たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

Entries from 2023-01-01 to 1 year

健康マニアの不養生『さくら日和』

おそらく10年以上ぶりに再読したのだが、なんてことのない内容を結構覚えていた。さくら先生が病気で亡くなった今読むと、重病にかかるかどうかは人による、という事実を改めて突きつけられる。 このエッセイにかかわらず、さくら先生の健康マニアネタにふれ…

日本のフードトラック『ランチのアッコちゃん』

日本だとフードトラックの営業許可はこんなに早く下りるのか。アルコールまで出しているのなんかこっちではまずありえん。 そういえば、大阪の西区は昼どきになると責任元不明のお弁当屋さんが大勢出没してたなー。折り畳みテーブル1個だけ出して売ってるの…

偽装魚談義『ナイルパーチの女子会』

今年は出会えてよかったな、と思う日本の小説家が何人もいるのだが、柚木麻子もそのひとり。「ナイルパーチ」を読んだのは2018年だから、厳密に言うと再会。とりあえず、書き続けている人かどうかは精度の高いバロメーターだ。当然か。 SAMも、ダンサーとし…

雑誌モデルの時代『セシルのもくろみ』

10年前の小説だが、いわゆる日本の女性誌専属モデルという職業はほとんど虫の息ではないだろうか。私が日本にいたときも次々と雑誌が廃刊になっていたし、こないだ帰国したときビックリしたのは昔ファッション誌の表紙モデルだった人が母が頼んでいる生協さ…

トレンディドラマ時代『彼女の嫌いな彼女』

20年近く前に一度読んだらしいのだが、途中から物語の顛末をこまごまと思い出しだ。冴木の最後の台詞まで覚えていた。こんなのほほんとした女性誌小説にも巻末に「差別的ととられかねない表現が...」のディスクレーマーがつけられているのはいくら人権更新国…

絵本の食べ物を再現する『許されようとは思いません』

2年前に『汚れた手をそこで拭かない』を読んだらしいのだが、あらすじなどを読んでみてもまっっったく思い出せなくて恐ろしい。 「ばあば、いつも言ってるわよね? カメラが回っていない間も仕事なの。考えればわかることじゃない。パパ・チキンの人が相手な…

寒空の安アイス『夜の谷を行く』

田中美津著『この星は、私の星じゃない』を呼んで、永田洋子氏のことを知りたくなり、たどり着いたもののひとつがこのアダプテーション小説だった。巻末の弁護士・大谷恭子氏の解説にもあるが、判決主文の「女性特有の執拗さ...」の破壊力が強すぎる。これは…

ドリアンとトホホ英語『アスクレピオスの愛人』

話し言葉もそうだけど、メールで「女ことば」の「〜わ」を使う奴いるか?昔の小説に突っ込むのも野暮か、と思ったら、これ2012年刊でエボラも出てくるのであった...。 ↓あと、医学部をFaculty of medicalとはまず言わん。どこかの英語圏の大学のサイトを参照…

ハーゲのアイスに始まり手作りチョコケーキに終わる『夜行観覧車』

日本ではハーゲの販売元がサントリーということで、不買運動陣に悲鳴が上がってましたな。常々、日本におけるハーゲのアドバトリアルは過剰だと思っていた(新しいフレーバーの開発秘話で情報番組の20分を使うとか)。バックにサントリーと聞けば納得がいく…

小豆島のふし『八日目の蝉』

私は、いい大人の食習慣についてジャッジするのは最悪だと思っているが、この小説を読んで、飲料含めて全食コンビニの日本の知人の食生活に生理的といっていいほどの嫌悪感を抱いてしまったのを思い出した。「今朝はからあげくんと野菜1日これ1本だった」な…

ごはんを作ってくれる友達『盲目的な恋と友情』

そういえば私も一時期大学オケでバイオリンを弾いていたのだった。どこかのセミプロの人が指導に来てくれていたのも同じだ。今の日本で学芸員さんになれたのはすごいけど、生きていけない給与やん、と余計な心配もした。 気張って材料を用意するような料理で…

『肩ごしの恋人』のパスタ

たぶん10年ぶりの再読。最後に女性が男性ゲイに夢中になるところだけ記憶していた。当時もいやそれナイから、と思ったんだろうな。『メゾン・ド・ヒミコ』をゲイ友人たちが口を揃えて「あれ絶対ナイから」と言っていた時期に読んだのかもしれない。 直木賞受…

SAグルメと大人の天ぷら『どうしても生きてる』

今すごく食べたいもの。ミョウガの天ぷら。明石SAで売られている諸々。 どうしても生きてる (幻冬舎文庫) 作者:朝井リョウ 幻冬舎 Amazon 「うわ」フードメニュー越しに、母がまた声を漏らした。いつのまにか、テーブルにはビールの入ったグラスが2つ、置か…

さまざまな家庭の食卓『50歳になりまして』

光浦さんの留学話、もっと読みたい。聞きたい。 子供がいると、子供中心のメニューになってしまいます。カレーも子供に合わせて甘口です。そんな子供味に飽きた夫婦に、ヤムウンセン、タイの春雨サラダを作ってあげたらすごく喜んでました。「家で、辛いもの…

「わたくし」の『トリオリズム』

なんだかすごいエンタテインメントを読んだ。コミケ参加時の立ち回りを見てすっかり好感を持った叶姉妹。さすが、She knows what she's doing. 旅先で最初にしなければならないのは、レモングラスやハイビスカス、ローズヒップなどのハーブティーを飲みなが…

『ピンクのチョコレート』というか焼肉と昼間のビールの醍醐味

私にとっても、これまでに美味しかったビールシーン、ベスト1は昼間、業務時間中だ。某優勝パレードのアテンドの後、西大阪の蕎麦屋で飲んだ小さな100円ビール。水を飲んだり、カレーを食べたりしただけでチクられる公務員や公共事業従事者をほんっとうに気…

殿下の見送りと朝井リョウ『何様』

まだ少年の今上天皇が初めてひとりで外国に出発する。飛行機のタラップをのぼりきったところで振り返る。片手を上げる。すると、下から彼を見守っていた圧倒的に男性ばかりの一団が一斉に手を上げて振り返す。 この瞬間をとらえた映像にザーッと涙が出る理由…

「敬虔な」家庭でも起こる摂食障害 Becoming Free Indeed

世のメディアから遮断され、学校にも通ってないのに(母親とIBLP教材によるホームスクーリング)摂食障害になるのはちょっと意味がわからない。IBLPの環境も世間と同じ程度には有害なんだろうと推測するしかない。 It helped me to know that I could eat su…

ワインは水 中野京子『ヴァレンヌ逃亡』

氏の著書を初めて手にした。折々に人物や習俗のこぼれ話を交えた躍動感あるストーリーテリングで面白かった。ベルばらも、私はオスカル亡き後のパートのほうが好きだったんだよな。池田理代子氏が、オスカルの死後は数週間で最終回にするように出版社から言…

本物について 朝井リョウ『スター』

私が常々考えている「本物」「時の流れに耐える創作物」の条件についての一考察で面白かった。南沢奈央氏の解説がとてもよかった。 スター 作者:朝井 リョウ 朝日新聞出版 Amazon 「2人とも、もう昼飯食うたね?」食料庫に酒を収めていると、桑原がそう訊い…

小劇場の置きチラ 朝井リョウ『何者』

SNSをやっていないサワ先輩みたいな人間のひとりにとっても「わかる」ポイントの多い話だった。一緒に過ごしていた友達が気づかないうちにほぼリアルタイムで加工まで施した写真を投稿していて、後で「いつの間に!」とビビる、というのは私も経験ある。 自…

10年ぶりの三浦綾子『この土の器をも 道ありき 第2部 結婚編』

10年ぶりに読み返した本書、具体的な信仰の手本、奇跡の証としてとても良かったのでnoteにメモした。青春編も4年前に読み返している。 この土の器をも―道ありき第二部 結婚編 (新潮文庫) 作者:綾子, 三浦 新潮社 Amazon 「何かうまいものはないかなあ」見つ…

朝井リョウ『正欲』

新し目(というのも変だが)の小説に出てくる若い登場人物の名前は漢字変換しづらいことが多い。候補に出てくるのを探すより、漢字を組み合わせたほうが早かったり。それがリアルということなんであろうな。私の同級生の名前を思い起こすと、ほとんどが候補…

昭和から平成『笹の舟で海をわたる』

終戦から阪神大震災まで盛りに盛り込んだ『フォレスト・ガンプ』みたいな忙しない話だった。ラスト2割の駆け足っぷりがザッツ連載小説。「てんぷら」の表記がゆれているのは原文ママです。 笹の舟で海をわたる 作者:角田 光代 毎日新聞出版 Amazon 金太郎さ…

ロックダウン中のロンドン食探訪『ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた』

「主人公」が仏教用語だ、という記述に一瞬興奮したのだが、ちょっと検索してみたところ、言い切ることはできなさそう。まあ、何も考えずに使っていた言葉なので、「主役」とは違う含蓄に気づけたのは面白かった。 この本、装丁がいまいちすぎないか。電書で…

ポートランドで『心臓を貫かれて』

ポートランドには多少土地勘があるので、「ああ、あのへんで...、うわー、あそこだ」とシーンを想像しながら読んだ。 が、やはり原書で読むべきだろうな。ムラカミの翻訳といえば『キャッチャー・イン・ザ・ライ』の逃げタイトルが批判されたりしていたが、1…

力の素を食べる『くもをさがす』

あるサバイバル物語 in バンクーバー、大変面白かった。著者のメッセージを私なりにしかとキャッチした。頭の中になぜか辻元清美議員の姿が浮かんでしかたなかったが。 くもが教えてくれたこともそうだが、それ以上に病院に行くしばらく前からふとアルコール…

思いがけない5つ星生活記『人生はどこでもドア―リヨンの14日間』古き良きエアビー

コミュニティ論として、フランス食材レポートとして大変面白かった。東京の銭湯でもリヨンのカフェでも、溶け込ませていただく鍵はrespectとその実践としてのdecencyだということ。 ただ、言葉は肝ではないとはいえ、言葉ができたらもう少しショートカットで…

「毒親」前史『ドールハウス』

立て続けにチックリットを読んだあとではかなりドキッとするintenseな行間、粘液感(主人公は、相手の体臭や口の中の状態をエグく気にする。自分もちょいちょい口をすすぐ。手をこまめに洗う)。さすがにこの父母はマンガすぎるのではないかと思う私は、親ガ…

今日も働く『プラナリア』

ピッチが出てくる2000年刊の直木賞受賞作。20代のはじめに一度は読んだらしいのだが、何も覚えていなかった。今はプーの心境がとても面白い。最後の1篇「あいあるあした」は昨今提唱や実践が増えたように感じるゆるい家族、コミュニティ、コモンの形が描かれ…