たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

ご飯食べた?『僕の狂ったフェミ彼女』

韓国の小説を読んだのはたぶん初めて。
LAのコリアン系の友人たちはみんな礼儀正しくて大好きな人たちなのだが、確かにちょっとルッキズム、家父長制に縛られているな...という傾向はある。

ただそれは日本も同じだし、米国から韓国のエンタテイメントの表象にふれていると、韓国が日本以上に少子化になっている理由がよく分からなかったのだが、この物語が「ハイパーリアル」と評されているなら、そりゃ子ども減るわ。

このふたりはひたすら一緒にご飯を食べたりソジュを飲んだりするのがいい。
会えない日に電話で「夜は何食べるの?」と気遣うのもいい。さすが밥먹었어?の国。
そんなに細かく描写しているわけではないが、どれも美味しそうだし、楽しそうだし、コリアタウンに行きたくなる。
結婚式にカルビスープが出るなんていいよね。

全てのことがあまりに突然で衝撃的だったので、マスクを外し「あんたのせいで走ったらお腹空いた。チキンおごってよ」とヘラヘラ笑いながら僕の腕をつかむ彼女の図々しさが、むしろ何でもなく思えるほどだった。
(中略)
心ではありとあらゆる想いが交錯していたが、それとは裏腹に、足はこの辺りで有名なフライドチキンの店へと向かっていた。
(中略)
彼女が肩を震わせて泣いているのを見て、店員がおどおどとビールとチキンをテーブルの上に置いていった。つまり僕たちは、注文した料理が出てきてもいないうちから、声を荒らげ、泣いて、大騒ぎをしていたわけだ。
あきれ果て、疲れ切って、僕たちはただ無言でチキンを食べた。彼女がジョッキを持ったので、僕も急いで持ち上げ、乾杯をした。よく冷えた生ビールはすぐに口の中に吸い込まれ、一瞬でジョッキが空になった。
(中略)
サクッとした衣に感動しつつ鶏肉を噛んでいた僕は、何気なく言った。
(中略)
僕は再びチキンに手を伸ばし、一番好きな手羽を一切れかじった。ところがなぜか、さっきほど美味しくは感じられなかった。

「あー、疲れた。ヘジャンククでも食べて帰ろ。忙しいならこのまま解散するし」
え、ヘジャンクク? 一体何を......。
(中略)
「いいからヘジャンククでも食べよ?おごるからさ」
彼女が少し申し訳なさそうに見える、はかりがたい表情を浮かべながら僕の腕に絡みついた。その表情は気に入らなかったが、結局しばらく後、僕は彼女と24時間営業の腸詰め(スンデ)スープの店に座っていた。

「あー、美味しそう」
ぐつぐつ沸いた汁の香ばしいにおいに感動しながら、彼女はうれしそうに海老の塩辛と薬味を混ぜた。その姿さえも憎たらしく思えて、僕は何も言わなかった。
ズズーッ、ズズーッ。
僕たちは無言でスープを飲み、ホルモンとご飯を食べた。熱々のスープで、胃は楽になった気がしたが、気分は依然として晴れなかった。約束通り会計は彼女がした。

「アイスアメリカーノ」
声を張り上げて呼び続け、ようやく引き止めた彼女をやっとの思いで説得し、一緒にカフェに入ることができた。彼女は店のガラスを開けるや否や、まるでコーヒーの取り置きでもしていたかのように僕に向かって注文を叫ぶと、席をとって座った。

会社近くの雰囲気のいい店を頑張って検索しておいたのだが、彼女が足を向けたのは焼肉の店だった。
「焼酎(ソジュ)1本ください」
すると僕に聞きもせずに焼酎を注文した。僕はビールが飲みたかったが、彼女の放つダークフォースにただならぬものを感じ、大人しくしていることに決めた。従業員がテキパキと鉄板と肉をセッティングし、焼酎の瓶とグラスを持ってきた。
彼女はポンという音を立てて豪快に瓶を開けると、勢いよく2つのグラスを満たした。
(中略)
僕は心の内がバレないよう、咳払いをしながら黙って肉を焼き始めた。ジュー、ジューと、聞いているだけで自ずと気分が良くなる音がした。
(中略)
僕は黙って彼女の前の皿に、美味しく焼き上がった肉をのせてあげた。
「まず食べて。お腹空いたろ」
「気分が低気圧の時は肉の前へ」という名言もあるように、彼女が肉でも食べて機嫌を直してくれることを願った。
(中略)
食欲がないのか、取り皿にたまった肉が手付かずのまま冷め初めていた。

僕らは近所のチキン店へ行った。一仕事終えると未だにチキンが食べたくなる、どうしようもない小学生のような舌だと、彼女は独り言を言いながら笑った。小学生だっていいだろ。僕もチキンが一番好きだ。僕らは食の好みまで、運命的に相性ピッタリ。
美味しいチキンに、目の前には彼女。何よりもフェミニズムの本からようやく解放されたと思うと、気分は最高だった。

「何食べてたの?」
「バナナと卵。食べる?」
彼女の言葉通り、食卓にはとても素朴な朝食が並んでいた。ダイエットメニューのようだった。
「毎日こういうの食べてるの?」
「うん、朝はあんまり食欲ないから適当に。豆乳飲みたかったら飲んでいいよ。冷蔵庫にあるから」
彼女に渡されたバナナをむきながら、急に悪戯心が発動して言った。
「僕は朝はしっかり食べる派なんだ。朝食はご飯と汁ものを一緒に食べないとね」

明らかにリゾートの中にも食べるところがあるのだが、まずいし高いからという伯父の強力な主張により、各家庭で一品ずつ持ち寄ることにしたらしい。母が準備したのはプルコギだったが、何しろ人数が多いので、量もものすごかった。数日前から買い出しをして、昨日も遅くまで下準備をして、とても大変そうだった。親戚がある程度集まると、伯母と従兄の奥さんたちがそれぞれ準備してきた料理を出した。各種チヂミにカルビ、魚にロブスターまで、種類もものすごくたくさんあって、ボリュームたっぷりだった。
70坪の大きな部屋を借りたおかげでキッチンも広々としていたので、女性陣がそれぞれ散り散りになって下ごしらえしてきた材料で料理を始めた。

「夜は何食べるの?」
「さあ、わかんない。少ししたらラーメンでも食べて帰ろうかな。そっちは?」
「ああ、こっちはそれぞれの家で一品ずつ持ち寄ったから、食べるものたくさんあるんだ。プルコギにロブスターに......」
「は? そんなとこまで行くのに、わざわざ料理を家で作ってきたってこと? なんでまた?」
彼女の声がまた鋭くなった。ああ、余計なことを言ってしまった。だが覆水盆に返らずだった。僕は委縮した声で言った。
「外食してもどうせまずいし高いからって......」
「まったく、準備するお母さんたちの労働力はなんでタダだって思うわけ? あんたの家ってほんとにすごく......」

祖父と一滴の血のつながりもない女性陣がお膳立てした料理が食卓に並んだ。祖父は曽孫を抱いて、巨大な餅のケーキに刺さったろうそくを吹き消した。

そうして僕たちは今回もまた豚ハラミ(カルメギサル)の店に焼酎を飲みに行った。周りに雰囲気のいいお店がいくらでもあるっていうのに。
肉を焼き、焼酎を注ぎながら、好奇心と恐怖心が共存した状態で僕は黙って彼女の話を待った。

ところがよりにもよってその出版社の入っている建物の1階には、マカロンを売っているお菓子屋さんがあった。有名な店らしく、女性たちが絶え間なく列を作ってマカロンを買っていった。彼女が出てくるのを待つなら離れるわけにもいかないので、しかたなく周りをぶらぶらしていると、並んでいる女子たちの視線を感じてきまりが悪かった。クッソ。僕はできるだけ離れたところに立った。
時間が流れ、マカロン店はいつの間にか「材料切れ」という4文字を貼り出して閉店していた。

彼女は食欲がないと言うので、僕たちはカフェに入った。僕は腹ペコだったので、サンドウィッチを1つ注文した。実は、1時間ずっとマカロンに魅了された人たちの中に立っているうちに、自分では一度も買ったことのないマカロンに手が出そうになったが、なんとか我慢した。

彼女がキッチンからグラスを2つ持ってきた。焼酎と一緒に広げたおつまみは、えびせんだけだった。
「何か食べるものないの? おつまみがないと胃に良くないよ......」
「ない。作ってよ。ムカついてるから飲むのに、自分でおつまみまで作るなんて無理」
「君が悪酔いするのが心配なんだよ。僕に作れるわけないだろ。何か出前とる?」
すると彼女がニヤッと笑った。
「作れないってことはないでしょ。男が料理したらタマがとれるとでも思ってるみたいだけど、迷信だよ」

元気付けてあげようと、週末に彼女の好きな梨泰院(イテウォン)の手作りハンバーガーの店へ連れて行った。だが彼女は相変わらず落ち込んでいるのか、ほとんど口をつけなかった。

僕たちが食事に行ったのは、美味しいと評判のうどん屋だった。前に女の子を紹介してもらいまくっていた頃、いつかのデートで行ったことのある店のうちの一つだった。
(中略)
スッキリしない答えに僕が首を傾げた時、ちょうどうどんが出てきたので、僕たちの会話は中断された。
さすがに評判の店なだけあって味は最高だったし、細長いちくわを食べる彼女の顔は無駄にセクシーだった。

風呂敷に包んだおかずのタッパーだった。ほお、お姉さんがおかずを作って持ってきてくれるんだ?

しかし彼女は特に反応もなくおつまみを食べるのに没頭していた。

僕らが結婚式の華である団体写真を撮っている間、彼女はまたご一腹なさり、ついに友達夫婦と一緒に食堂の丸テーブルを囲んだ。よくあるビュッフェ形式ではなく、カルビスープをメインにした料理が全てセッティングされているものだったので、気まずいメンバーで食事するにはむしろ都合が良かった。
(中略)
「いただきます」
僕たちがどうでもいい話をしている間、彼女は1人でちゃっかりご飯を食べ始めた。

「2人です。とりあえずビール2つとチキン1羽(ハンマリ)ください」
緊張のせいか空腹のせいか、僕は座るや否や出されたビールを口の中に流し込んだ。数ヶ月前、夏に彼女と初めてここに来た時のことを思い出した。実際はそんなに経ってないのに、すごく昔のことみたいに感じた。ビール1杯をほとんど一気に飲み干すと、2人連れやグループで座っている人たちをぐるりと見渡しながらしばらく考えにふけった。
「ご注文のチキンでございます」
ところが、思ったよりずっと早くチキンが出てきてしまった。ああ、このまま本当に1人でチメクして帰るのか。そんな中でも、湯気がゆらゆらと立ちのぼるチキンは本当に美味しそうに見えた。においも芸術的だった。僕はゆっくりと鶏肉に手を伸ばした。
(中略)
「とりあえずチキン食べてから考えよう」
僕は臨機応変に、つかみかけていた鶏肉を彼女に渡した。ちょうどビールも来たので、彼女はチッチッと舌を鳴らしてそれを一気に飲み干し、チキンを一口かじった。その顔を何気なくじっと見ていると、ふと気になった。

「まだわかんない? 私の好きな文章を思いだす。説明してもわからないことは、説明してもわからないんだよ」

ミン・ジヒョン著、加藤慧訳『僕の狂ったフェミ彼女』より