たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

湊かなえ『母性』から

「当時の少女マンガの主人公はこれが好きだったし、タイトルにもミントという言葉はよく使われていた」←わかる。
荒川静香氏が歯磨き粉みたいで苦手だと言っていたっけ。

そんな状態で、喫茶店で売っているケーキを2つ詰めてもらった箱を、お母さんと一緒に食べて、と差し出されると、ありがとうございます、と頭を下げることしかできませんでした。

高校の調理実習で作った三色丼とハンバーグという2品しかなかった料理のレパートリーも、3ヶ月後には、両手足では数えきれないまで増やすことができ、新婚当初は、ここまでお嬢さん育ちだとは思わなかった、とあきれていた田所も、まったく皮肉めいたことを口にしなくなりました。
ただ、おいしいと言われたことはありません。

帰りに母は、お祝いだといって、季節外れにもかかわらず私の大好物のぶどうを買ってくれました。

いつも私が作っているのと同じ、ごはんとみそ汁でしたが、夕食は、仕事帰りに買ってきた材料で作った、ナポリタンスパゲティとミックスジュースでした。つわりの身にトマトソースは苦しかったのですが、体調が良ければかなりおいしく食べられていただろうという完成度でした。
古い家で育ち、自分で食器を下げたこともない人が、こんなにも料理上手だったことに驚きました。大学生の頃、喫茶店でアルバイトをしていて厨房に立つこともあったので、そこのメニューはひと通り作れるのだそうです。
もっと早く教えてほしかったわ、と少しふくれて抗議すると、きみが僕のためにがんばってくれているのが嬉しくて言い出せなかったのだ、と田所はお腹だけではなく心を満たすようなことまで口にしたのです。

買い物に行って、好きなケーキを買ってあげるって言うと、おばあちゃんはどれが好き? ママはチョコレート味、パパはコーヒー味が好きなの、って自分のよりも先にわたしやあなたたちの分を選んだのよ。

待合室の中には、ミント色の空気が満ち溢れていた。
そう感じるのは、この頃、チョコミントアイスが流行っていたからだろうか。全国的にかどうかはわからない。けれど、当時の少女マンガの主人公はこれが好きだったし、タイトルにもミントという言葉はよく使われていた。まだ田舎に出回っていない頃に食べた子は、めちゃくちゃおいしかったよ、と自慢していたのに、近くのスーパーでも出回るようになってからはいち早く、歯磨き粉みたいでどこがおいしいんだかわかんないよね、とコロッと意見をかえた。

絵と詩とギターの延長でいけば、朝食にはクロワッサンとカフェオレが登場しそうだけれど、バラの花を飾った食卓にはいつも、ごはんとみそ汁が並んでいた。

風呂に入り、シャツとパンツという出で立ちで、三色丼とハンバーグの登場率がやたらと高い夕食を終えると、テレビの前の赤いビロードのソファに横になり、プロ野球のナイター中継に夢中になる。

手元にはいつもビールと栄養ドリンクを置いて交互に飲んでいた。茶色い小瓶に入った飲み物が気になって、これは何? と父に訊ねると、三口なら飲んでもいい、と瓶を差し出されたことがある。二口飲んだところで、子どもにそんなものを飲ませないで! とキッチンからとんできた母に瓶を取り上げられる。それからは、父は母の見ていないところでこっそりと、栄養ドリンクを年齢の数口だけ飲ませてくれるようになった。
母は雰囲気的にはおやつにアップルパイを焼きそうだったけれど、ホットケーキ以外の手作りお菓子はあまり得意じゃなかった。慈善団体の人たちが売りに来たクッキーを、情に流されてたんまりと買い込んでしまい、どうにかならないかとごはんのかわりにクッキーの上からカレーをかけ、滅多に怒らない父にぶつぶつと文句を言われたこともある。

月に2、3日、父はテレビを消して昔の洋楽のレコードをかけ、チョコレートをつまみにウイスキーを飲むことがあった。母とわたしは父の座るソファに寄り添うようにもたれ、温かいココアを飲みながら、一緒にその音楽に耳を傾けていた。

日曜日の午後に、「田所食堂」といって、父が母とわたしに軽食を作ってくれることもあった。母はナポリタンスパゲティ、わたしはシーフードピラフが好きだった。チョコレートパフェを初めて食べたのは自分の家だというエピソードは、かなり長いあいだ、わたしの自慢話のひとつとなる。

家に帰って、母の作ったホットケーキと牛乳をおやつにとりながら、学校での出来事を報告する。
「ホントに、男子はひどいんだから」
不機嫌なわたしに、母はニコニコと笑いながら、あら大変だったわね、と言って焼きたてのホットケーキをお皿に載せてくれる。ほかほかと漂うバニラの香りをお腹いっぱいに吸い込むと、怒っているのもバカバカしく、はちみつとバターをたっぷりかけて頬張るうちに、不愉快な出来事はコロッと忘れて、こう思う。
まあいっか。

母は父にも報告し、父はたいしたほめ言葉は口にしないけれど、ごほうびにウイスキーのつまみのチョコレートを一つくれ、栄養ドリンクをいつもより二口多く飲ませてくれる。

おいしい紅茶を淹れ、クッキーなどのお菓子をつまみながら、おしゃべりをして過ごす夜のひとときは、昼間に会うのとは違う柔らかな空気が流れ、私を子どもの頃に戻ったような気分にさせてくれました。

いつもは夕食をとってから出勤する父は、その日は早めに出ると言い、母が弁当を作る隣でバランを敷いたり、ごはんに梅干しをのせたりと一緒に手伝った。

「見た目で判断しちゃいけませんよ。昼間は看板通り、主婦や学生に人気のたこ焼き屋ですけど、夜はちょっと名の知れた飲み屋になるんです。たこ焼き以外の料理もあるけど、この匂いをかいだら食べないわけにはいかないでしょう。ビールと合いますよ」
(中略)
生ビールとウーロン茶、ソース味と醤油味のたこ焼きをひと舟ずつ頼む。
(中略)
店はりっちゃん一人が切り盛りしている。冷やしたジョッキにビールを注ぎ、アイスウーロン茶のグラスに丸い氷を沈める。それらを枝豆の小鉢と一緒にカウンターに出すと、ごゆっくり、と再び鉄板に向かった。
(中略)
「はい、お待たせ」
りっちゃんが片手にひと舟ずつたこ焼きの皿を持ち、どんとカウンターに置いた。持ち帰り用は使い捨てのプラスティック容器だが、夜に店で食べる用には、黒字に赤いふちのある船形の陶器の皿が使われ、それなりに風情がある。8個並んだたこ焼きは近頃主流の大玉ではなく、昔ながらの中玉サイズだ。ラー油で仕上げた表面がカリカリのたこ焼きを、丸ごと口に放り込むことができる。
「まずは、食べましょう」
言い終える前に、国語教師はカウンターに立ててある筒から竹串を取り、かつお節の踊るソースたこ焼きに突き刺していた。

菜箸に挟んでふうふうと息をふきかけたおいもを、母は私の大きくあけた口の中に、ちょんと載せてくれました。舌の上でほこほこと崩れていく、出汁の浸みたおいもをゆっくり噛みしめていると、母の手が伸びてきて、「お母さん、嬉しいわ」と頭を撫でてくれるのです。おいもを飲み込んで、得意げな顔で、お母さんのためにがんばったのよ、と答えると、母は嬉しそうにもう一度撫でてくれました。
喉を通っていくおいもは温かく、母の手はそれよりもっと温かく、私の心を外からも内からも温めてくれたのです。

滅多にない、一人の時間を楽しめるひとときで、私は座布団カバーに刺繍をしている最中でしたが、律子を部屋にあげてコーヒーを淹れてあげました。恋の相談をされるのかしらと、不安とは裏腹にどこかときめく気持ちがあったのでしょう。田所のウイスキー用のチョコレートをお皿にハート形に並べて、テーブルの真ん中に置いてみました。

冬がやってきて、屋敷の居間のストーブに火を入れると、義母は手をかざしながら、律子は寒い思いをしていないだろうか、と洟をすすり、おいしいお鍋の用意をすると、鶏団子を頬張ったまま、律子はちゃんと食べているだろうか、と涙ぐみました。

「あとでカルピスを作って持ってきてよ」
わたしからりっちゃんの部屋に行くことは母から禁止されていたけれど、祖母の前でりっちゃんに頼み事をされれば、断るわけにはいかなかった。
一度、カップラーメンを作って部屋に持ってきてくれと頼まれて、自分でやればいいじゃん、と言い返すと、年長者に向かってなんの口のきき方をするんだ、と母の前で祖母にこっぴどく叱られたことがあったからだ。しかし、こういうことでもなければお中元などでもらったカルピスを飲ませてもらえることはなかったので、わたしは喜んでカルピスを2人分作り、りっちゃんの部屋まで運んだ。

ソースと醤油、2種類のたこ焼きで小腹が満たされたところで、りっちゃんが料理の注文を訊いてきた。少し前にアルバイトの男の子がやってきて、たこ焼きはそちらにまかせることにしたようだ。初めて見かける愛想のない子だが、鉄板に向かってもくもくとたこ焼きを引っくり返している。
おまかせで、と頼み、国語教師のビールを追加した。
(中略)
「はい、お待たせ」
りっちゃんが豚バラのもやし炒めを出してくれる。りっちゃんの得意メニューだが、初めての客を連れてきたのだから、最初はもう少し気取ったものにしてくれてもいいのではないか。
「お、まさにうちの定番メニューじゃないか」
国語教師は嬉しそうに箸を割った。
「こんなのが定番なんですか? 奥さん、料理上手だって自慢してませんでしたっけ?」
「こんなので悪かったわね」
りっちゃんがカウンター越しに声を投げてくる。
「そうだよ、おまえ、失礼だぞ。こんなにたくさん肉が入ってるじゃないか。うちのはこれの半分くらいの大きさの肉が気持ち程度に入ってるだけだったぞ。なのに、母ちゃんときたら、しっかり肉を食えって、自分の皿の肉を俺の皿に載せてくれていたっけな」
(中略)
残ったもやし炒めを小皿に全部移す。国語教師が8割がた食べていたせいで、ふた口でからになった。分け方を少し考えろ、と心の中でぼやく。

英紀が好物のウインナーの天ぷらを両手に掴んで食べるのを見ながら、義母は嬉しそうに笑っていました。

布団の中でそんな心配をしていると、田所が離れに昼食を運んできてくれました。チャーハンともやし炒めでした。私が普段作ることのないメニューです。一緒に食べてくれるつもりなのか、2食分、盆に載っていました。チャーハンは茶碗を使って盛ったのか、平皿にこんもりとしたきれいな半球状でした。
「あの子、もやし炒めなんて、どこで覚えてきたのかしら」
「これは、俺が作ったんだ」
田所は少し照れたようにそう言って、布団の横に折りたたみ式のテーブルを広げて、皿を並べました。
「田所食堂、復活ね」
(中略)
チャーハンはパラパラで油っぽくなく、もやしも薄味でシャキシャキと歯ごたえがよく、からだのだるさに反して、どんどん口に入れることができました。

憲子が泣き叫ぶ英紀を離れに連れてきたのは、離れで一人、夕飯のとんかつを食べていたときでした。

手作りクッキーなんて、普通は女子から男子に渡すはずなのに、ある昼休み、亨はかわいらしいネコ模様の紙袋をわたしに差し出した。袋からはバターの香りが漂ってきて、中を開けると、桜の形をしたクッキーが入っていた。まさか亨が、と口に出す前に、これは妹が作ったものだ、と亨は早口で言った。
(中略)
「最近クッキー作りにはまってるみたいで、毎晩大量に作ってるから、もらってやって」
そう言われて1枚口に放り込むと、甘くて、粉っぽくて、ネチネチして、懐かしい味がした。これとよく似たクッキーにカレーがかかっていたことがある。
「なんか、いまいちだろ。捨てちゃっていいから」
「ううん。わたし、こういう味好きだよ。ありがとう、って言っといて」
亨はこの言葉をそのまま本人に伝えたらしく、それからは3日おきにクッキーをもらうようになり、ついには、できたてを食べてほしいと家に招待されることになった。
(中略)
春奈ちゃんは最初、全部自分が作るとはりきっていたけれど、亨が「じゃあ、部屋にいるから出来たら呼んで」と言うと、みんなで一緒に作ろうと提案した。調理実習以外でお菓子を作るのは初めてだった。しかし、難しい作業ではない。
小麦粉とバターと卵と砂糖を混ぜて、こねて、平らにのばす。
「もっとかわいい型がほしいのに、うちにはこれしかないの」
春奈ちゃんは2種類の花型を出してきた。煮物を作る際によく用いられる型抜きだ。
「こっちでいい?」桜は春奈ちゃんのお気に入りなのか、もう一つの方を渡された。
「わたし、桃、好きだよ」
「え、梅じゃないの?」
2人でそんなやりとりをしながら、花型に生地を抜いていると、仲間外れの亨は竹串を出してきて、するすると小鳥の形にくり抜いた。目と羽の模様まで描いている。
かわいい、と春奈ちゃんが声を上げ、次はネコを作ってほしいとリクエストした。仕方ねえな、とネコの形にくり抜いている亨を見ながら、きょうだいっていいな、と思った。

週末に家族全員で田んぼに出ている頃は、昼食は母がお弁当を作り、父やわたしが行かない場合は、2人でラーメンなどを作って食べていたけど、祖母が家に籠もるようになってからは、わたしが家に残り、昼食の支度をしなければならなくなった。
「できるものでいいから、お願いね」
母に頼まれたのだから、最初ははりきっていた。オムライスやチャーハンを作っておけば、祖母も父も、おいしいとは言わなくても、文句を言わずに食べていた。けれど、憲子おばさんが来るようになってから、食事に関して、祖母は面倒な注文をつけるようになった。
「憲子はね、森崎の家で食べたい物も自由に食べさせてもらえないんだ。あの子は揚げ物が好きだから、今度からそういう料理を作るんだよ」
(中略)
それでも、わたしは天ぷらやから揚げを作っていた。憲子おばさんはそれを当然のように食べ、英紀のためにウインナーの天ぷらも作っておくようにと、えらそうに指示まで出した。

昼食の準備をしようと、まずはチャーハンを作っていると、台所の勝手口から父がやってきた。
「一人じゃ大変だろ」
そう言って、冷蔵庫の中を物色し始めた。もやしと豚肉を出し、豚肉を小さく刻む。フライパンを出してごま油で手早く炒め、塩コショウとウスターソースを適当にふりかけると、完成だった。5分もかからなかったはずだ。
「食ってみるか?」
菜箸でつまんだもやしと豚肉が口の前にあり、ぱくっとかみついた。
「おいしい!」
そういえば父は料理が得意だった、と田所食堂を思い出した。夢の家での楽しかった食事の時間だ。
「俺が作ったってバレたら、おまえがばあさんに怒られちまうからな。あっちで食うよ」
父は小声でそう言うと、2人分を皿にとり、チャーハンの皿と一緒にお盆に載せると、こそこそと出ていった。内緒で栄養ドリンクを飲ませてくれていたときとよく似た言い方で、わたしは父のこういうところが好きだったのだ、と思い出した。それなのに。
食卓に並べたチャーハンともやし炒めを見て、憲子おばさんは不満そうな声をあげた。
「これだけ? メインディッシュは?」
「もやし炒めだけど」
「はあ? バカにしないで。ちょっと、母さん!」
呼ばれた祖母はもやし炒めを見ると、額に青筋を立てて怒り出した。
「何だい、これは。こっちはさんざん気を遣ってやってるのに、こんなものを作らせるなんて。ひと言いってやらなきゃ、図に乗るだけだ」
祖母はわたしが母からこれを作るように言われたと思ったようだ。
「待って。これはわたしが勝手に作ったの。手抜きしてすみませんでした。今からもう一品作るから」
わたしは台所に戻り、から揚げを作った。食卓に運ぶと、憲子おばさんも祖母もさんざん文句を言っていたもやし炒めをぺろりとたいらげていた。わたしのもやし炒めはすっかり冷めていて、電子レンジで温め直したものの、もやしの水分がすっかり抜け足てしまい、父が口に入れてくれたときのような味も歯ごたえもなくなっていた。
食い散らかした食器を片づけた後、母にも栄養が足りなかったかもしれないと思い、牛乳を温めて離れに戻った。母がからだを起こしている布団の横のテーブルにカップを置き、わたしもそこに座った。

敏子さんはおはぎなどの手作りのお菓子をたまに届けてくれるようになりました。

お礼の気持ちを込めて、商店街のケーキ屋でシュークリームを買い、手芸教室ではない日に敏子さんの家に届けに行くと、敏子さんは、そんなことしてくれなくていいのに、と遠慮しながら受け取り、こう言ってくれたのです。
「あなたのお母さんはとてもきちんとされた方なのね」
神父様、私にとってこれ以上嬉しい言葉があるでしょうか。

身分違いの恋を貫いてほしかったわねえ、結ばれなかったからこそ違いの思いは永遠に続くのよ、わたしは最初から夫の方が素敵だと思っていたわ、などと映画の感想に花を咲かせ、家では食べることのないクリームソースのスパゲティを味わい、時計の針が止まってしまえばいいのに、と願ってしまったほどです。

あるとき、にきびの薬をホットミルクに混ぜて砂糖を加えるとおいしく飲めることに気付き、母が手芸教室に行く日だけ、そうやって飲んでいた。そのとき一度、きなこ牛乳を飲んでいるのか、と台所にやってきた祖母に訊かれたことがある。にきびの薬だと答えたのに、これは大豆の匂いだと譲らず、味見までしたうえで、どこで処方してもらったのかと問い詰められたので、母が中峰さんに頼んでくれたことを話した。

国語教師はシメのメニューとして、もう一度りっちゃんにたこ焼きを注文してから、訊ねてきた。りっちゃんに、2人分? と確認されて、たこ焼き茶漬けにしてほしい、と頼むと、国語教師も同じものに注文を変更した。

おまたせ、とりっちゃんが両手に持った陶器の椀を2つ同時にカウンターに置いた。四つ葉のクローバーのように並べたたこ焼きにゆず風味のかつお出汁が注がれ、大量のミツバが載せられている。
「うまそうだな」
「そのままでもおいしいけど、醤油を一滴たらすのがお勧めです」
国語教師にそう言うと、りっちゃんが、そうだった、と思い出した様子で、「ヒデ、醤油」とバイトの男の子に声をかけた。ああ、と不愛想な返事のまま醤油さしを差し出される。

初めてそれを聞いたときは、きつねうどんの載った盆ごと祖母を殴りつけてやろうかと思った。

「ビーフシチューを煮込んであるの。あなた、好きでしょ?」
仁美さんは父を「あなた」と呼んだ。
「いけない、ドレッシングを買ってくるのを忘れちゃった」
「作ればいいさ」
「どうすればいいのか、わからないわ。あなた作ってくれる?」

湊かなえ著『母性』より