たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

揚げ出し豆腐『あの人が同窓会に来ない理由』

西海岸の日本食レストランでバイトしてたときも大人気の前菜だった「揚げ出し豆腐」。アジェダシィ、というお客さんに「アゲダシドーフですね」と確認していたものだ。メインなしで揚げ出し豆腐だけ3オーダーしてご飯をつける若い子もいた。美味しいのか疑問だけど、ボニートなし、と注文されることも多かった。

生ビールと揚げ出し豆腐、軟骨の唐揚げ、エビとアボカドの春巻きが運ばれてきた。吾朗が頼んだのは揚げ物ばかりだった。斉藤さんが「若いね」とからかった。

一杯だけ付き合ってよ、と言った斉藤さんの誘いに乗って、すぐ近くにあるカフェに入った。薄暗い店内は降り出した雨のせいか、混雑していた。どうやら夜にはバーになるスタイルの店らしい。気がつけば午後6時半をまわっていた。
ビールとフィッシュ&チップス、それにトマトの薄切りの上にモッツァレラチーズが載っているつまみを頼んだ。

宏樹は白身魚のフライに手をのばしてから引っ込めた。なんで吾朗がいないのに、揚げ物なんて頼んだんだろう。ここでも悔やんだ。

律子は夕飯のおかずを差し入れてくれた。吾朗がさっそく箸をのばし、頬ばった煮物を褒めると、律子は「吾朗ちゃんは昔からお上手だから」と言って笑わせた。

吾朗は首をひねり、唐揚げに添えられていたサニーレタスをつまんで、食べるかどうか逡巡している様子だ。

建て付けのよくない磨りガラスの引き戸を開けると、午後七時前だというのに、店は混雑していた。テーブル席はすでに埋まっている。客のほとんどが中年を過ぎた男性で、女性の姿はない。カウンターの客に詰めてもらい、なんとか二人並んで席に着くことができた。
沢村あゆみは物めずらしそうに、肉を焙る煙と匂いの立ち込めた狭い店内をきょろきょろ眺めた。壁にはめ込まれた木札の品書きは、どれも燻製されたような色をしていた。
まずは生ビールともつ煮、それに"かしら”と“しろもつ”を塩で二本ずつ頼んだ。
注文して一分もしないうちに、おそらく宏樹の母親と同世代と思しき女将が、泡の溢れた生ビールのジョッキを「ゴトン、ゴトン」とカウンターに着地させた。愛想はない。続いて、お目当てのもつ煮。こちらも汁がこぼれそうだ。
(中略)
沢村あゆみは、さっそくあつあつのもつ煮に七味唐辛子を振り、「ここのもつ、大きいですね」などと感心している。
(中略)
沢村あゆみは口をハフハフさせながら、とろとろに煮えたもつを味わった。
(中略)
沢村あゆみは生ビールを生ビールを飲み、喉にもつが引っかかったみたいなうなずき方をした。
焼き場の若い男が“かしら”と”しろもつ”の皿をカウンター越しに差し出した。宏樹が受け取った皿を二人のあいだに置くと、沢村あゆみが割り箸で肉を串から外そうとしたので、「一本ずつ食べよう」と言って串を手にした。
「せっかく串に刺して焼いたものをバラバラにして食べられると悲しくなる」今日は姿が見えないが、以前この店の主人がそう言っていたのを思い出したからだ。
「もつの煮込みはどう?」
「期待通りすごく美味しいです」
沢村あゆみは、目尻を下げた。「でも残念でもあります」
「どうして?」
「やっぱり、ひとりでは来られそうもないから」

はらだみずき著『あの人が同窓会に来ない理由』より

「宏樹」が仕事を依頼している同窓会代行会社の担当者でちょっと距離があることを表しているんだろうなとは思うけど、「沢村あゆみ」って言い過ぎじゃない?ずっとフルネーム。