たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

メシ作りの耐えられない軽さ 神谷美恵子『神谷美恵子日記』

この本が電子化されていたのはちょっと意外で嬉しかった。偉人の日記を読むと、「人生ってあれこれ詰め込めるものだな」と思う...。とにかく凡人よりも生きてる時間が濃い。彼女は意志の医師である。

で、千葉敦子氏が『ななめ読み日記』で「(彼女に)弁当づくりをさせた夫を許せない」と怒っていたとおり、自分がやりたい書き物や医療の仕事と果てしないおさんどんの板挟みに苦しんだ日々が綴られている。めっちゃ今日的で、日本の家族のあり方は何も変わっていない。だいたいなんで医師で文学者がつまらぬ家事に時間を費やさなけりゃならんのだ。ものすごい損失。

朝阪神ビルの下でコーヒーを、昼ナンバの中華料理やでワンタンとブタマンと、すべてこの世の名残と言った気持で味わった。

昼食にまぐろのさしみ、きゅうりとかにの三杯酢。酒粕汁、父上午後入浴、ひるね。私は又食料の買物。

Rのたんじょう日。月足らずの律が十四才になるとは何という有難いことであろう。しかし何一つ祝らしいことをしてやれぬほど今日は忙しかった。お赤飯をたき、カツレツ、ケーキ、アイスクリームなどを夜の食事にまに合わせた。

子供の日とてプディングをつくりトンカツをつくる。

神谷美恵子『神谷美恵子日記』より

千葉氏は『ななめ読み日記』を書くのに犬養道子『マーチン街日記』のスタイルから着想を得たという。『マーチン街日記』は私が今のところ最も好きな日記文学。ボストンの歴史学徒としての生活記は何度読み返しても飽きない。