新し目(というのも変だが)の小説に出てくる若い登場人物の名前は漢字変換しづらいことが多い。
候補に出てくるのを探すより、漢字を組み合わせたほうが早かったり。
それがリアルということなんであろうな。
私の同級生の名前を思い起こすと、ほとんどが候補の3番目までで変換できると思うので。
ベソ顔を描くのに「顔の肉が重力に負ける」を何度も使い過ぎだと思う。
引っ掛かりを覚えるくらい独特ゆえに頻度が気になる。
(めちゃくちゃ古い例だが、郷ひろみの『ダディ』の文章を思い出してしまった)
それからこの表現↓、英語っぽい。
夏月は自分に対して、1秒もサボらず、そう思っていた。
焼き鮭の脂の甘さが、白飯を運ぶ箸の動きを加速させる。
由美は毎朝、啓喜のために和食を用意してくれる。息子の泰希が毎朝腹を下すようになり、より喉を通りやすいリゾット等を作るようになってからも、啓喜にはそれまでと変わらず和定食を準備してくれる。
夏月は、手元にあるサンドイッチの断面を見つめる。少しだけ食べた状態で時間が経ってしまったからか、いよいよ、自分はお腹が空いているのかすら、わからなくなってしまった。
母の作る鮭のホイル焼きは、少し、味が薄い。
夏月は、笑いそうになる口元に、鮭と共に蒸された味噌風味のしめじを運ぶ。
逸れがちな話題をさりげなく元の位置に整えながら、真輝は、お土産として買ってきたというバターサンドの包装を我先にと解いていく。
八重子はさりげなく、バターサンドが入っていた箱の側面を見る。そして、一つ当たりの栄養成分表示に目を凝らす。バターサンドは、何かの記事で初めて見たときからずっと、食べてみたいと思っていた。だけど、バタークリームはカロリーがすごく高いということも、同時に知ってしまった。
(中略)
八重子は、掌にしっくり収まる丸い塊に視線を落とす。色んな味があるけれど、食べるならあれにしよう、と決めていたものがあった。バターサンドを知った記事でも取り上げられていた、ソルトキャラメル。
(中略)
同意するよし香の隣で、八重子はバターサンドに思い切り齧りついた。クッキーを割った前歯の先が、分厚いバタークリームの層をずんずんと進んでいく。甘さの中に塩気があって、すごくおいしい。舌の上で溶けるクリームの甘さが、全身の細胞の隙間を埋めていくように染みわたる。店の軒先では、もつ煮込みや串揚げという、酒好きにはたまらないだろうメニューを記した暖簾が、やさしく手招きをするように揺れていた。
もう20時を回っているが、夏月も夕食がまだだったらしい。佳道は、玉ねぎの入った甘めの味噌汁を啜りながら、昨日寝る前にこれを作っておいてよかったと心から思う。白飯と味噌汁さえあれば惣菜を買って帰るだけでとりあえず1食が成り立つ。
(中略)
夏月はそう言うと、思い出したように自分の冷蔵庫へと移動し、「これ今日までだった」と納豆を手に戻ってくる。夏月はタレに梅の風味がついている納豆を選ぶ。佳道とは好みが違う。
(中略)
さく、という小気味いい音に、佳道の視線が引っ掛けられる。向かいで、夏月が、佳道の買ってきた豚ひき肉と黒コショウのメンチカツを食べている。
(中略)
味噌汁を啜る。味噌と玉ねぎの甘さが鼻に抜け、噛み砕いたメンチカツが押し合いへし合い食道を通っていく。
(中略)
「カニクリームコロッケ狙ってるんだけど、いつも売り切れで」と、夏月。
「わかる。カニクリーム気になってた」と、佳道。
(中略)
「ごちそうさま。おいしかったー、ありがとうメンチカツ」佳道がシャワーから出ると、ダイニングテーブルには出前で頼んだものたちがずらりと並んでいた。4種の味が2ピースずつ組み合わされたピザ、フライドポテトにナゲット、そして冷蔵庫で冷やされていたビール。
「こんなジャンキーな夕食、かなり久しぶりなんだけど」
(中略)
夏月が笑いながら、つまんだポテトをケチャップにディップする。何を頼むか決めているときは、カロリーなどを気にしていたようだったが、もうどうでもよくなったみたいだ。よし香はそう言うと、サバ味噌煮定食の載ったトレイをテーブルに置いたうねうねと斑に波打つ味噌汁の中で薄い油揚げが揺れている。
朝井リョウ著『正欲』より