たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

パナップ最新情報『豆の上で眠る』

まさか湊先生の小説の中でパナップの現状を知ることになるとは。
グリコのサイトで見ると、なんだか別物になっている。小さくなったのにお値段も160円に。
100円玉をもらってアイスを買うときによく選んでいたパナップ。
今度帰国したときはぜひ食べよう。「日本で買うもの」リストに追加した。

ところで、ワンコインで買えなくなり、昔ほど100円アイスを買う人は減っているのではないかと思うのだが、パンデミック前に関西から西日本に行ったときは街中にセブンティーンアイスの自販機がかなりたくさんあることに驚いた。
自分で興味を持ったことはなかったが、姪が欲しがって何度か買ってあげたことでその乱立ぶりに気づいた。
120円くらいだったか。
某鉄道会社なんか各駅にあったと思う。
あれ、電気代もかなりかかりそうだけど、なんかの利権かな。

つい先日、<金のリボン>の店長から、東京土産にそこのフルーツゼリーを配られたばかりだ。これ1つで時給と同じ値段だから、と言われて驚いた。

<まるいち>へ買い物に来るのは大概、母が国道沿いのスーパー<ホライズン>で買い忘れたものの補充をするときで、マヨネーズや玉ねぎといった一品のために、万祐子ちゃんと2人でおつかいを頼まれていた。母はたとえ子どもでも一品だけ買わせることに抵抗があるようで、万祐子ちゃんと私、それぞれ好きなお菓子を買っていいことにもなっていた。といっても、たった3品、千円以内の買い物だ。
それでも、おばさんは私たちが訪れるごとに、あんたたちは仲がいいねえ、と飴やチョコレートやガムをおまけしてくれた。飴はコーラ味、チョコレートはアーモンド入り、ガムは青リンゴ味といつも決まっていた。
(中略)
おばさんからもらったコーラ飴を口に含み、なくなるまでの短い時間だったが、その話に私はかなり元気付けられた。

昼食は冷やしそうめんだった。それほどおいしくない給食が恋しく思えるほど、ほぼ毎日続く定番メニューだったが、その日に限っては万祐子ちゃんと2人、競争するかのように平らげ、出かける準備をした。

それ以降、お母さんのせいにされるのよ、と牛乳を毎日500ミリリットル飲むことを義務付けられたり、2日に1度は夕飯の食卓にレバーがのぼるようになった。牛乳もレバーもあまり好きではなかったため、食事の時間は我慢大会と化してしまったが、自分が貧血持ちであることはどこか嬉しくもあった。

途中、<まるいち>に寄り、アイスクリームを2つ買った。パナップのストロベリー味とグレープ味だ。おばさんに、お姉ちゃんはどうしたのかと訊かれた。
(中略)
一度、神社に戻って万祐子ちゃんと一緒に買いに来ることも考えたが、何度も引き返すのは面倒だったし、万祐子ちゃんの好きなアイスクリームもちゃんと知っていた。
——お姉ちゃんと遊べて、よかったねえ。
おばさんはそう言って、アイスクリームを入れたレジ袋の中に飴を2つ入れてくれた。いつもと同じコーラ味だった。

ござの上に2人並んで座り、アイスを食べた。私がグレープ味、万祐子ちゃんがストロベリー味だ。<まるいち>のおばさんにもらった飴は互いのポケットに1つずつ入れた。
——秘密基地だね。
——うん。ここに泊まったらおもしろそうだね。
アイスを食べ終えた万祐子ちゃんはそう言って、ごろんと横になった。

台所に行き、冷凍庫を開けると、種類の違うアイスクリームが5つ並んでいた。新発売のものが3つ。あとは、パナップのストロベリー味とグレープ味が1つずつだ。グレープ味は私が帰ってきたとき用に買っておいてくれたのだろうか。
自分でしばらく買っていない。パナップのグレープ味を取り出した。木匙が見当たらないので、食器棚の引き出しからデザート用スプーンを出す。パナップの良さは、パナップ用の長い木匙がもらえるところもあるのに、と残念に思いながら、子どもの頃と考えることはまったく同じなのだな、とあきれてしまう。
ダイニングテーブルにつき、蓋を開けると、アイスクリームの表面をスプーンでこそげるようにすくった。バニラアイスとソースをきちんと一度にすくえる、万祐子ちゃん式の食べ方だ。小さい頃、私はカップの縁からスプーンを縦につっこむようにしてバニラアイスだけをすくい、後半に、3本できたソースのタワーを少しずつ崩していくという、おかしな食べ方をしていた。20歳をすぎてやってみようと思える食べ方ではない。
幸い、今では、ソースの配置が横向きの層状に変わっている。カップの大きさも少し小さくなったように感じる。模様も何度かリニューアルされているが、ストロベリー味はピンク色、グレープ味は紫色が主体というところは同じだ。

冷蔵庫の中には、肉じゃがと春雨の中華炒めが入った大きなサイズのタッパーの他、ほうれん草のおひたしやきんぴらごぼう、ポテトサラダが入った小さいタッパーもきれいに積み重ねられていた。
(中略)
自分一人なら、普段アパートで作っているような、麺を茹でて温めたソースをかけるだけのパスタなどを食べ続けると思うが、父も一緒となるとそうはいかない。2日間なら文句は出ないかもしれないが、3日目の朝、卵くらい焼いてくれ、と言われ、焼き具合の定まらないオムレツを渋々作るはずだ。いや、スクランブルエッグか。
(中略)
姉も普段、台所に立つことはなかったが、中学生になってから、休日にときどきクッキーやロールケーキなどのお菓子を作ることがあった。初めて作ったときから完成度は高く、すごいと感じるよりは、この人と私はやはり血が繋がっていないのではないかと、卑屈なまなざしで姉を見ていたはずだ。そんな私の皿に、姉は一番多くクッキーを盛ってくれたし、ロールケーキも分厚いのを乗せてくれた。

食料品売り場の一番端はお惣菜コーナーになる。3割引きのシールが貼られた鶏のから揚げの6個入りパックをカゴに入れる。<ホライズン>の営業時間は午前8時から午後10時まで、半額のシールが貼られるのは大概午後9時を過ぎてからだ。3つ入りの生春巻きのパックもカゴに入れて、日用品コーナーに向かった。

池上さんは家に戻り、半時間もたたないうちに、大きなタッパーいっぱいに作ったおにぎりを届けてくれた。祖母に促されて、片手では持てないサイズの、塩昆布と梅干しの入ったおにぎりにかぶりつきながら電話をじっと見つめていたが、着信音がどんなものだったのか忘れてしまうほどに、何の音も響かなかった。

体調は回復したと思っていたが、食は進まなかった。鶏のから揚げを2個と生春巻きを1個食べると、どちらのパックにも蓋をして、冷蔵庫に入れた。冷えた麦茶をグラスに注ぎ、居間へ持っていく。

田丸さんは栄養ドリンクも自動販売機で買えればいいのにと思いながら、その子が何を買うのか眺めていた。女の子はファンタのオレンジ味のボタンを押し、ガシャンと缶が落ちてくる音がすると、続けて、午後の紅茶のレモンティーのボタンを押した。

午前7時半に池上さんがまたおにぎりを届けてくれた。玄関に出た祖母と私に、池上さんも聞きたいことはたくさんあったはずだが、体力つけなきゃね、と励ますように声をかけただけで家に戻っていった。晩に届けてくれたおにぎりはまだ半分以上残っていたが、祖母は、温かいのをいただこうね、と湯気の上がるおにぎりを陶器の平皿に2個ずつ乗せて、皆に配った。タッパーごとテーブルの上に置いていたのでは誰も手をつけないことが昨夜のうちにわかったのだろう。
続けて祖母は、のぼせて頭が痛い、とこめかみを押さえながらも台所に立ち、味噌汁を作り始めた。我が家の台所の勝手をよく知らない祖母を、私が手伝った。おにぎりは大量に残っていたが、コーヒーは皆で夜中に何杯も飲んだようで、シンクにカップが無造作に積まれていた。
おにぎりに手を付けない母も味噌汁はちびちびとすすっていたのに、祖母がうっかり、そういやジャガイモが入ったお味噌汁は万祐子の大好物だったね、と口にしたせいで、箸を置いて泣き出してしまった。

——万祐子が家に帰りたいって言い出さないように、おやつは毎日、<白バラ堂>のチーズケーキかもしれないねえ。
<白バラ堂>は祖母の家の近所にあるケーキ屋だ。万祐子ちゃんはチーズケーキ、私はチョコレートケーキが好きだった。万祐子ちゃんはチョコレートも好きだったので、一口交換しよう、と言われたことがあったが、チーズが苦手な私は、えー、嫌だよ、ときっぱり断った。一口くらい交換すればよかった。私はチーズケーキを食べないとしても、万祐子ちゃんにはチョコレートケーキをわけてあげればよかったのだ。
お城で万祐子ちゃんがチーズケーキとチョコレートケーキの両方をおいしそうに食べている姿を想像した。

母は片手に<まるいち>商店のレジ袋を提げていて、私が皆に協力してもらったことを伝えると、ありがとうね、と言いながら、チョコレートバーの大袋を取り出して、なっちゃんに渡した。なっちゃんが猫捜しをした子たちにお菓子を配ると、皆が嬉しそうに受け取った。

——昨日からわかってたら、ケーキを焼いておいたのに。
そう言いながら、買い置きしてあったクッキーなどのお菓子と紅茶を人数分、居間のテーブルに用意してくれた。

——ブランカ、あんたのおかげかもしれないねえ。おいで。
そう言って台所に行くと、まだキャットフードの食べ残しのあるブランカの皿に、かつお節をどっさりと盛った。ケフケフとむせ返りながらも、皿に顔を突っ込んでおいしそうに食べているブランカの姿を見ていると、私もブランカがいいニュースを我が家に運んできてくれたように思えてきた。

そんなふうに言いながら、握りずしのパックとハンバーグ弁当をカゴに入れた。お菓子とアイスクリーム、母が普段あまり飲ませてくれない炭酸の入ったジュースも買ってくれた。
(中略)
——結衣子が申し訳ないなんて思う必要ないんだよ。万祐子が家に帰ってくる日には、ごちそうをうんと用意して待っていようね。白バラ堂でケーキも買わなきゃいけないねえ。
祖母の言葉に頷き、私のお小遣いでも何か買ってあげようと思いながら、もう一度箸を手に取った。両親が帰ってきたのは、私が大人用のハンバーグ弁当をようやく平らげた頃だった。半分食べたあたりでお腹いっぱいになっていたのだが、今度は箸を置くことができなくなっていたのだ。

日曜日の朝、家じゅうをピカピカに磨き上げ、白バラ堂のケーキを買って祖母と2人で待っていると、両親と姉が帰ってきた。

万祐子ちゃんが好きなお味噌汁の具って何だっけ。パナップは何味が好きだっけ? 白バラ堂のケーキはいつもの味でいいのかっておばあちゃんが言ってたけど、どのケーキが好きだったのか憶えてる?
味噌汁の具とパナップの味はすぐに答えることができたが、白バラ堂のケーキは、よく思い出せないな、と困った顔で言われた。

——あのね、お菓子、あげる。
そう言って、私は姉の勉強机の上に、サイダー味の飴とイチゴクリーム入りのチョコレートとブドウ味のガムを置いた。どれも1つ10円の小さな駄菓子だ。ありがとう、と姉はすぐに夕飯だというのに、嬉しそうにサイダー味の飴を口に放り込んだ。

ちらし寿司や茶わん蒸し、から揚げ、ポテトサラダといったひな祭りパーティーのごちそうを囲んで、まずは、子どもに合わせて皆でカルピスで乾杯をした。姉はそこにいるのが当たり前のように、自分から全員とグラスを合わせていった。

クッキーを焼いたから一緒に食べよう、と言いながら姉は段ボールに目を留めた。

おばあちゃんは大部屋に入っていたから、ケーキは同室の患者さんや付き添いの人たちにも配れるように、15個くらい買って行った。<白バラ堂>のケーキ全種類。そうしたら、おばあちゃん、まずは万祐子が好きなのを選ぶといいよ、って言ってくれた。<白バラ堂>のケーキは久しぶりだったから、誘拐前の万祐子が好きだったのはどれだったか、忘れてしまってた。チョコレートケーキだっけ、チーズケーキだっけ、なんて考えながら、あの子に電話してみようかとまで思った。
そうしたら、おばあちゃんが言ったの。
——今、万祐子が食べたいのを選んだらいいよ。味覚や好みなんて、変わっていくのが当たり前なんだからね。人生はこれからの方がうんと長いんだから。いろんなものを好きになって、自分の変化を楽しめばいい。

湊かなえ著『豆の上で眠る』より