たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

益田ミリとフィンランドとシナモンロールと

フィンランド、エストニア

文中のユーロの円換算が今より3割くらい安い。どこへ行っても日本人だらけ、という記述。観光スポットや有名店の最寄駅からは日本人が大勢歩いているから絶対に道に迷わないとか。マリメッコに並んでいた30人ほどがほぼ日本人とか。パンデミックを経て様変わりしたんじゃないかと思う。ラスベガスや西海岸の観光地も全然日本人を見なくなったので...。
他方、ヘルシンキの人気カフェで日本の芸能人を見かけた、とも書いてある。私が米国でたまたま気づいた日本の芸能人はただひとり、中村玉緒 in ラスベガス。MGMグランドでスロットを打っていた。たぶん、ホノルルあたりではすれ違っているんだろうけど気づいたことがない。そういえば、カリフォルニアのネイティブアメリカン・カジノで韓国の俳優を見かけた。50ドルずつガンガン入れてて目立った。

アカデミア書店の2階のカフェ・アアルトで、オレンジジュースを飲んで一休み。旅の間中、いろんなカフェでオレンジジュースを飲んだが、必ずその場で生のオレンジジュースをぎゅーっとしぼったものだった。氷なしで、なみなみグラスに注いでくれるのも共通である。夕食用に、カンピショッピングセンター内のカフェでフルーツサラダやヨーグルトを買い、その後、地下のスーパーにも寄ってみた。
(中略)
お土産に長ネギのカップスープなどいくつか買ってホテルに戻る。午後8時を過ぎても太陽は明々と輝いていた。

一通り見て回ったあと、港のマーケットへ。ポストカードを数枚買い、港近くのオールドマーケットのスープ屋「ソッパケイッティオ」で昼食を取る。パプリカスープはすっきりとした苦み。レンガ色だ。もろもろとした食感も楽しく、おかわりしたいくらいおいしかったが、並んでいる人もいたのでやめておく。

夕飯はセルフサービスの気軽なカフェで、ショーケースに並んでいたクルミとブルーチーズのサンドイッチを注文するのだが、まったく通じない。
クルミって、「ウォールナッツ」っていうんじゃなかったっけ?
3回くらいやりとりしても通じないので、適当に「イエス」と言ったらトマトとハムのサンドイッチが出てきたのだった。もう、ヨシとする。
トマトとハムのサンドイッチを食べながら、海外旅行、についても考える。

タリンの滞在時間、短く設定しすぎた!
(中略)
帰路の船内では、レストランのビュッフェを利用してみた。日本円で3千円くらい。トナカイ肉の煮込みや、ミートボールなどの北欧料理も並んでいた。
デザートコーナーには危険なものが。ボールいっぱいの生クリームである。ビスケットにつけて食べてみたところ、空気を含んでふっわふわなのに、力強いコク。
どうしよう、生クリームおいしすぎる!
最後は生クリームだけお皿に盛り、コーヒーとともに食べるという暴挙に......。レストランの座席はゆったりした配置で、2時間の席料も込みだと考えれば、ビュッフェレストランはお得かもなと思った。

エスプラナーディ公園にクレープを売る屋台が出ていた。屋台というより、自転車の荷台にホットプレートをのせただけと言ったほうがいいかもしれない。若い男性の店主が大きな声で歌い、客寄せをしていた。めちゃくちゃ適当な感じの歌なのだが、それがあんまり楽しそうなので、みな、つい立ち止まって笑顔に。彼が焼くクレープは、おそろしく分厚く、端のほうは焦げ、歌と同じく適当な仕上がりだった。中学生くらいの男の子たちがおもしろがって買っていた。

4日目はアアルトのカフェで朝食。午前9時のオープンと同時に一番乗りだ。
(中略)
モーニングは4種類。「アアルト」「詩人」「ミュージシャン」「ラツァエロ」。なかなか素敵なネーミングなのだった。
「ミュージシャン」をチョイスしてみた。
黒パン、ヨーグルト、分厚いトマトスライス、同じく分厚いキュウリスライス、チーズ、ナッツとドライフルーツのグラノーラ、フレッシュオレンジジュース、コーヒー。
これでだいたい1300円くらいだろうか。物価の高い北欧では、かなりお得に感じる。見た目よりボリュームがあり、食べ終わるとおなかがいっぱいに。
(中略)
朝食のあとは、電車に乗ってミュールマキ教会へ。光の教会とも呼ばれている、美しい教会らしい。

再びトラムに乗り、今度は「カフェ・スッケス」へシナモンロールを食べに行く。前回のひとり旅のときに、おいしくて感激したカフェである。
コーヒーとともにシナモンロールを注文。食べる。
そうだった!!
前回は店のオープンと同時に入店したから、シナモンロールができたてで、ぬくぬくだったのだ。せっかくなら、またそうすればよかったと大いに後悔。
店を後にし、海が見えるカイヴォプイスト公園へ。
(中略)
その後はトラムで街中に戻り、ヘルシンキ大聖堂の真ん前にある老舗のカフェ・エンゲルで一息。
隣のテーブルのカップルが何やらおいしそうなものを食べていた。見た目はカリっと揚げたハンバーグ。ふたりの会話から、どうやら野菜料理のようである。赤っぽいので人参かもしれない。食べてみたい気持ちがパンパンにふくれあがる。が、しかし、さっきのシナモンロールでおなかはいっぱい。
明日の夜ご飯は、絶対に、ここで同じものを食べよう!
と店を出た。
(中略)
夕飯はストックマンで買ったお惣菜。量り売りなので、少しずついろんなものが食べられる。
チキンとヤングコーンのカレー、ライス、ガーリックポテトグラタン、ロールキャベツ。
これで千円くらい。どれもおいしく、ロールキャベツは、売り場のお姉さんのおすすめ。中にお米が入っていてもちもちしていた。

手早く身支度し、アアルトのカフェまで朝食を食べに。昨日のモーニングセットは量が多かったので、今日はオレンジジュースとプッラにする。プッラは甘いパンのこと。相変わらず店員の女性は感じがよく、弾むように働いている。

「スープランチ、プリーズ」
ワインビネガーがかかった、酸味のあるパプリカスープが運ばれてきた。サラダはビュッフェスタイルで、コーヒーと紅茶も飲み放題。観光スポットから少し離れているので地元客が多く緊張したけれど、おいしくて、もう一度次の日のランチにも訪れたほど。「Café Deja」という店だった。

ハンバーグに見えたのは、千切りにしたビーツを丸くして、フライにしたようなものだった。サクサクしていたので、小麦粉を混ぜているのかも。大量のマヨネーズをつけて食べる。疲れたからだが欲している塩気だった。

朝食はエルプラナーディ通りのカフェ・エスプラナードへ。ショーケースにケーキやパンが並ぶセルフサービスのカフェである。旅の間、何度かお茶しに寄ったが、広いから混んでいても席がないということがなかった。
窓側の席に座り、ホットカプチーノとカレリアンピーラッカ(お粥入りのパイ)の朝ご飯。

カウンターで注文し、先にお金を払うシステムだった。ネットで調べるとサーモンスープがおいしいらしいが、ハンバーガーも有名みたい。メニューに野菜のハンバーガーがあり、それに決める。
(中略)
しばらくして、楕円の城井お皿にのったハンバーガーが運ばれてきた。ベジバーガーが16.9ユーロ。日本円にして2千円ちょっと。グリーンサラダが添えられている。
バンズは見るからにやわらかそう。パクリと頬張ると意外な食感。グリルした大きめの茄子やパプリカである。大豆ミートのパティを想像していたので意表をつかれる。
塩加減もぴったり。おいしい。しかし、半分を過ぎたあたりで、パンとグリル野菜だけというのがものたりなくなり、今度来たときは肉のバーガーにしようと思う。

キアズマのあとは、トラムで老舗カフェ・エンゲルへと向かう。お昼のベジバーガーを食べたのが遅かったので、夕飯は軽めにデザートと紅茶に。
窓辺の席が空いていた。キャロットケーキとルイボスティー。しばし読書タイムだ。旅先で、さらに本の世界に旅する贅沢さよ。
本の世界から戻って顔を上げれば、窓の外にヘルシンキ大聖堂。特等席だ。読書と観光とお茶を同時に行えるひとときを味わった。

缶入りのシードルを何度か買った。甘いタイプ、辛いタイプ、両方試したが、わたしは甘めが好み。ほどよいアルコールで、ほろよい。楽しい一日だったなとホテルのベッドで眠りに落ちる幸せなひととき。
インスタントスープや、チョコレート、マリメッコの紙ナプキンなども、お土産にちょこちょこ購入。日増しに、スーツケースの中がスーパーの棚のようになっていく。

宿泊先の、「ラディソン ブル プラザ ホテル ヘルシンキ」の朝食ブッフェが充実していて、ついつい食べすぎてしまう。甘すぎないシナモンロール、香ばしいライ麦パン、クロワッサンはバターたっぷり。チーズは固形からクリームタイプまで豊富に揃い、豊富といえばヨーグルトもいろんな種類が並んでいる。野菜のソテーには、マッシュルームがごろごろ。サーモンやハムやたまご料理。しぼりたてのオレンジジュースも、ベリーのジュースも本当においしい。ここの朝食ブュッフェを控えめにするには強〜い意志が必要である。
だがしかし、短い旅だ。ホテルの朝食が、昼食兼用になってしまうのはもったいない。今回の旅では、レストランでおいしいランチを食べようと張り切っていたのに、おなかが減らないのは大問題である。
というわけで、強い意志で朝食を飲み物とフルーツだけにして、4日目は気になっていたレストランでランチ。
(中略)
ハカニエミマーケットから歩いて5分くらいの「シルヴォプレ」という店である。
ランチは11時から。混み合う昼時を避けて一番乗り。店の中央にズラリと料理が並んでいた。30種類くらいあっただろうか。さまざまなサラダや煮込み料理。
「好きなのをこの皿に取って、レジで重さを量ってもらえればいいよ!」
(中略)
窓側の席に座り、窓の外を見ながら食べる。
マッシュルームにバジルソースがたっぷりかかったサラダ。おいしい!
カリフラワーのトマト煮込みはちょっとスパイシー。おいしい!
どれもこれもおいしい!
改めて、不思議だなぁと思う。生まれ育った場所からこんなに遠い国へ来て、そこの料理をおいしいと思うこと。おいしいって、不思議だ。

夜、フィンランドでパスタを食べた。黄色いパスタである。
カウンターで注文するとき、
「黄色いパスタを食べたいんですけど」と英語で言うと、すぐに伝わった。デザイン博物館や、老舗のパン屋、おしゃれな雑貨屋があるエリアにある、「ナンバーナイン」というカフェである。
(中略)
黄色いパスタがやってきた。本当の名前は「ポッモ・リモネロ」だとガイドブックには載っている。
レモンが添えられていたので、なにも考えずしぼってしまった。当然、食べるとレモン風味。しまった、先に味見したらよかった。もとの味がよくわからない。
薄味だ。そしてクリーミーだ。香辛料は感じないので、カレーの黄色ではないようだ。じゃあ、この黄色はなんなのか。サフランか。ガイドブックにも味のことは書かれていない。なにかわからないけど、きらいじゃない。おいしいとも思う。レモン風味の黄色い生クリームパスタだ。やわらかい鶏の胸肉が入っていた。
食後はトラムに乗って、おなじみ「カール・ファッツェル・カフェ」へ。
オープンテラスの席でホットチョコレート。ヘルシンキの9月初旬は秋である。なのに、陽が沈むのは夜の9時くらい。長い一日が楽しめる。
(中略)
カールファッツェル[ママ]のホットチョコレートはあっさりしているので、甘い物を欲しているときはものたりない。ケーキも注文すればよかったなと思いながら、店を後にする。

開店したての社員食堂には、まだほとんど人がいなかった。
(中略)
ビュッフェ形式で、カウンターに並んだおかずを皿に取っていくようだ。食器やトレーもすべてマリメッコである。
社員らしき女性がトレーを手におかずを選び始めていた。
よし、あの人をマネしよう。
彼女につづき、あれやこれやと皿に盛っていく。並んでいるのは野菜料理が中心だ。
ブルーベリーのジュースを彼女が選んだので、わたしもマネする。彼女は牛乳も選んだ。わたしは牛乳を飲みたい気分じゃなかった。でもなぜかマネする。最後にパンを切り分け、バターをのせる。レジに進んでお会計。量に関係なく11ユーロ。1500円ほどである。
さて、どこに座ろう。混んできたときにふたり席だと申し訳ないので長テーブルの端にする。料理は薄味でとても食べやすい。大豆ミートのフライ(のようなもの)に、タルタルソース(のようなもの)をかけたのがおいしかった。

パン屋さんでシナモンロールを買い、ジップロックに入れて日本に持ち帰る予定だ。
まずは、港近くの老舗のパン屋「エロマンガ」へ。
店に入ると、小さいけれどカフェスペースもあった。シナモンロールとライ麦パンを持ち帰り用に買い、せっかくなので、コーヒーと一緒に、この店の名物のピロシキを食べていくことに。
ピロシキは、まだほんのり温かく、中はコロッケの具みたいだった。
普通のコロッケが、ポテト9:ひき肉1だとすれば、エロマンガのピロシキの具は、ポテト1:ひき肉9の比率。ひき肉の中に、かすかにポテトを感じる。ヘルシンキでの食事は基本、どこも薄味だった。ここのピロシキもまた薄味でおいしかった。
食べ終わる頃、日本人のカップルが入ってきた。互いに軽く挨拶。ガイドブックで見てきたんですよネ、という照れ隠しのような「おはようございます」である。
トラムに乗り、今度は別のパン屋「カンニストン・レイポモ」へ。ここのシナモンロールは、ヘルシンキ新聞によるシナモンロール・ランキングで1位になったこともあるらしい。店舗はいくつかあり、わたしはヘルシンキ中央駅近くの店へ。
見過ごしてしまいそうな小さな店だ。ショーケースをのぞいてもシナモンロールが見当たらない。
(中略)
店員の女性に、シナモンロールはあるかと聞くと、「ある」という。彼女の背後に山盛りにあった。名物でどんどこ売れるから、ショーケースに並べるまでもないということか。1個買い、一旦ホテルに戻ってゆっくり荷造り。
チェックアウトを済ませ、再びトラムで港のほうへ。去年行ったカフェのスープランチがおいしかったので再訪してみれば、内装はそのまま。店名が変わっていた。メニューを見るとスープもある。ベジタブルスープを注文。ベジタブルの種類は聞き取れなかったが、トマトベースのネギのスープだった。サッとふりかけたバルサミコ酢の酸味が絶妙で、スープ自体にはピリッと辛味も。ものすごくおいしい。この旅の中で一番おいしかった。「Cafe LOV」という店だった。

旅の初日。いろいろあったせいでホテルに到着したのが夕方になり、取りあえず甘い物を食べようとフィンランドの有名チョコレートショップ「カール・ファッツェル・カフェ」へと向かった。
店内は相変わらず混んでいた。旅行客もいるが大勢の地元の人々が気楽におしゃべりしている。
温かいカフェオレとシナモンロールを注文して席に着く。
(中略)
いろいろあったが、とにかくカール・ファッツェル・カフェまで辿り着くことができた。シナモンロールは心に染み入るおいしさだった。

朝、ヘルシンキ中央駅前からトラムに乗って港へ。トラムの路線図が一部更新されていたのでまごまごしたものの、なんとか間に合い10時30分、出航。タリンまで約2時間の船旅である。
この船に乗るのは2度目なので勝手知ったるなんとやら。階段をさくさくあがってデッキ9のフロアへ。セルフサービスのカフェでいちごのスムージーを買い、てきぱきとテーブル席を確保。

昼過ぎのタリンのクリスマスマーケット。
人出はまだそう多くなかった。手袋やマフラーの屋台を中心に、オーナメント、キャンディ、ホットワインを売る屋台が見えた。
じゃがいもと一緒にグリルしたソーセージも売っていた。血合いの黒いソーセージ(ヴェリ・ヴォルスト)はエストニアのクリスマス料理なのだそう。

注文したサンドイッチがやってきた。薄くてパリッとした雑穀パンにアルファルファがたっぷり。トマト、パプリカ、スパイスが効いたカボチャのサラダが挟んである。薄味だが、塩漬けのオリーブやナスのピクルスがアクセントになってちょうどいいバランス。忘れた頃にパイナップルのようなあまい果物が顔を出し、あわい、からい、あまいが絶妙だった。
あと少しでラエコヤ広場のクリスマスマーケットが輝く時間である。食後の熱い紅茶を飲みながら夕日が沈むのを待った。

ノンアルコールのホットワインがあったので買ってみた。テーブルに干しぶどうやカットしたオレンジが置いてあり、お店の女の子がホットワインに入れるようすすめてくれた。ほのかな酸味。香辛料でちょっとスパイシー。両手を温めながらマーケットをゆっくりと歩く。シベリアンハスキー柄のミトンを見つけてお土産に買った。
そうだった。チョコレートドリンクを飲みに行かねば。前回時間がなくて寄れなかったカフェがあったではないか。
(中略)
店に入る。アンティーク調の家具が置かれていた。ホットチョコレートは予想以上に甘かったが「行けた」ことに大満足! もう、これで心残りはない。

ホテルの部屋で湯を沸かし、カップスープの晩ご飯。チーズ味。ショートパスタが入っていた。おいしかったので5個くらい買い足して土産にした。

クリスマスマーケット内でドーナツを食べている人がいた。どこだ? どこだ? 探していたら揚げたてドーナツの屋台があった。ホットコーヒーと一緒に買ってベンチに座る。
ドーナツにはシャリシャリの砂糖がたっぷりかかっていた。
そっと頬張る。
こーゆードーナツを、ずっと、わたしは、食べたかったんだーっ。
心の中でドーナツを叫ぶ。サクサクしていない。でも、パンみたいでもない。そういうドーナツ。
なんておいしいんだろう......。なんだか泣けてきそうだった。
おいしい余韻のままクリスマスマーケットを見てまわる。手作りジャム、キャンドル、アクセサリー。もちろんホットワインの屋台も。フィンランド名物のお粥入りパイ「カレリアンピーラッカ」の屋台には行列ができていた。
冷えてきたので一旦、ホテルへ。夕方には独立記念日のパレードがあるらしいので見に行くつもりだ。それまでちょと一休み。
部屋に戻るとチョコレートと英語のメッセージが置いてあった。
「ありがとう! チョコレートをあなたに」
そうだった。朝、部屋を出る前にチップを枕の下にしのばせたのだった。フィンランドではチップ不要なのだが、今日は祝日なので「独立記念日おめでとう」というメッセージとともに5ユーロを。チョコレートはそのお礼なのだ。
喜び合えたことが嬉しかった。

冷えたからだを温めに「カール・ファッツェル・カフェ」へ。
店の扉を開いた瞬間、チョコレートの香りに包まれる心地よさ! 室内は暖かく、テーブルでは老若男女がおしゃべりを楽しんでいる。お酒もあるので、ひとりでワインを飲んでいる女の人もいた。
わたしはカプチーノ。
(中略)
ちなみに、ヘルシンキで紅茶を注文すると必ず種類を聞かれるので、最初から「ルイボスティー」と注文している。どんな発音で言っても「ルイボスティー」ならわかってもらえる。心強い飲み物である。
お茶していたら、店内に知っている顔があった。日本の芸能人だった。

そうだ、今日はおいしいスープを飲もう!
スープ専門店「ソッパケイッティオ」のスープを飲むため、ハカニエミマーケットまで地下鉄で。
(中略)
スープ屋がオープンし、一番乗りで席に着く。本日の野菜スープはトマト。角切りチーズが入っていた。どんぶり一杯あるのでスープだけでおなかいっぱい。なのに、そのあとマーケット内のカフェで生クリームたっぷりのドーナツを注文するわたし。クリスマスマーケットでおいしいドーナツを食べて以来、からだがドーナツを欲している。おそろしい現象である。

夕飯を食べにおなじみ「カフェ・エンゲル」に行く。窓からヘルシンキ大聖堂が見える老舗のカフェだ。
(中略)
ビーツのハンバーグがやってきた。ビーツのパテは2段になっており、グリルしたマッシュルームが添えられている。相変わらずマヨネーズの量がすごい。怖いもの見たさでまた注文してしまった。

翌朝の日曜日はヘルシンキ市の隣、エスポー市にある近代美術館へ。
(中略)
美術館の1階にはカフェがあり、紅茶とベイクドチーズケーキで一休み。林の中にある静かな美術館だった。

「カフェ・アアルト」には、わたしが好きなお姉さんがいた。よかった、今年も会えた。優しい笑顔で元気よく働いている。
サッと日本語メニューを持ってきてくれた。カフェラテとサバランを注文する。サバランは一口サイズで、たっぷりとお酒が沁みてものすごくおいしかった。味見程度と思い1個しか頼まなかったことが悔やまれた。
夜はストックマンのデパ地下の惣菜コーナーであれこれ買ってホテルの部屋で、部屋着に着替え、テレビを観ながら気楽に食べる。

まだ暗い中、といっても8時過ぎだが、トラムに乗って「エクベリ」へ。ヘルシンキ一老舗のパン屋さんだ。店頭には大好きな菓子パン、バタープッラが並んでいた。この店のバタープッラはスパイスの香りがする。たぶんカルダモン。生地はしっとり。しかしブリオッシュのようなパサつきもあり、一度食べたらクセになる。
日本に帰ったら熱いコーヒーと一緒に食べよう。
そう思うと旅がまだ少しつづく感じがする。
買い物のあと、せっかくなので隣のカフェで温かいカプチーノを飲む。

わたしの最後のミッションは、「ミシュランガイドに載った店でランチを食べてみる」である。
デザイン博物館からすぐの場所にある「ユーリ」という店で、サパスという小皿料理が有名なのだとか。予約はしていないので、オープンと同時に攻め込む作戦である。
(中略)
すぐにメニューを持ってきてくれた。クリスマスメニューの一択であったが、コースによって品数が違うようだ。
「短いコースはありますか?」
と聞いてみた。
ある、という。
3品のコースでメインはチョイスできるらしい。
ポーク、または「なにか」。
パイという単語だけ理解できた「なにか」のほうにしてみる。
しばらくしてパンがきた。クリーム状のバターみたいなのが別添えになっている。あとでわかったが、これが1品目だった。
(中略)メインは魚のすり身の上に薄いパイ生地がのった料理だった。はんぺんを焼いたヤツにかなり近い。ふわっとして淡白。付け合わせはグリルした野菜だったと思う。

オールドマーケットを後にして、最後はお気に入りの「カフェ・エスプラナード」へ。ホットのカフェオレを注文したら、きれいなガラスのコップで出てきた。

益田ミリ著『考えごとしたい旅 フィンランドとシナモンロール』より