たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

富士日記(50)おいしがって汗を出す

西海岸ではとりあえず冷凍の巨大鰻が手に入る。先週もうちのアメリカ人が1人でどんぶりを作成して嬉し気に食べていた。私は本当においしい鰻というものを食べないまま人生を終える気がする。イメージとしては浅草で扇ぎながら焼いてるやつ...。獲れないというのだからしかたない。

7月21日(水) 晴
朝食が終ったとき、東京から戸祭さん[大工さん]ともう一人の大工さんやって来る。談合坂をうっかり通りこしてしまったら、どこにも食堂がなかったという。
大工さんへ朝ごはん。味噌汁、ごはん、目玉焼とハム二切れ、粕漬まな鰹、きゅうりととり肉のあんかけ。
(中略)
昼 かにコロッケ、ごはん、はまぐり汁、トマト、煮豆、キャベツ酢漬。

夜 ごはん、かにたま、豆腐のおつゆ、おひたし。

7月23日(金) くもり時々雨
朝7時ごろ、地震。テレビでは震源地は道志村だといった。
朝 ごはん、味噌汁、大根おろし、うに、海苔。
昼 ワンタン。
夜 鮭と玉ねぎオイル漬、枝豆の黄身うに和え、はんぺんつけ焼き、キャベツ甘酢漬、おかゆを食べる。

7月24日(土) くもり時々雨
朝 ごはん、味噌汁、豚角煮(東坡肉)、大根おろし、いんげんごま和え。
昼 チーズトースト、玉ねぎスープ、トマト。
夜 ごはん、塩鮭、かきたま汁、茄子しぎ焼。

7月25日(日) 快晴、時々曇
朝 ごはん、味噌汁、東坡肉、大根おろし。
昼 ごはん、とろろ汁。
夜 ごはん、炒り豆腐、丸焼茄子、たらこ。
(中略)
夕方、大岡夫人、沢山のきゅうりと、卵とエクレアを持ってきて下さる。来客のおみやげをわたして下さる。

7月26日(月) くもり
朝4時、私だけ東京へ。暗い道にタマと主人、見送っている。6時少し前、赤坂に着く。
買出し。宮川のうなぎ、鱒ずし、佃煮、のり、あんみつなど。
(中略)
大岡さんへ美術全集と「青年の環」と、買出しの品を届ける。今日はうなぎとあんみつの闇屋。

朝 ごはん、うなぎ(主人)。
昼 とろろそば(花子)、山芋天ぷらそば(主人と私)。
夜 きゅうりと赤貝の三杯酢、なまり煮付(私、花子)、かきたま汁、ひらめ煮付(主人)。
(中略)
中年の主婦が3人でおにぎりを食べている。深刻な顔をし合って「お金を貸したのにいまだに返してくれない某さん」についてワル口をいっている。暗いスゴい顔をしている。
溶岩菓子2箱400円、鈴200円。
いか(焼きいか)150円、とうもろこし100円。
(中略)
若い男の運転するマークIIがとまって、中から、おじいさん2人とスーツ姿の太ったおばあさんが降りた。草むらへ入って野苺を夢中になって採って食べはじめた。
(中略)
S農園まで下って、昼食におそばを食べ、山へ戻る。

7月28日(水) 晴ときどき曇
朝 ごはん、豚角煮、味噌汁、丸焼茄子、大根おろし。
(中略)
夜 ハンバーグステーキ、ごはん、スイカモモ、ぶどう。
庭の大根を抜いて大根おろしにしたら、とても辛かったが、却っておいしかった。主人、おいしがって汗を出す。

夜 ごはん、いかつけ焼、生鮭バター焼、玉ねぎバター炒め、きゅうりと揚玉中華風(にんにく入り)三杯酢、なまりとひじき煮付、つまみ菜冷やし汁。

7月30日(金) 晴のち曇
朝 ごはん、たらこ、味噌汁、オムレツ。
(中略)
終って昼食。
ごはん、ゆで豚、精進揚げ、山芋天ぷら。
(中略)
夜 野菜スープ、ごはん、佃煮。

7月31日(土) 快晴
朝 ごはん、うに、のり、納豆、野菜スープ。
昼 ふかしパン、スープ。
夜 おかゆ、コンビーフ、鮭と卵油炒め。
(中略)
午後1時、読売新聞社のインタビューの人来る。
ビール、コンビーフ、じゃがいもフライ、山芋天ぷら、を出す。

8月1日(日) 快晴
くらくらするほどの青空。今日は日曜だから山を下りない。一日、草を刈る。
朝 ごはん、たらこ、うに、のり、納豆。
昼 お好み焼、スープ。
夜 ごはん、かにコロッケ、清し汁。

昼 チーズトースト、スープ、トマト、じゃがいも粉ふき。
夜 ごはん、オムレツ(主人)、いわしみりん干(私)、トマト、大根レモン漬。

うなぎ、食料品どっさり、郵便物、雑誌など持って、1時半家を出る。
暑い暑い。くらくらするほど暑い。中央道のパトカーのお巡りさんも休んでジュースを飲んでいる。
3時半、山へ戻る。
夜 うなぎごはん、はんぺんとみつば清し汁。

武田百合子著『富士日記』より