たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

富士日記(45)ケーキ店アルプス

先日の「サニーデ」に続き、「アルプス」っていかにも地方の昭和のお店の名前でいいわー。看板のフォントが懐かしそう(勝手なイメージ)。富士山麓でなくてもありそうで。

「命の母」という薬を知ったのは小林製薬が引き取ってからだが、この名前についてはおどろおどろしいな...と思ったのを覚えている。今でもうっすらキモいと思う。

7月22日(水)晴、午後俄か雨
朝 ごはん、かにたま、がんもどき煮たの、海苔、味噌汁。
昼 からみ餅を作る(納豆、大根おろし、ねぎ)。
夜 うどんバター炒め(ベーコン、玉ねぎ)、水蜜桃を食べた。

肉、かますの干物、うなぎ蒲焼、しらす、チーズケーキ、野菜、パンなど買って3時ごろ赤坂を出る。
大岡さんへ干物をもって行くと、カーテンがひいてあって車がなかった。
夜 うなぎ蒲焼(主人)、かます干物(私)、豆腐とみつばのおつゆ、ほうれん草ごま和え。

7月24日(金)快晴
朝 ごはん、かれい煮付、じゃがいも味噌汁(卵入り)、海苔。
昼 チーズケーキ、とりのスープ、果物ゼリー。
夜 ごはん、シューマイ、ほうれん草バター炒め、丸焼茄子。
朝ごはんの前に、大岡さんへ干物を届けに行く。

原稿を渡してから、ビール、鮭と玉ねぎのオイル漬。ハンバーグステーキ、きくらげとねぎの酢油漬などで一休み。運転手さんもよんで、おにぎりとハンバーグで食事をしてもらう。
「東京から来るとき車の中で『向うへついても空が青いなあとか、空気がいいなあとか、絶対に言うのよそう』と運転手さんと話してたんですけど、やっぱり空は青くて、空気はいいなあ」村松さんは言う。
(中略)
7時半ごろ、夫人はアルプス[富士吉田の菓子屋]のケーキと五目ちらし一皿持って、迎えにみえる。「レイテ戦記」のときに話をきいた吉田の人が子供をつれてきて今までいたので、迎えにくるのが遅くなった。このケーキはその人がお土産にくれたのだ、とのこと。ケーキは普通のケーキの2倍半ほどの大きさで、バナナやメロンがのっている。
大岡さんは一昨日、富士吉田で「吸血鬼」と「激戦地」ともう1本、3本立400円を観に行って、一寸観て出て、向いのすし屋に入ったら、その日はタネがとてもよくて、うまかったそうである。映画は8月一杯の上映予告ビラを貰ってきてあって「毎週行くのだ」とおっしゃった。4時半に山を下ると、夜の部がすっかり観られるらしい。私も行きたい。
(中略)
夜遅く、私は一人で五目ちらしをゆっくり食べた。おいしかった。

朝 ごはん、キャベツとわかめ味噌汁、海苔、生卵、昨日ののこりのおかず。
昼 すいとん(茄子とみょうが)、トマト。
夜 ごはん、コロッケ、アスパラガス、トマト。
日曜日。一日中主人と草刈り。

昼 ごはん、鯖、大根おろし。
夜 うどんバター炒め(ベーコン、玉ねぎ、パセリ、桜海老入り)、西瓜を食べる。
星空となる。
テレビで。東京はスモッグ警報が出た。光化学公害というのだそうである。

いまでもおばさんは錠剤「命の母」と、のみ薬を4種類毎日のんでいる。

私がきじ料理屋の話をすると、「あのきじ料理屋は宿屋だったが場所がわるくて、ほかの宿屋がどんどん出来はじめて客をとられるので、考えてきじ料理の店にした」のだと言う。
(中略)
観光バスが入ってくると給油している間に、車の窓の下からぶどう液の一升瓶を宣伝して売っている。「冷蔵庫に入れておけばうまいよ。砂糖を入れて薄めてのんでもうまい。酔払わないよ。ぶどう液だから。運転しても大丈夫。ほかのところで売っているのはまぜものがしてある。これは勝沼の–––ほれ、ここにちゃんと書いてあるら–––ここから山を越してすぐのぶどうの産地から持ってきたで、特別製だ。重くて困る人には4合入りのもある。冷蔵庫に入れれば、うんと永くもつよ」と、いつものように低い静かな口調ですすめ乍ら、盃位の小さなコップにぶどう液の見本をついでは窓からのませている。1本か2本売れたらしかった。
(中略)
夜 ごはん、鯖干物、大根おろし、じゃがいも千切りとベーコンの油炒め(にんにくを入れる)、煮豆、とろろ昆布のおつゆ。

7月29日(水)快晴 とても暑い
今日も陽がさしてこないうちに草刈り。
朝 カレーライス、トマトとアスパラガス、紅茶。
(中略)
昼 パン、野菜スープ、チーズ、桃。
(中略)
夜 ごはん、紅鮭罐詰、大根おろし、おろししょうが、茄子の丸煮、炒り豆腐(にんじんとひじきを入れた)、桃。
歯がなくなってきて、主人「桃っておいしいな」といって、皮をむくそばから待っていて、すするようにして食べている。

大岡さんはジョニ黒と瓶入りのピクルスを持ってこられた。
ゴマ豆腐(今日のはわりあい、うまく出来たと思うが)、とり手羽香味揚げ、鮭の燻製と玉ねぎ酢油漬、木須肉などで、皆で飲む。

昼 ごはん、さんま、大根おろし、がんもどきの煮たの、とろろ昆布のおつゆ(主人だけ食べる)。
夜 あぶらげとにんじんと椎茸の炊き込みごはん、コンビーフ、海苔、大根味噌汁。

9月7日(月)晴
朝 ごはん、豆腐味噌汁、手羽肉から揚げ、大根おろし、りんごとにんじんのジュース。
ごはんを食べていると、あかはら位の大きさ(ひょっとすると、あかはらの雌かもしれない)の、嘴がオレンジ色の鳥、食堂に舞い込んでくる。
(中略)
昼 お好み焼き、ふかしじゃがいも、スープ。

武田百合子著『富士日記』より