たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

初めてのものを食べる『団地のふたり』

日本の地名はすぱっと正しく漢字変換されるなー。いちばん基本の要件なのかもしれないけどすごいなー。私の名前なんか、かなりありふれた名前なのに初めて使う環境では一発変換されないからなー。

「めずらしい野菜」に限らないが、スーパーに行くたび食べなれたものばかりでなく別のものを買ってみる、という姿勢が認知症予防になると聞き、まあ、なんの予防にならなくてもいいのだが、日常の風通しをよくするのによさそう、と思い、なんとなく実行している。

月に一度、ダンボール箱いっぱいに旬の野菜が届く。
たとえば今月は、茨城県小美玉市産のキャベツと紅はるか。同じく茨城県産、結城郡のレタスと鉾田市の水菜。北海道からは富良野の人参、美幌町の玉ねぎ、勇払郡のブロッコリー、帯広市のメークイーン、など。
ほかにも熊本県山鹿市の大長なす。埼玉県のマスタードグリーン。長野県は中野市の特大なめこ、千曲市の高原やまぶし茸。同じく長野県から安曇野市のりんご=シナノスイートや、愛媛県宇和島市からの極早生みかんといった、みずみずしい果物もいっしょに入っている。
(中略)
「マスタードグリーンって?」
「からし菜、西洋種の」
「へえ、どうやって食べるの」
「お肉を巻いて食べるとおいしいって」
「サンチュ的な?」
「だね。ピリッと辛いみたいだけどね。あと、炒めてもいいみたい」
野菜の詰まったダンボール箱には、ひとつひとつの保存方法や、だいたいの消費期限、特長、おすすめの調理法なんかを一覧表にした便利な紙も入っている。毎月ひとつかふたつ、この近所ではあまり見かけない、もし見かけても自分からはすすんで手に取らないような、めずらしい野菜が届くのもひそかな楽しみだった。

届いたばかりの野菜は、なるべく素材そのままを味わいたい。
「野菜焼き、食べる?」
ノエチに訊くと、
「食べる」
とうれしそうに答えたので、人参、玉ねぎ、メークイーン、紅はるか、大長なすを薄切りにして、塩こしょうと香草のシンプルな味つけで、野菜焼きにする。
あとは、豆腐と特大なめこのお味噌汁をつくり、土鍋でご飯を炊いた。
よそったばかりのご飯とお味噌汁から、白く湯気が立ち上っている。ノエチとふたり、お茶の間のちゃぶ台に向かい、いただきます、とを明るく言う。きつく焦げ色のついた野菜も、中はほくほくで、ジューシー。甘く、自然な味がする。

ドリップ式のコーヒーをいれ、買い置きのひとくちバウムをデザートに出すと、ノエチとふたり、録画してあったBSの「断捨離」番組を見た。

藤野千夜著『団地のふたり』より