家庭科室の醤油、とはなかなか不潔そうである。
今は学校が食品を置きっ放しにすることはないだろうな。
ていうか、英語もプログラミングも必修になった小学校課程に家庭科はまだあるのか?
調理実習のことは小中高ともに不思議といろいろ思い出せるな。
お酢から作ったフレンチドレッシングがめちゃ美味しかったこと。
ルーから仕込んだクリームシチューがブラウンソースになったこと。
「好きなものを作っていい」と言われた回でカナッペ案にNGが出たこと、デザートに出来合いのアイスを付けてズルーイと言われまくった男子グループ。
油をどっぷり吸い込んだパンの耳かりんとうを食べ過ぎて保健室送りになった子。
中学の「青菜の炒め物」の調理実習がイヤすぎて、学校を休んだこと(この1日のために、私は皆勤賞を逃した)。
「俺はさあ、奥さんに離婚するって言われて家追い出されたから朝飯食いっぱぐれちゃって」
両手で卵を2つ掲げてみせ、顎で飼育小屋を示した。
「トサの卵をいただこうかと」
「え」
秀則は目を見開く。
「それ、大丈夫なのか?」
「生じゃなきゃ平気でしょ」
やっぱり目玉焼きがいいかねえ、と呑気な口調で続ける五木田に、「いや、そっちじゃなくて」と脱力した。
(中略)
五木田は職員室の端にあるコンロの前に立つと、フライパンにサラダ油をさっと回しかける。左手でフライパンを動かしながら、右手だけで卵を割った。
(中略)
五木田はあっさりうなずいて菜箸を手に取った。フライパンの上で卵をかき混ぜてから、あ、目玉焼きにするんだった、と大仰なほどに顔をしかめる。
(中略)
「千葉センセイ」
五木田がフライパンを揺すりながら呼びかけてきた。秀則はぎくりと立ち止まる。
「......何」
「千葉センセイもスクランブルエッグ食べる?」
五木田は火を止めてフライパンを片手に振り向いた。
(中略)
「やっぱり塩コショウだけだと味が物足んないなあ」とつぶやきながら醤油のボトルを手に取る。
一体何なんだ、と考えた瞬間、
「嘘でしょ」
五木田がスクランブルエッグに醤油を回しかけて言った。
(中略)
五木田は「これ」と言って醤油のボトルを掲げる。
「俺、ほんとは卵は醤油派なのよ。ここにはないからさっき20分くらい前に家庭科室にないか見に行ったんだよね。だけど、水なんか特に流れてなかったんだよなあ」「私、笹井さんと一緒にスーパーの特売に並んだことがあるのよ」
アパートの住人の1人が、ごま豆腐を頬張りながら言った。隣を向くと、かぼちゃの煮物を小さくして口に運んでいた妻が顔を上げる。
武雄は咄嗟に前に向き直り、泡の消えたビールを一気に呷った。
ぬるまったビールは、ひどく苦味が強く感じた。そこに、『うわ、めっちゃ旨い!』という声が入り、カメラが慌ただしく動くと、小島郁人が唐突に肉まんを頬張っていた。
『何でいきなり食ってんだよ!』
すかさずツッコミを入れた菅野に対し、小島が『いや、これめっちゃ旨いって!』と繰り返す。
『うちの名物なんですよ』と説明しながら現れたのは、旅館の女将だった。
『うちの人が皮から作っているんですけどね、宿泊されるお客様でなくてもお買い求めいただけるんで、わzわざこの肉まんのためにお越しくださる方もいるんですよ」
(中略)
『こちらの肉まんにもカツオが入っているんですよ』
女将が流れるようなタイミングで言葉を挟み、小島が『あ、このクセになる味はそれか!』と手にした肉まんを再び頬張る。ウーロン茶で乾杯をすると、瀬部さんは、ここ、旨いんだよ、と言って次々に料理を勧めてきた。だし巻き卵、じゃこと大根のサラダ、山芋のわさび和え、手羽先の唐揚げ---どれも、どこの居酒屋にでもあるような何気ないメニューなのに、本当に、へえ、と声を上げてしまうほど美味しい。
瀬部さんは、いつも奥さんを褒めていた。
この店のも旨いけど、あの人が作る炒飯もなかなかのものなんだよ、パラパラっとしてて味加減も良くてさ---他の話題と何ら変わらない、むしろより饒舌なほどの口調で言う瀬部さんに、だったらどうして、と思ったのは一度や二度ではない。キッチンへ移動し、冷蔵庫から鶏むね肉とネギと生姜を取り出した。エプロンをかけ、できるだけ音を立てないように気をつけながら調理していく。包丁から伝わってくる規則的なリズムに、少しずつ気持ちが落ち着いてくる。
「疲れてるなら生姜焼きでも作るけど」
「いいね」
夫はタオルで荒々しく顔を拭く。
(中略)
私はたれの材料を混ぜ合わせ、豚ロースに薄力粉をふって火にかけてから、こっそりスマートフォンを取り出した。芦沢央著『汚れた手をそこで拭かない』より
肉まんって、結局コンビニで蒸してあるヤマザキ製のが一番美味しい気がする。
(Little Tokyoのヤマザキ店舗にも置いてある)
タケノコが入って具が美味しいやつは多いけど、皮と具の間に隙間ができていないのはなかなかないので。