たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

寮の食事『けむたい後輩』(1)

これを読んで、私も大学に入って最初の2年間は学生寮で夕食を出してもらっていたことを思いだした。と言っても、忙しくなってからは提供時間中に帰れずほとんど食べられなかったが。
小学校の給食並みの内容だったが、途中で作ってくれる人が変わってから目にも舌にも驚異的にグレードアップしたのが印象的だった。もちろん予算は変わっていないはず。すごい腕だよね。あの違いが給与に反映されるといいのだけど無理だろうな。

「夜ご飯食べてきたの?」
「まあだ」
うつぶせのまま、真実子はくぐもった声で答える。
「何やってんの。そんなことだろうと思って、夕食のドリアをもらってきたから。スープはインスタントでいいよねえ?」
30名近くの女子大生が、門限や規制を大人しく守っているのは、寮母の久我山メアリーさんの手による食事のせいだ。彼女が、初代の寮母から受け継いだ、横浜らしいクラシックな洋食の数々。アーモンド形に押されたサフランピラフ、伊勢海老のクリーム煮、生クリームたっぷりのマロンシャンティー......。美里はこの2ヶ月で、炭水化物抜きダイエットをあきらめた。
(中略)
美里が丸テーブルに、こんがりと焦げ目のついたドリアとスープを注いだマグカップを並べた頃、ネグリジェに着替えた真実子が姿を現した。顔を洗ったのかさっぱりとした表情だ。真実子は椅子に腰を下ろし、スプーンを手にした。
(中略)
「美里、ありがとう。このドリア美味しいねえ」
そう言いつつも、唇の端からチーズを垂らし、ぼんやりしている。

柚木麻子著『けむたい後輩』より