たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

Entries from 2021-01-01 to 1 year

津村記久子著『十二月の窓辺』

顎についたチョコクロワッサンのチョコレートをナプキンで拭きながらツガワがそう言うと、ナガトは斜め下を向いて口を押えた。 ナガトは、ターキーのサンドイッチのフィルムを細長くたたみながら顔を上げた。 まだ陽が落ちきっていないのにもかまわず酒量は…

林真理子著『李王家の縁談』

これ小説け? 情報の羅列にすぎなかったよ。大慌ての抜き書き帳みたい。 母が帰ってから、伊都子は女中に命じて熱い紅茶を持ってこさせた。ふと2人とも手をつけなかった苺を口にふくむ。そしてそれが久邇宮家からの届け物だということを思いだした。この屋敷…

津村記久子著『ポトスライムの舟』

仕事をがんばる気力がわく小説と聞き、電子書籍版がないなかやっと手に入れて感謝祭に楽しみにとっておいて読んだのだが、期待値を上げ過ぎた。 寺社町の火曜の夜のカフェは暇で、ヨシカは明日の早朝に出す分のスコーンを成形して、冷蔵庫にしまった後は、ず…

ヤマザキマリ『望遠ニッポン見聞録』

「何気に」という言葉が頻出するのが何気に気になったのだが、もう地の文の書き言葉としても使ってオケ?私は1996年に「この言葉はよく聞くようになったなあ」と意識して初めて自分で口に出したのを覚えている。 子供が生まれた時、私の家へ掃除の手伝いに来…

犬養道子『セーヌ左岸で』

10年以上ぶりに再読。内容が古い部分も多々あり、電子版も出なさそうなので捨てられない1冊である。 クレープやタルトに説明が必要だった70年代。表記のゆれに鷹揚なのがすごくいい。artという語を日本語一語では表せないことを示していて共感する。(「芸術…

林真理子『秋の森の奇跡』

この小説で「気ぶっせい」という言葉を学んだ。転んでもただでは起きぬ。 裕子が店長を務める輸入家具店の近くに、新しく紅茶専門店が出来た。試しに買ってみたブレックファーストブレンドに熱湯を注いだばかりだ。夫の康彦も、10歳になる七実も紅茶よりもコ…

山本文緒『恋愛中毒』アイスクリーム食べない?

山本文緒さんの物語がもう読めなくなって悲しい。日記エッセイを読むと、「少しおタバコを減らされたほうが精神的な負荷も軽くなるのでは...」と余計なことをつぶやいたものでしたが。真摯な作品をたくさんありがとうございました。 もう彼女は生姜焼き定食…

富士日記(1)運転手の嘆き

↓この記述、ウーバーが走り回る50年後のロサンゼルスでも真でウケる。どうしても運転する人に負荷がかかる町。実際、通行止めになってるのに「そこ行って」とかいう人いる。ひとつ当時と大きく違うだろうなと思うのは、「車運転してる人」の私は絶対飲まない…

エリザベス・キューブラー・ロス博士の自伝から

3時間ほど列車待ちで寄ったことがあるだけのスイス。寄宿学校に留学していた子が「あの国には選択肢がない。スーパーに牛乳もチョコも1種類しかない」と言っていて、さすがに1種類は大げさだろうが、あまり面白い国ではなさそう...と思い込んでいた。でも、…

『十五の夏』その11 完結編:旧ソ連

船のレストランに行った人に何を食ったかと根掘り葉掘り聞く佐藤少年にウケた。うちの姪みたいで。毎晩、翌朝のメニューを決めてから寝るほど食へのこだわり?が強く、挨拶がわりに「今日は何食べた?」って聞いてきてかわいいの。 飛行機が飛び立ってしばら…

『十五の夏』その10:旧ソ連

昨晩、あれこだけたくさん食事を取ったのでお腹は空いていない。コーヒーとクッキーを1枚取って、考え事をしていた。 さらに先を歩いていくと果物のコーナーになった。メロンとスイカが山のように積んである。特にメロンはバスケットボールくらいの大きさの…

『十五の夏』その9:旧ソ連

食べ残さないと歓待が足りてないことになって失礼、というマナーは中国とかでも聞くけど、いまも生きてるのかな。後片付け大変だよね...。私はやっぱりきれいに食べてもらうほうが嬉しいわ。 「ソ連のルイノック(自由市場)に行くと、肉のコーナーに豚の脂…

『十五の夏』その8:旧ソ連

乗客名簿を手書きで作るソ連の観光業者のスタッフの方々。大変なことだ。軽食を24時間売ってる店などないので、夜勤のときは夜食も考えて用意していかなければならない。でも、徹夜勤務明けは3日休みというシフトは現代の夜勤ありの職に近い。 「佐藤君は、…

『十五の夏』その7:旧ソ連

下巻の最後に同志社の受験の記述がある。なつかしの今出川。あそこで学生生活が送れたら確かに素敵でしょうね。山の中(京田辺)に飛ばされる人との落差が大きすぎる...。 この本を買う随分前に『同志社大学神学部』を買ったのだが、途中になっている。順序…

島の思い出  湊かなえ『望郷』

日本推理作家協会賞受賞作『海の星』のおっさんがイカをくれるシーンを読み直してみて、「ヌメヌメと黒光りするイカを見ていると、母の白い手が触ることができるかどうか怪しいような気がして」の暗喩に気づいた。 北陸から来た友人と京都の小料理屋に行った…

『十五の夏』その6:旧ソ連

レストランの「品切れ」についてあれこれ思い出してしまった。田舎の新興住宅街に引っ越し、チョイスがなくて2日連続同じ中華料理屋へ行き、1日目のカレーがまあ無難だったので2日目も頼んだら「ライスがない」と言われたこと。ファミレスでバイトしてたとき…

『十五の夏』その5:ハンガリー、ルーマニア、旧ソ連、日本

パンや肉など食べ物を「かたい」というとき、マサル少年は固い、堅い、硬い、と記述しているのだが、意図して書き分けているのだろうか。もしそうならすごい。私にニュアンスはわからないけれど。 鉄道で飲む、グラスに注がれたジャム入りの紅茶は憧れ。 神…

『十五の夏』その4:ハンガリー

佐藤少年は時間を見つけては数学の問題集をやっていてすごい。旅行直後の試験を何もせずに受けるのはあり得ないということだが、素晴らしい克己心。私は子どもの頃、帰省のたびに山ほどドリルや本を詰め込んでいってひとつもやったことない。右から左に重い…

『十五の夏』その3:ポーランド、ハンガリー

「1時間ちょっとの短時間飛行」でエコノミーでも機内食が出てウソでしょと思ったことがある。フランクフルトからアムステルダム。夜遅い時間の便で各地から乗り継いできてやっと最終目的地だ、という人が多く(私も含めて乗り込みのカウンターに走ってくる人…

『十五の夏』その2:スイス、旧チェコスロバキア、ポーランド

日本人のティーンエイジャーってアジア人の少ないところに行くとものすごく幼く見えると思うのだが、若き日の佐藤氏は堂々とレストランに入っていき、同席の大人と会話し、大したものである。私は15の時、そもそも田舎で外食自体まれだった。ましてや一人で…

『十五の夏』その1:ボンベイ、カイロ、チューリヒ

雨宮処凛氏との対談本『この社会の歪みと希望』によると、佐藤氏は全く旅日記をつけていなかったそうだ。それでこの細かい描写。異世界にふれた少年の新鮮な驚きが感じられる。 船津さんは、もう一度、店の奥に入っていった。そして、お盆にアイスコーヒーを…

能町みね子さんの東京『お家賃ですけど』

6年間暮らした東京。今思うとあんな密集度の高いところによく平気でいたものだと思う。いいこともたくさんあったけど、二度と住みたくない。 吉豚(吉牛にあらず、豚丼しかないのだ)を食べる。徹夜後の吉野家はなんておいしいんだろう。 またここで軽く呑ん…

東京拘置所でもらうバレンタインチョコ『この社会の歪みと希望』

信頼している書き手二人の対談。実務家ならではの話で面白かった。佐藤氏が逮捕される事態になったとき、外務省の中で味方になったのは女性外交官だけだった、というエピソードをイエスの最期(男性弟子は全員逃げて女性だけが十字架のもとに残った)と合わ…

村上春樹『約束された場所で』

装丁がへちょすぎるのが気になる。というか村上作品、「なんでここで手を抜くんだろう」と思ってしまう装丁がいくつか。 食べ物はオウム食といいまして、かなり古めの古古米と野菜の煮込み、毎日毎日こればかりです。そういう生活を続けていると「これも食べ…

In solidarity. Chanel Miller "Know My Name: A Memoir"

---注:当時、一番ムカついた加害者の父親のステートメント I was always excited to buy him a big rib-eye steak to grill or to get his favorite snack for him...Now eats only to exist. -----------------------------------------------------------…

お店のおにぎり 石田ゆり子『旅と小鳥と金木犀』

「嬢」呼びにかなりの抵抗あり。気持ち悪いと言ってもいい。 「ゆりこさんっ! おみやげです!!」と、おいしそうなチーズを持ってきてくれた尾崎嬢。「わたしと、管野からですっ!! く、栗の葉で包まれた、チーズ、ですっ!!」(中略)おいしいプリンを持ってき…

チープ細雪 山内マリコ『あのこは貴族』

華子さんの婚姻までのくだりは『細雪』チーパーバージョンの趣。マキオカシスターズはもう少し自身を俯瞰してこらえるところはこらえる品があった。 オークラの旧本館、心底惜しいですね。アンティーククラッシャーといえば大阪維新だが、五輪のために東京も…

殴り倒されるように眠る 柳美里『JR上野駅公園口』

本当に翻訳するのがめちゃくちゃ難しそうでドキドキした。日本語話者でも理解できない台詞あった。 コンビニエンスストアも、店の裏にあるゴミ捨て場に、賞味期限切れの弁当やサンドイッチや菓子パンがまとめて置いてあって、回収車が取りにくるまでの間に行…

大根粥 in NZ 小林聡美『キウィおこぼれ留学記』

日本への渡航中止勧告が出て、この1年間何やってたのかと呆れつつ、外国体験記が読みたくなり手に取る。 英語圏に暮らして10年を超えるが、まだやってみたいんだよねー「語学留学」。『かもめ食堂』の前の体験が書かれた作品で、著者のまるっとした「ガイコ…

焼き芋の力 石田衣良著『再生』

Kindleの表示にもよると思うが、「終わりかな」と思ったところから数ページ続く作品が何本もあった。ハタを楽にする「働く」の瞬間が詰まった作品集。「たべる」の表記もいい。 ネクタイを締めた白いシャツのうえに、梨枝子が残したエプロンをする。メニュー…