たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

『傲慢と善良』密林に感謝

スペイン語ばかりが聞こえてくるランドリーで、東北の被災地のサンクチュアリを頭の中に再現して読了。辻村深月氏の作品は初めて手に取ったのだが、久しぶりにアマゾンのリコメン機能に感謝した。娯楽読書が好きでよかったなぁと思わされた。
いつか映像化されるのかもしれないが、私の感動はテキストでなくては絶対に味わえないものだった。
ちなみに前回アマゾンに「すすめてくれてありがとな~!!!涙」と思ったのは漫画『さよならタマちゃん』。チェックしたら買ったのは9年前だった...。Kindleとの付き合いももう10年以上になるんだなぁ。プラットフォーマー依存が良くないのは重々承知だが在米生活のQOLを富士山レベルに上げてくれたので離れられない。

「プリンを作っておいたの。あげても大丈夫かしら?」
桐歌の顔を覗き込み、希実に尋ねる母の顔つきが嬉しそうだった。プリン、の言葉が出て、桐歌の表情も少し変わる。

「ここ、ピザでもパスタでも、なんでもうまいんスよ。あと、夜くると生ハムとかつまみも」
「普段はご家族といらっしゃるんですか?」
「ですね。普段は、子どもや嫁と一緒に。子ども用の椅子とか食器なんかも用意してくれて、子連れにも優しい店なんスよ」
(中略)
サラダがついたパスタのプレートが運ばれてくる。「食べましょうか」と金居が言った。
(中略)
やってきたばかりの湯気が上がるパスタをフォークに巻きつけながら、金居が小声で「いただきます」と言い食べ始める。
(中略)
架のパスタの皿の隅で、チーズが固まり始めている。冷めてしまったパスタからは、ほとんど味が感じられなかった。

テーブルには彼が飲んでいたらしいメロンソーダと水が置かれていた。
(中略)
ママ友たちの一団から、子どもたちが数人、連なってドリンクバーにやってくる。どれにするー、わたしメロンソーダ。わたし、コーラ、だけどお母さんにコーラはダメって言われるかも。

ベルギー産のよく知る銘柄のビールがあったのでそれを頼むと、テーブルの上にすでにあったサラダやパスタが架の皿にも手際よく取り分けられた。

途中、石母田の娘がお茶とお煎餅を持ってきてくれたが、真実たちが話している様子を見ると、お茶を出してすぐ、何かを気遣うようにそっとその場を去っていった。

辻村深月著『傲慢と善良』より