たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

米国でテリヤキバーガーを食べるなら『鍵のない夢を見る』

先月辻村氏を知って湊かなえ氏以上の多作ぶりに驚いている私としては、巻末の林真理子氏との直木賞対談の「今回の受賞は、この先もきっと小説を書いていくだろうと信頼していただけたからなのかもしれないと思うようにしています」が印象に残った。

林氏がどこかで、ちょっと売れたら名前を使って別のことをやり始め、実質書かなくなる女性「作家」が多いという文脈の中で、小池真理子氏はちゃんと書き続けているから好きだ、というようなことを言っていたのを妙に覚えていて、それと同じだなと。
(ちなみに小池真理子氏は20年前にハマった。5冊くらい読むと飽きるんだけど一部今も記憶が鮮明なミステリーあり)

自分の仕事でも思うけど、生き残る秘訣は続けること、のれんを掲げ続けることなのよ。当たり前すぎてビックリするけど。

日本のマックのテリヤキ食べたい。仙台で初めて食べたときのことは忘れられない。
アメリカでテリヤキバーガーを食べたくなったらHabit BurgerのTeriyakiはおすすめできる。グリルした玉葱と合って美味しい。パイナップルも入っているので、イヤな人は注文時に抜いてもらうこと。
今はもう消されたようだが、Carl's Jrのは最悪で泣きたかった。渡米間もないころは「あっ、テリヤキだ」と飛びつくほどナイーブだったのだ。

名古屋で降りて、お昼ご飯にはひつまぶしのお店を予約してございます。

文字通り開放的な雰囲気で、散らかった部屋の中で律子の母がアイロンをかけているところが見えたし、土曜のお昼が秋刀魚だってことまで匂いでわかってしまう。

私の分のご飯をよそいながら、何気ない調子に母が言う。私は答えなかった。黙ったまま、テーブルの上に並んだ母の佃煮や漬け物を眺めていた。実家は、どことなくいつも食べ物の匂いで甘ったるい。

すごく楽しかったし、あそこの肉まんと餃子の他、エビチリも―――

何かの食べかすのような染みがついていた。その手がテリヤキバーガーを食べ始める。
(中略)
オーガニック野菜のカレーや地元でとれたしらす丼の写真が並んでいて、食器がおしゃれだった。
(中略)
自分のテリヤキは放置したままなのに、私の食べてたバーガーを取って食べ始める。頼んだもののシェアは、2人の間では当然のことだった。陽次は注文がかぶるのを嫌う。自分が頼もうと思っていたものを誰かが先に頼んだ途端、露骨なまでに不機嫌になったり大袈裟に「あ」と声を出すような子供っぽいところがあった。
「俺のテリヤキも食べなよ」
「いいや。テリヤキ、ソースたれるし、マヨネーズこってりだし」

「俺、味噌ラーメン。お前は?」
案内される前にさっさと座敷に上がり、壁に貼られたメニューの紙を見て陽次が言う。
「私、カレー」
「お前、部屋の中なんだから帽子取れば? 行儀悪いよ」
(中略)
ラーメンがやってきたばかりで、目の前で湯気が上がり、味噌の匂いがしていた。

コーヒーの色と匂いが染みついたような暗い壁の店内に、芹葉大生は私たちぐらいのものだった。学生が通うには値段があまりに高いのだ。その上、私には、目の前のコーヒーと普段よく飲む学食のコーヒーの違いもはっきりとはわからなかった。
宝石のような褐色の氷砂糖を、カップに1さじ入れてかき混ぜる。雄大はブラックのまま、馴れた手つきでカップを口に運んでいた。
「あまりお金は使いたくないんだけど、まずいコーヒーは飲みたくないから」

食べかけのままになっているテーブルの上のトマト缶と煮た鶏肉の夕食が滑稽で、もう一口も食べたくなかった。
(中略)
「普通にしてればいいよ」と答える雄大は、もう話題に興味を失ったように平然として、私が作った夕食を食べていた。「ちょっと味が薄い」と催促されて、答える気力も失せながら、私はこしょうの瓶を手渡す。

私が買ってきたコンビニ弁当を、雄大は貪るように食べた。ペットボトルを勢いよく傾けて、唇からこぼれたお茶が顎を滑っていく。

午前中のうちに作っておいたバナナのパウンドケーキを、理彩が「おいしい」と言って食べる。
(中略)
「ほんとう? ごめん。お土産、卵を使わないパンとかにすればよかったね」
「あ、いいのいいの。学が食べるし」
理彩のお土産のクッキーを皿に並べ、「理彩は食べて」とテーブルに置くが、理彩は「あ、うん」と頷くものの、クッキーもケーキもそれ以上食べなかった。バナナのパウンドケーキ用に買った卵が、うちでは久々の卵だったのに。

簡単にできる離乳食として、納豆のまぜご飯を用意する。

ある日、ネギを買い忘れたことに気づいた。
テレビでレシピを見た、冷凍保存の利くネギ豚ハンバーグは、簡単にできそうで、おいしそうで、疲れた日でも、すぐに学の夕ご飯に一品増やせそうで、魅力的だった。豚挽肉にはもう下味をつけ、料理を始めてしまっている。

辻村深月著『鍵のない夢を見る』より