たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

富士日記(12)ほうとう

ほうとう好き~。もう20年ほど前になるが都留文科大学の学生だった友人に連れていってもらったうどん屋のがすごく美味しかったし、量がものすごかった。ドンブリからして大きかった。

9月9日 雨、時々くもり、陽が射す
台風19号が九州に近づく。
朝 主人、いもがゆと梅干。
(中略)
昼 じゃがいも茹でたの(主人)、バター、野菜炒め、トマトスープ。私はぬきにする。
3時ごろ、湯豆腐をして2人とも食べる。
時々、かっと陽が射すと暑い。セーターになったり、木綿のワンピースになったりする。
夜 ごはん、さんま塩焼、かき玉汁、大根おろし。
さんまが食べたいというので焼いたが、主人、ごはんを半分食べて残す。さんまも片身食べて残す。

昼 ギョーザ、主人(8個)、私(10個)。スープ(うずら卵とねぎ)、果物かんづめ。
夜 パン、串カツ、味噌汁、キャベツ酢漬。
肉を多く買いすぎた。わるくなるといけないので全部料理してしまった。串カツととり肉のから揚げとギョーザとじゃがいものフライを箱に入れて、主人が寝てから、スタンドへ持って行く。ゲートは夜遅いので、タダにしてくれた。
スタンドの硝子張りの店の中に客はなく、しいんとして、おじさんとノブさんはダイヤ焼酎を飲んでいた。きゅうりのお新香が出ている。おじさんはとても喜んで、ノブさんに皿と箸を持ってこさせ「おかあも呼んでこい」といった。おばさんは眠っていたらしいが「夢のようだわさ」といい乍ら出てきて、自分用のブドー酒(一升びん)を茶わんについで、料理を食べだす。おじさんは、とりのから揚げが気に入ったらしく「まんなかの、この肉の料理をよばらっしゃい」としきりに、おばさんにもすすめた。そのうち、5合目で働いている若い衆が下ってきて、串カツ2本と焼酎をよばれて、お礼にバナナ3本置いて帰って行く。娘が2人、どこかから帰ってきて、また肉をよばれて、そのまま私が帰るまでに店にいて話している。
10時半に帰る。からになった箱の中に、おばさんはキャベツ2個、にんじん、卵10個、かぼちゃ1個を入れてくれた。

9月11日(日)うすぐもり時々晴
富士山は雲がかかって見えない。
朝 ごはん、いり卵、豚ひき肉団子、味噌汁。
(中略)
「こましゃくれたところだねえ」と主人に言いながら、持ってきたおにぎりをベンチで食べた。2時ごろ帰る。
ガソリン29リットル1400円。
待っている間、とうもろこしを2本頂く。スタンドに働いている人たちは、忙しくて忙しくて、顔が真赤になっている。おじさんも前へつんのめりそうになって歩いている。お金はどんどん入ってくるが、くたびれて、酔ったようになっているらしい。
夜 ごはん、精進揚げ(にんじん、桜えびかきあげ、さつまいも、茄子、かぼちゃ)、すまし汁。
(中略)
折角山まで上ってきたのだから、ビールを出してハムを切る。

9月12日 くもり、時々ふき降り
朝 ごはん、じゃがいもの味噌汁、卵、カボチャの煮たの、のり、キャベツ炒め。
昼 チャーハン(ハムと卵)、スープ。
夜 ごはん、鮭茶漬にする。

夜は、パンにバターをつけて、スープをのむ。

朝 ごはん。
昼 じゃがいもをふかし、バターをつける。さつまあげ。
3時、釜あげうどんを作る。大へんおいしかった。私の食べ方はバケネコのようだったと主人が言った。
夜 ごはん、まな鰹粕漬、煮豆、いんげんバター炒め、味噌汁、高野豆腐煮たの(高野豆腐の煮たのは私だけ。主人はキライ。無意味だという。キライだと、そういうのだ)。

河口湖駅で主人だけそばを食べる。
そば70円、列車便140円。

帰り、主人赤い熔岩10個あかり拾う。スタンドに寄りベンチを返す。アイスクリーム(ハチミツ入り)を窓から入れてくれてしまう。
夕方、梅の苗に肥料をくれた。
朝 茄子、いんげん、さつまあげ煮つけ、ごはん、鮭と玉ねぎオイル漬。
3時ごろ昼食 チキンカツ、いんげんバター炒め、キャベツきゅうりもみ。
夜 ごはん、主人、朝の鮭オイル漬を気に入って、また食べる。私は食べない。塩にぎりを食べる。

駅で主人はそばを食べる。列車便140円。そば70円。
(中略)
昼 ハンバーグステーキ、ピーマン、食パン、スープ、ココア。
夜 さつまいもを電気鍋で焼く。牛乳。
(中略)
テレビにて。
ふるさとの歌まつり(?)というNHKの番組は、今夜山梨の巻をやった。
ぶどう園のおばあさんが「ほうとう」の話をした。御胎内の茶店の硝子戸には「山家ほうとう」と買いてあるし、スタンドの連中も「ほうとう」を一度喰わせたい喰わせたいと言っている。スタンドのおじさんは、ギョーザの皮をどうやってたべるのかわからなかったので「ほうとう」の中につっこんで食べたらうまかった、とも言っていた。「ほうとう」というのは、煮込みうどんのようなものらしい。今夜のおばあさんは「あずきほうとう」の話をした。小豆を煮て砂糖を入れて、やわらかくなる間に粉をこねて、うどんを作って入れて食べるのだそうである。このほか「カボチャほうとう」というのもあるらしい。何にでもうどんを入れてしまう。

9月23日 くもり時々雨
朝 ごはん、のり、納豆入り味噌汁、卵、錦松梅、キャベツの酢漬。
昼 ハンバーグステーキ、釜あげうどん。
ひる少し前、吉田に買出し。明日帰るのだから、買うこともないのだが、お彼岸のお中日なので、おだんごやおはぎが食べたくなったので。
(中略)
菓子屋やパン屋は、みんな、おはぎを置いている。私の入った店は、台所で主人があんこのおはぎを握っているのが見えた。うどん屋では、少し足の不自由なおじいさんが手打ちの粉をこねていた。
(中略)
スタンドにより、グリスアップをたのみ、ガソリンを入れる。とうもろこし2本くれる。コーラ1本くれる。昼どきで、おばさんは「ごはんあるだけんど、おかずは–––のカキ買ってきて食べてくれやあ」と言っていた。カキとはカキフライのことだろうか。
夜 ツナ入りコロッケ、ごはんなし、スープ。
残っているものを全部入れたので少し作りすぎの気味だが東京へ持って帰ることにする。

武田百合子著『富士日記』