のうなぎ...と豪華版かと思えば、ごはんの油炒めのせ、そしてボルシチ。恵比寿のロシア料理店のパイ皮をかぶせたスープ、新宿のロシア料理食べ放題(自称。カレーがメインだった)のピロシキと鰊は美味しかった。
(昭和44年)
7月11日(金)
朝 ごはん、鮭のフライ、キャベツとにんじん酢油漬、豆腐とわかめ味噌汁。
昼 お好み焼(桜海老、ひき肉、青のり、ねぎ、きりいか)、かぼちゃと茄子の炒め煮、スープ。
夜 ごはん、炒り豆腐、きゅうりのあんかけ、のり、うに。
食堂の硝子拭き。夕焼でも虹でも花畑の花でもごはんを食べながらみられる西側の2枚の硝子戸は、ことさら念入りに磨く。主人はテラスで風に吹かれている。午後、有職にちまきずしを注文。有職で受け取り、その足で買出しをしながら山へ向う。
佃煮(あみ、昆布、錦松梅、牛肉そぼろ)、菓子(羊かん、しおがま)、色んな種類のパン、米、さつまいも、きゅうりその他野菜類、トビリシの地図、精神病理学の本と資料。
(中略)
大岡さんへ、ちまきずし30本届ける。大岡さんは今度成城に新居を建てる。大磯を引き払って、家が建つまでの間、山暮しをされることになった。
(中略)
ボルシチを御馳走になりビールを飲む。これから山だけの生活をしばらくするので、食物に困るのではないか。山梨の食べものはひどいからなあ、という話を大岡さんはなさった。「中央道の談合坂の食堂のカレーライスは、いままで食べたカレーライス中、一番びっくりする味だった。俺はどこに行っても大体カレーライスにしているのは、カレーライスならどんなところのでもカレーの味で、裏切られることはまあないから安心なんだが、談合坂のだけはびっくりしたなあ。酸っぱいんだぜ」と、主人は言った。8時に辞去。
今朝5時ごろ、月にアポロ11号が着いた。主人は昨日、夜通しテレビを見ていて、今日も午前中続けて見ていたそうである。
私が東京から帰って来る少し前に外川さんがひょっこり現れたとのこと。黒ビール1本ずつと罐ビール1本ずつ、主人と飲んだ。外川さんの好きなチーズを出してやろうと、三角チーズをむいたら、カビが生えていた。外川さんの見ている前で、主人はカビを爪で削り落として出したが、それでも大好きらしく待ちかねたように、ぺろぺろと食べてしまった。7月22日(火)うすぐもり
朝 鮭、玉ねぎ、卵の中華風油炒め、ごはん、大根味噌汁。(この油炒めをごはんにのせて酢醤油をたらして食べるおいしさ!! そのごはんを食べながら夏の朝の庭を眺める気分のよさ!!)
昼 パン、スープ、ベーコン、ほうれん草バター炒め、サラダ(黄桃入り)。
夜 ごはん、ハンバーグステーキ、いんげん塩茹で、にんじん塩茹で、コーンスープ。
(中略)
リスは黒パンと白パンとどちらが好きかというと、断然白パン好みらしい。両方置いておくと白パンをすっかり先に食べてしまい、黒パンだけになっても、まだ白パンのきれはしが落ちていないかと草むらを探しまわり、いよいよないと判ると、黒パンの方を食べはじめる。はじめのうちはすっかり食べてしまっていたが、近ごろは手の中にパンのはしが残る位になると、ポンと棄ててしまい、ほkなお大きいパンを食べはじめ、また手の中に残る位まで食べると、ぽんと棄ててしまう。リスは自然食がイヤなのだ。生れてからいままで仕方がないから自然食を食べていたのであって、やっぱり、黒パンより白パン、チーズ、ハンバーグの手をかけた洋食が食べたいのだ。朝 ごはん、わかめと豆腐味噌汁、のり、うに、生卵、佃煮。
昼 パン、スープ、ハンバーグステーキ、野菜サラダ。
午後、雨の中を兎がえぞりんどうの葉を食べに来る。じっと横向きの姿をみせてうずくまっていたが、何を思ったのか急に跳ぶように隣りへ。
夜 雑炊、茄子中華風炒め。
日本チェコ男子バレー戦を見る。
9時ごろ、おぼろの月。7月24日(木)くもり時々大雨
朝 ごはん、油揚げとわかめ味噌汁、生卵、牛肉大和煮。
午前中、俄か雨あり。リスの餌を食堂の中へ入れておくと、入ってきて食べて行く。
昼ごろ、外川さんが鮒を赤いゴムの袋に入れて持って来る。大きな鮒。まだ生きている。ワカサギの網にかかったので、ワカサギの代りに持ってきたと言う。水に入れるとはねる。外川さんはビールと焼きそばで一休みしてから、鮒をつくってくれた。
卵は煮た。頭と骨についた肉は味噌汁に入れた。身は切り身にして、醤油、みりん、にんにく、しょうがにつけてから、片栗粉をまぶして、から揚げにした。
昼 鮒味噌汁、鮒から揚げ、ごはん。
また一時豪雨となる。
3時半ごろ、外川さん来る。「鮒はどんな具合だったかね」。外川さんにから揚げを出す。「小骨がちいっと多いな」と、食べてみて言う。「今日は雨が降ったり止んだりして、まるきり仕事にならない」と言う。
(中略)
夜 ごはん、のり、茄子と南瓜の甘煮、湯豆腐(とりたての菜っ葉を入れる。おいしい。一〆ほとんど私が食べてしまう)。
(中略)
去年は土用丑の日に丁度東京に帰り、宮川で鰻を買って主人に持ってきた。鰻の折詰が出来る間に、私と花子は店で鰻重を食べた。去年は暑かったなあ。鰻重が沁みとおるようにおいしかった。
武田百合子著『富士日記』より