光浦氏がカナダに移住したと聞いてから、ときどき思い出しては関連コンテンツ出てないかなーと検索していたので、この本が出るのがわかったときはうれしかったし即予約した。実際おもしろかった。えらそうで申し訳ないけど、切り口がいいし、文章がうまい(XXで原稿を書いている、と何度か言っているので、ゴーストライター筆ではないと思う)。多少なりとも日本人に顔を知られている人ならではのエピソードもチャーミングで、世間にあふれる海外在住者エッセイとは一線を画す。
それから、一時隔離や検査が求められるコロナ下の海外渡航の記録としても貴重だと思う。検査要件がなくなるまでアメリカから出なかった私は、そんなときにあえて行く人、行かざるをえなくなった人たちが共有してくれた隔離宿の飯レポをうわーーーと思いながら見てたので。
早くカレッジ編が読みたい。
ところで、これに共感↓ うらやましくはないけど。ホームシックにならないのって、結局自分にはhomeがない、ってことかもしれないし、ラッキーなのかどうかはわからんけど。
私は人生で一度もホームシックになったことがありません。ホームシックになる人が羨ましいです。
食事はどれも妙に甘ったるい油の臭いがして普通に不味かったです。コンビニレベル、いやそれ以下のバーガー、サンドイッチ類と、妙な中華料理、ラーメン風麺類とチャーハン風飯類しかメニューはありませんでした。プラスティックのナイフとフォークがふにゃふにゃで、一人だというのにいつも3つも4つも入ってて、もしもの時用にと持って帰ることにしました。
ノックはごはんが置かれた合図です。初めてのランチは、ハムとチーズのサンドイッチに、チョコレートケーキに、フルーツに、コーヒーでした。豪華!
バンクーバーの夏は快適です。日差しは強いが湿度が低く、日本から来た私には寒いくらいで、空は青く、夜の9時過ぎまで明るいです。グレンダが手入れした緑の光る庭を見ながら、小鳥の囀りを聴きながら、サンドイッチを頬張ったら涙が出てきました。わからん。このコーヒーカップが桜の柄で、絶対日本人留学生が持ってきたやつで、ちょっと安っぽくて、全然オシャレじゃなくて、でもそれが大切にされてるからかなぁ?私のホームステイ先では、前日の夕食の残りがランチとなります。食後、自分で好きなだけタッパーに詰めるのです。そこにホストマザーのグレンダがカットしたフルーツ盛り合わせと、手作りカップケーキかクッキーがついてきます。
1日3食。朝はそれぞれの学校によって起きる時間が違いますから、それぞれが勝手に起き、勝手に食べます。本当は卵焼きやらハムやらをつけたいのにな、と思う日もありながら、約半年間、トーストだけで済ませました。
昼食。お弁当は夕食の残りを食後、各自で食べたい量だけタッパーに詰めます。そのタッパーに名前の書かれたいつもの紙(紙も無駄にしない)を貼って冷蔵庫に入れておくと、夜にグレンダが、小さくカットしたフルーツの小さいタッパーと、フォークと、紙ナプキン1枚と保冷剤をお弁当ポーチに入れて、冷蔵庫に入れておいてくれます。初めてお弁当のポーチを開けた時、びっくりしました。3種類くらいのカットフルーツと、グレンダお手製のマフィンと、小さな紙パックのジュースまでついてて。優しすぎて、至れり尽くせりすぎて鼻がツーンとしました。
ヘレナのポジティブな感情の発露は天才的で、ヘレナが「美味しい、美味しい」と言うのが嬉しくて、グレンダお手製のマフィンやらクッキーやらも貢いだりしました。あ、冷凍庫には常にグレンダお手製のマフィンやクッキーがあって、好きな時にレンジでチンして食べていいのです。で、なくなるといつ焼くのか、新しいマフィンかクッキーが補充されているのです。北米レシピの甘いスイーツを私が食べないようにしてる分をヘレナに貢ぎました。
ちなみに新しく入ったホームメイトのチナミは凍ったままのクッキーを 齧るのが好きです。一度真似してみたら普段甘すぎると思っていたチョコチップクッキーがちょうど良い甘さになり、ネズミのように前歯でコリコリするのが気持ちよく、1枚を食べるのに長い時間楽しめるので、これはこれでアリだなと思いました。夕食はみんなで揃って食べます。(中略)いつも3、4品くらい。それぞれが大皿に盛られて、銘々の皿に好きなだけよそいます。野菜、炭水化物が中心です。魚は出ません。グレンダが内陸の州の生まれで、子供の頃から魚を食べる習慣がなく、魚が食べられないのです。アジア料理も随分大人になってから入ってきた味だそうで、味噌、醬油は苦手です。餅米だけでなく、日本人のいわゆるご飯もスティッキー(ねっちょり)ライスと呼ばれるのですが、そのスティッキーな部分が苦手です。でも日本人はお米が好きでしょう?と気を使って月に2、3度くらい米を出してくれます。インドカレーなどで見かける細長いコリコリした歯応えのもの(植物の種子)を混ぜたご飯に、ちょっと醤油味っぽいスープ野菜炒めをかけていただきます。どえらい譲歩です。ありがとうね。美味しい。
他にも美味しかったのは、コールスロー。豆の甘酸っぱいサラダ。にんじんとレーズンのサラダ。ズッキーニのチーズ焼き。ポタージュスープ。ほうれん草のオムレツ。ジャガイモのグラタン。ラザニア。ミートソースパスタ。サンクス
ギビングデーにでるターキー。色々......。
日曜日の朝だけはみんなで一緒に食べます。グレンダがパンケーキか、ブルーベリーのパンプディングを焼くのが決まりです。それにカリカリベーコン、フルーツがついて、ホテルの朝食みたいです。私はしとっとした、ミルクと卵の素朴な香りのパンプディングが大好きでした。食後に何か口寂しくて、で部屋に戻ってスナック菓子を食べるようになりました。ドリトスのチーズ味がしょっぱくて歯応えあっていいのよねぇ。そして、みるみる太ってゆきました。
どうしても和食が食べたくて、お鍋を借りて日本米を炊き、ゆかりおにぎりと塩昆布おにぎりを作ったことがあります。日本人留学生が食べているのを見て、どうしても、どうしても、食べたくなちゃって。
安い食材を買い、毎日、冷蔵庫の中身を見て、適当に和食を作っています。最近のヒット作は、豚肉と大根炒めです。こちらの大根は小ぶりの細めで水分も少ないです。葉っぱは切り落とされ、メロンなど高級果物にかぶせる発泡スチロールの網網が着せられ売られています。ちょっとお人形みたいで可愛いです。
カフェテリアはありませんから窓のない教室でみんなサッと済ますだけです。ジップロックに入れた、食パンにチーズとペラペラのハム1枚挟んだだけのお手製節約サンドイッチをモソモソ齧っていると、韓国人の女の子らに話しかけられました。
「ヤスコは有名人なの?」
「?」
「日本人の子たちが言ってたよ」コロンビア料理は味付けはさっぱりの塩胡椒が主流です。スパイシーではないです。馴染みやすいです。お米が主食で、焼いたお肉に野菜を添えて、が基本でしょうか。切っただけのアボカドがよく添えられていますが、こっちのアボカドは大きくて、とっても美味しいです。甘くない青いバナナを焼いたやつもよく添えられています。あ、あと果物、マンゴーやパパイヤや、トロピカルフルーツの味が違います。日本の桐箱に入ったリッチな甘さでなく、カナダのスーパーの熟しきれてない青い甘さでなく、酸味も含んだ元気な甘さでいつまで食べても嫌にならない。やっぱ地産地消に敵うものはないです。
そんな中、私がハマった料理は「アヒアコ」。チキンとじゃがいもの白いスープです。塩味であっさりなんですが、チキンの旨みがしっかり出てて、じゃがいものポタージュですから、食べ応えあり。とうもろこしが入ってたりもします。私の大嫌いなパクチーも入っているのですが、パクチー臭さを全く感じません。いろんなコロンビア料理をトライしましたが、アヒアコにハズレなし、です。どこのレストラン、食堂で食べても大体美味しいです。一度だけ、近所の肉体労働のおじさんらが集まるような食堂で、定食を食べました。プラスティックのコップ、プラスティックの皿が出る系の店です。美味かったー。アヒアコも美味しかったし、チキンをタレにつけて焼いたのも美味かったー。塩胡椒に、BBQソースがうっすらついてるような味付けで。食べきれないよ、てな量で一人200円くらいでした。私はこういうローカルな家庭料理が大好きで、毎日行きたいと言いましたが却下されました。
人を家に招いた時、いつも作ってる料理でも「ちょっとお客さんに合わせて」、なんて調味料の配分の変えたり、丁寧に切ってみたり、材料をよくしたりすると、逆に不味くなるってことありません?私はこれを「気取り」と呼んでいるんですけど、この「気取り」という調味料は美味さを軽減する働きを持っています。ヘレナとホアンホアンは私のために車を走らせてくれました。絶対にヤスコに一番美味しいコーヒーを飲ませたいと、コーヒーで有名な田舎の小さな街へも連れて行ってくれました。でも着いたのが遅くほとんどの店が閉まっていました。探して探して1軒だけ、コーヒー畑の上にある山の茶屋みたいな屋外カフェ?が「ファミリーが宴会してる隣でもいいなら」と、コーヒーを飲ませてくれました。
酸味の効いたフレッシュな、味のしっかりしたコーヒーでした。そこで飼われている犬がふらふら歩いてきました。南米には痩せた茶色い犬がよく似合う。空の色が紫から紺に変わって星がでました。
光浦靖子著『ようやくカナダに行きまして』より