たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

Entries from 2021-01-01 to 1 year

イニシャルKな食べ物 湊かなえ『花の鎖』

3代ごひいきにしているとはいえきんつばがよく出てくるなー、どころじゃなくて、「この人、きんつばきんつば言い過ぎじゃない...?」と笑えてくる。そしてきんつばのイニシャルも、からあげのイニシャルもKなのであった。 花の鎖 (文春文庫) 作者:湊 かなえ …

クレイマー、クレイマー 林真理子『小説8050』

先日、内館牧子、桐野夏生の最近の小説を手に取ったのだが、家族同士のダイアローグが耐えられず、冒頭だけで読むのをやめた。彼女たちも長く書き続けている人たちだから、筆力はあるはずなのだ。でも、それ以上にいらんもんがそぎ落とされている林真理子の…

再読だけど初読(初読の記憶なし)山本文緒『みんないってしまう』

「ガツーンと食べようと思って」とな。「がっつり」という言葉が生まれる前のこと。もう20年以上前のケータイ、テレクラの走りの時代。 私は食べる気のしない焼き魚を箸でつついて時間を潰した。 「お母さん、あったかいカルピス飲みたいよ」「そうね。今日…

固定電話と「ハイミス」 林真理子『さくら、さくら おとなが恋して』

携帯電話なき時代、オフィスの代表番号に個人あての電話がかかってくるのめちゃつらいな。田辺聖子作品でなくとも「ハイミス」が登場するのもね。 この名門クラブでいちばんましといわれるカツカレーの匙を置いて、彼はやってきた。 それに鮨は尚美の大好物…

野草マスター  大原扁理『年収90万円で東京ハッピーライフ』

なぜか筆者を女性と思い込んで読んでいて、途中で「男」という言葉が出てきたときちょっと脳内補正を必要とした。男女関係ない内容なんだけど。 白湯の後は紅茶を淹れます。セイロンを濃い目に淹れて、ミルクを少し混ぜるのが定番です。冬はしょうがのすりお…

真夏の湯豆腐とビール 山本文緒『きっと君は泣く』

この本も、学生のときに読んだらしいのだが、初読と同じだった。魚住「大魔神」がとても魅力的。自分がほしいもの、自分に必要なものをはっきりと知っていて、人を見る目があって、職業人としては精神的にもとても頼りになるプロ。 HIVに怯える、という設定…

日本の宅配ピザが好き 山本文緒『群青の夜の羽毛布』

この本も、以前読んだらしいのに、ひとつも記憶の引っ掛かりなし。ラストよかった。生きててよかった。 おなかは空いてないですか? ああ、そうでしたね。先生はいつも夕飯は済ませて来るんでしたよね。はい、わたしももういただきました。今日はおでんでし…

アボカドとベーコンの炊き込みごはん 冬森灯『うしろむき夕食店』

アボカドとベーコンの炊き込みごはんはぜひ作ってみたい。 全然関係ないけど、今、日本のワイドショーをYouTubeで見て眞子さまのご結婚について好き勝手言っててドン引きしてる。いったい何様...。 今年、眞子さまの願いがかないますように。いや、絶対にか…

なつかしのドラジェ!冬森灯『縁結びカツサンド』

一時期、ウェディングプランニングの会社でバイトをしていた。ドラジェ! しゃらくさし! 「人類のもっとも偉大な思考は意志をパンに変えること」ドストエフスキーとかいうロシアのおひとの言葉だそうだ。商売は知らねえが、これだけのことを自信たっぷりに…

三丁目の夕日時代めし 奥田英朗『オリンピックの身代金』

五輪て、ほんとに都市ハカイダーだよね...。 2020もこのときと同じように「人柱」になってしまった方がたくさん。 いらん工事に手をとられたせいで復興が遅れている地域も含めればその被害はさらに拡大する。 去年の今頃は世界の感染者数を発表してるWHOに献…

1940年代ニューヨーク Elizabeth Gilbert "City of Girls" 

今のマンハッタンはチポレだらけやからね...(嘆息) I sat in the diner car for the whole ride, sipping malted milk, eating pears in syrup, smoking cigarettes, and paging through magazines. My prettiness, to be sure, is why a handsome man in …

ミカンのコンポート & 手作りクッキーの大活躍 湊かなえ『ユートピア』

レストランで待ち合わせ、駐車場で一番に着いたことに気づき「自分だけがはりきっているようではないか」とつぶやくシーンはまさに日本の田舎。 車の有無で誰がどこを訪ねているのかが分かってしまうというね。 さらに車でなくても日本では靴を脱ぐので、襖…

それでも食を知ることができた強さと知性 "Finding Me"

11年近くの監禁中だけでなく、生まれてから誘拐されるまでの食生活も悲惨すぎる。特に缶詰やパッケージ食品の固有名詞がしっかり出してあるので「ひとつでも食べたくないのに、毎日あれだけ...ありえん」と。そんな中で美味しいものの楽しみをを記憶し、食卓…

ゴリ押し卵カレー『健全な肉体に狂気は宿る』

買わなきゃよかった。著者ふたりの女性に対する偏見がダダ漏れでひどい。「(女性は)値崩れする」(春日氏)などというウンコ発言を出版してOKと思える傲慢さに、いいこと言ってるところも耳に入らなかった。 少し前の本なので、ふたりのアイデアがアップデ…

想像以上にあてにならない人間の記憶『ポイズンドーター・ホーリーマザー』

いま、『The Affair アフェア 情事の行方』をボツボツ見ていて、大して面白くもないのだが、人の記憶がいかにあてにならないか、また同じ場にいてもいかにナラティブが違ってくるのかが鮮やかに説明されているのがいい。『羅生門』やこの小説群で書かれてい…

田口ランディ『パピヨン 死と看取りへの旅』

キューブラー=ロス博士の自伝と並行して読む。チベットでの予期せぬ瞑想体験から、肉親の看取りを経て量子の世界まで、蝶を追う旅が続く。バタフライ効果は知っていたが、ローレンツの方程式のシンボルについては初めて知った。早速画像検索してその美しさ…

博士の愛した料理『博士の愛した数式』

ふとあるシーンを思い出して数年ぶりに手に取ったら、真理、霊感のアフォリズムにあふれていてよかった。以前は映画を合わせて見たこともあってか、cheesyギリギリだなぁ...と思ったのだが。 夕方6時、博士はいつもの調子で食卓についた。ほとんど無意識の状…

(笑)に耐えられる者だけが読了できる。『いつのまにか、ギターと』

彼女のバッハが好きでギター物語を聞きたくて手にとったが、なかなかきつい本だった。とくに対談。90年代の女性誌を思い出すよ。 食べることも我慢です。元々食べることは大好きなのですが、とある名アドバイザーの先生から体を元気に保つ食事法を教わり、肉…

「こんな時間が、たまらなく好きな私」。。。『天然日和』

この本には、いくつか「いろんな意味でマズイのでは...」と思われる他人の描写がある。20年近く前に刊行されたものなので、今はこういう書き方はしないかもしれないけど。というか編集者も含めてそのくらいアップデートされててほしいと思うけど。「天然」が…

ホワイトハウスまで Hope: A Memoir of Survival in Cleveland

ものすごく近くにアレの君臨を今も信じ続けている人がいることを知ってしまった日に...。 勇気に感謝。バイデン副大統領(当時)の歓待に感謝。 We sit on the couch, and he hands me a cold ham-and-egg croissant. A little after five, after I haven't …

しあわせのために食べる Life After Darkness

ミシェルさん改めリリーさんの勇気に乾杯。この本の感想はこちら。 Rachel basically spooned some sort of strained porridge into me.[...]The day after I found that out, I went into the kitchen and started to cook for myself. And I mean I cooked…

Uncanny Valley の食シーン

ふたつの結末(本編とエピローグ)に深い哀愁がただよう逸品である。それにしてもスピとヴィーガン、オーガニック、グルテンフリーの親和性の高さはヨガ、指圧・整体師並みである。 Lightly hungover one afternoon, eating a limb salad at the literary ag…

林真理子著『食べるたびに、哀しくって…』

全体的に、指定の文字数いっぱいに伸ばすのに奮闘しているような印象のエッセイが続く。 京都の商家を模したといわれるその店は、店から裏庭に通じる路地があった。右側は倉庫、左側は畳敷きの仕事場になっていた。そこで働く祖母の傍にいると、ひょいとカス…

キノコの宴 山本文緒『落花流水』

認知症疑いのおじいさんの世話をしているうちにむしろ自分の症候に気づくくだりなど白眉。メモによるとこの本を随分昔に読んだようなのだが、全編再読して全く記憶を喚起するところがなかった。面白い小説が2度楽しめたのだからお得だ。 ひとつ、訪ねた姉の…

竹の子ご飯 山本文緒『紙婚式』

竹の子ご飯と茄子の漬物。いーなーいーなー。 「おはよう。食欲ある?」エプロン姿の妻が私を振り返って微笑んだ。ギンガムチェックのテーブルクロスに温かいパンの皿、一輪挿しのガーベラ。幸福を感じていいはずの風景なのに、私は不吉な空気を感じた。妻は…

マラソンメシ 柳美里『貧乏の神様 芥川賞作家困窮生活記』

ジンギスカンが供されるという「遠野じんぎすかんマラソン」。ここまでど真ん中ではなくても、地方のマラソン大会ではだいたい地域の名産をふるまってもらえる。大会公式の配布ではなくても、沿道で近所の人がお八つをくれたりして交流できるし。開催する側…

シリコンバレーメシ Uncanny Valley

知ってたけど、日本の報道、いよいよやばい...感染者数減ってきてますね、だとぉぉぉ。そもそも全然検査足りてないじゃん。ちゃんと検査方法が変わったことも報じなさいよ。「専門家」も何も指摘しないし、怖いよー。 「回転寿司が満員だった」とか、去年か…

職員室で朝食を 芦沢央『汚れた手をそこで拭かない』

家庭科室の醤油、とはなかなか不潔そうである。今は学校が食品を置きっ放しにすることはないだろうな。ていうか、英語もプログラミングも必修になった小学校課程に家庭科はまだあるのか? 調理実習のことは小中高ともに不思議といろいろ思い出せるな。お酢か…

「お母さん食堂問題」の背景 唯川恵『瑠璃でもなく、玻璃でもなく』

こうしてみると、ひたすら女性が男性の顔色を窺いながら飯炊きに徹している話だ。disgusting.たとえ袋ラーメンであっても私が作ることにこだわった過去の男性たちを思い出してしまった。でも2008年刊。結構最近だなぁ。。。 料理教室といっても自分たちで作…

いろいろな家メシのかたち 柳美里『人生にはやらなくていいことがある』

私の世代は小学校で全員で料理、裁縫などをするのに、中学・高校では男女別だった。私は意識が低かったので、それについて疑問を持ったことは一度もなかった。田舎のことで、40人の教室内に特別変わった家庭もなかったように思う。知る限り、ひとり親ゼロ、…