このあたりから、お裾分け面子にとなりのおじいさんとおばあさんが加わる。
ポークビーンズの罐詰て今は日本で食べている人ほとんどいないのではないかと思うが(製品もないかも)、少なくともイギリスの1人はすごく好きですね。毎朝のように開けて卵やパンと一緒に食べる。
10月3日(金)くもり時々小雨
朝 中央道談合坂食堂で、カレーライス二人前300円。
昼 ラーメン、ポークビーンズの罐詰。
夜 油揚げとにんじん炊き込み御飯、さといもとわかめ味噌汁(卵入り)、いか塩辛。
(中略)
食堂には3組ほどの客がいる。今日は私もカレーライスをとる。カレーライスの中味は、この前は海老だったが、今日はとり肉。カレーライスはおいしい。ラッキョウも福神漬も紅しょうがも、たっぷりとついている。いくらでもとっていいように、別の容れものに入って出ている。ほかの3組の客もカレーライスをたいていとっている。朝早いから、皆ぼんやりと硝子戸の外を眺めたりしている。私はコーヒーもとった。私もゆっくりと外を眺めながら飲んだ。朝 ごはん、むしがれい、大根おろし、わかめとじゃがいも味噌汁、佃煮。
朝から霧がたちこめている。
昼 パン、ビーフシチュー、紅茶。
(中略)
バスの横腹に給油している間に、スタンドの従業員の女の子たちは、ぶどう液(ぶどう酒ではない)の瓶を4、5本抱えて、下から窓ごしに売ろうとしている。買っている客もある。スバルラインへの沿道の店では、今、出盛りの甲州ぶどう(大粒でうす紫色)、梨、大根、山芋を並べている。
夜 ごはん、はんぺん、木須肉、鯛味噌、豆腐あんかけ、りんごジュース。朝 ごはん、ビーフシチュー、佃煮。
昼 ごはん、はんぺん、大根おろし、ひじき煮たの、清し汁。
夜 パン、クリームスープ、ウインナーソーセージ、サラダ、紅茶。
テラスの前の庭、草むしり。山おだまきの小さい株がふえすぎているのを抜く。夏に蒔いたパセリが出ている。帰ってきて朝食の用意。
朝 ごはん、しらす、大根おろし、生鮭バター焼、サラダ、味噌汁。
高橋さんも一緒に食べる。私が下っている間に、隣りから生鮭2切れと大福を頂いていた。留守中、主人は高橋さんと2人で、昨日の残りのビーフシチューと大福を食べていた。談合坂食堂で、カレーライス(主人)150円、ミックスサンド(私)300円。時間がいつもよりずっと遅いので、女給仕もいて客も多い。この時間になると「ふるさと定食」という、小さい鉄鍋の中に味噌汁の入ったのがつく献立もある。牛乳2本60円。
庭の木や草、黄色くなった。隣りへりんごとお餅と肉を、おじいさんとおばあさんの2人分だけあげる。
(中略)
昼 ホットケーキ、スープ。
夜 ごはん、うに、海苔、塩辛、大根味噌汁。10月18日(土)くもり
朝 ごはん、味噌汁(じゃがいも、ねぎ、卵)、うに、塩辛、のり、大根おろし。
昼 ひき肉入りうどんバター炒め、りんご、柿、みかんのサラダ。
夜 ごはん、麻婆豆腐、いんげんおひたし、野菜もろみ漬。
(中略)
Oさんの家に菓子を置きに行く。奥さんは台所で昼食用らしい揚げものをしている。
(中略)
夕方、隣りのおじいさん、「こんなものをいたずらしてみました」と、にしんの入っている昆布巻5本と豆腐2丁をもってきてくれる。豆腐はT先生が今日東京から持ってきて沢山あるから–––と言う。昆布巻は白い木綿糸で結んであって、とてもおいしかった。10月19日(日)くもり、夜に雨となる
朝 麻婆豆腐、スープ、ごはん。
昼 うどん炒め。今日はケチャップで味をつけてみる。
夜 お雑煮。談合坂で朝食。カレーライス(主人)150円、ふるさと定食(百合子)300円。
鉄鍋に入った豚汁の中身は、こんにゃく、にんじん、さといも、厚揚げ、ねぎ、ごぼう、豚肉、それぞれ一切れずつ入っている。
(中略)
昼 お雑煮。
夜 ごはん、かますの干物、かきたま汁、大根おろし、じゃがいもととり肉の煮たの。昼 パン、玉ねぎとトマトスープ、卵だけのオムレツ、りんごサラダ。
隣りへ貸してあった梯子を返してもらいにゆく。
夜 桜めし、かます干物、豚肉と白菜の中華風炒め、味噌汁。談合坂食堂で朝食。カレーライス(主人)150円、ハムサンド(私)300円、みかん1袋200円、牛乳3本90円。
御胎内のから松林、だいだい色に黄葉した。
お茶をのんで梅干を食べてから昼ごろまで眠る。
(中略)
昼 おじや(卵を入れる)。
夜 桜めし、コンビーフ、味噌汁、小松菜辛子醤油。
二日酔が残っていて食欲があまりない。でも黙っている。おいしそうな振りして食べる。11月6日(木)快晴
午前6時山を下り、私だけ下田行。主人の朝、昼、晩の食事一通りを揃えておく。昼はサンドイッチ、夜はおでん。
(中略)
むろあじを焼いて冷たい御飯を食べた。主人は生干しのいかを焼いて、それだけ食べた。食べながら、今日見てきたことや、あったことをしゃべくった。帰って来る家があって嬉しい。その家の中に、話をきいてくれる男がいて嬉しい。
武田百合子著『富士日記』より