たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

富士日記(37)ギターを習う

8月6日(水)くもり時々晴
朝 トースト、さつまいも味噌汁。
昼 ラーメン。
夜 のりにぎり(牛肉佃煮入り)、茄子とみょうがの吸物、黄桃サラダ、鮭罐。

朝 ごはん、のり、うに、味噌汁、いさき塩焼。
夜 茄子とみょうがのすいとん汁。

朝 ごはん、鯖味噌煮、佃煮。
昼 ごはん、さつまあげ、大根おろし、コンビーフ、みつばと卵の清し汁。
夜 ビーフシチュー、じゃがいもフライ、いんげん塩ゆで。

8月11日(月)雨 うすら寒し
セーターを着、モンペをはく。
朝 ごはん、けんちん汁、大根おろし、しらす、佃煮。
(中略)
昼 トーストパン、コンビーフ、キャベツとにんじん酢油漬、スープ。

大きな一皿に盛った刺身を頂く。アイスボックスを持って大岡家に行き、大岡さんを招んで来る。ビール、刺身、鮭と玉ねぎ酢油漬、チーズ、きくらげなど。雲一つなく晴れ、暑い。

8月15日(金)くもりのち晴
10時半、本栖湖へ泳ぎに下る。花子だけ泳ぐ。
昼 海苔にぎり、卵焼、肉団子をつめて、泳いだあと食べる。
(中略)
夜 茄子とみょうがのすいとん汁。すいとんは茄子のすいとんが一番おいしい。

8月17日(日)晴
朝 ごはん、里芋とねぎ味噌汁(卵入り)、しらす、大根おろし。
昼 ふかしパン(ベーコンと玉ねぎ入り)、野菜スープ。
夜 ごはん、コンビーフコロッケ、野菜サラダ。

管理所で買ったサントリーレッド(これしかない)を出す。鮭燻製と玉ねぎ油漬、鴨紅焼、コロッケ、海苔にぎり。

8月21日(木)くもりのち雨
前5時半、東京を出る。昨夜遅く、青山のユアーズで牛肉400グラム、あとはパン、野菜など買って来る。夜遅くのユアーズには、若い男女が脚や腕をむき出しにして買物をしている。青白い美しい顔をして、夢遊病者のように、罐詰や野菜を篭に入れている。

上の道の工事の男女、道に沿った石垣の低いところに腰を下ろして昼の食事をしている。フルーツゼリーが沢山作ってあったので持って行く。道で火を焚いて、湯を沸かして、お茶を入れている。実においしそうに箸をひねり動かして、大きく口をあけて御飯やおかずを放りこみ、大きな声で話し、笑っている。ことに女衆は楽しそうに食べ、飲み、話し、笑っている。
昼 ごはん、大根おろし(とりたてでおいしい。沢山食べる)、のり、うに。
(中略)
夜 ごはん、精進揚げ(さつまいもと桜えびのかき揚げ、茄子、ピーマン、ごぼう、にんじん)。
主人、さつまいもの切り方が大きいといって、手でつぶしている。
(中略)
食事を終えるころ、大岡夫妻みえる。オールドパー1本、鯵の干物を頂く。

朝 ごはん、味噌汁、あじの干物、大根おろし、うに、のり。
昼 パン、トマトと玉ねぎのスープ、いくら、牛肉バター焼、きゅうりとキャベツサラダ。
夜 桜めし(これは茶めしと同じことらしい)、とろろこぶの吸物、紅鮭、罐詰、大根おろし、丸焼茄子。
后5時ごろ、中公「海」の近藤さんみえる。30分ほどいて待たせてあった車で変えられる。とうもろこしの茹でたのを袋に入れて、バスの中で食べられるように渡す。

朝 ごはん、豆腐味噌汁、炒り卵、大根おろし、のり。
昼 ホットケーキ、じゃがいもとベーコンのバター炒め、玉ねぎスープ。
夜 煮込みうどん。

「これは、この辺では『トマト』ッちゅっていってるがな」と、主人に説明している。主人はお礼に肉の罐詰をあげたらしい。男はまた門の方へ駈け上ってゆく。起きると、トマトがつまった緑色の箱が食卓に置いてある。上の道の工事をしている男衆が、今朝とれたてのトマトを持ってきてくれたのだった。
朝 そのトマトを使って、ベーコンと玉ねぎの入ったトマトスープ、パン、とれたてのトマトの輪切り。おいしかった。
午前中、風呂をたてて主人入る。顔を剃る。
大岡夫人、昨日の青山斎場の帰りのおみやげ「くずもち」と「うるめいわし」を下さる。「大岡がギターを習うのだからお借りしたいといってます」と、くすくす笑いながら、ギターを持ってゆかれた。
くずもちをすぐ食べる。冷たくておいしかった。
昼 ごはん、鯖塩焼、大根おろし、野菜ごった煮、佃煮。
夜、ごはんの五目ずしを作っていると、河出書房の婦人記者を案内して大岡さんみえる。
(中略)
夜 五目ずし、かきたま汁、栗のふくめ煮の罐詰をあける。
(中略)
運転手は遠慮して降りてこない。五目ずしとお茶を車まで持って行く。

武田百合子著『富士日記』より