たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

富士日記(22)私の知らない旅番組時代の「11PM」

いくら食べ残しを他人様にお裾分けするメンタリティは理解できない。人に贈るものはむしろ一番いいものを。

9月6日(水)くもり
朝 トースト、鮭罐、スープ。
昼 焼飯、スープ。
夜 ごはん、天ぷら(車海老1尾ずつ、かます2枚ずつ)。
(中略)
大岡さん夫妻みえる。忍野八海へ行って、吉田のパチンコ屋の2階の食堂でカツ丼を食べて、その帰りとのこと。お土産にくるみ1袋頂く。
(中略)
夕食の支度をしていると、奥様がまたみえて、カマボコ、いんげん、車海老2尾、カマス4尾わけて下さる。ふかしパンのはずであったが、急に、天ぷらにする。

9月7日(木)くもり時々雨
朝 ごはん、大根いんげん味噌汁、鮭オイル漬、玉ねぎとわかめサラダ。
昼 ふかしパン、バター、ジャム、枝豆、スープ。
(中略)
夜 湯豆腐(ベーコンを入れる)。
下の町はむし暑いが、山へ帰ってくると、セーターだ。

9月8日(金)時々晴、くもり
朝 ごはん、さんま、煮豆、大根おろし。
昼 トースト、オムレツ、マッシュルームスープ、ぶどう。
夜 おにぎり(鮭、かつぶし入り)、すまし汁(かまぼこ、みょうが入り)。
午後、勝手口のドアに白ペンキを塗る。

9月9日(土)くもり時々霧雨
朝 ごはん、じゃがいもとニラ卵入り味噌汁、鮭と玉ねぎ酢漬。
(中略)
昼 ごはん、卵焼、大根おろし、しらす三杯酢。
今日は何となし、うすら寒い。もんぺにセーターを着る。
3時のお茶には、焼きそばを作る。
大学芋、焼きそば、黄桃のゼリーを出す。
夜 雑炊、塩鮭。
夜遅く明日のコロッケを作っていると、主人起きてきて、一つ食べてねる。

朝 ごはん、コロッケ、味噌汁、わかめと玉ねぎのサラダ。
(中略)
3時、串カツを作り、ぶどう、ビールを出す。
夕方、アカハラが沢山きた。
夜 釜あげうどん。

9月11日(月)小雨
朝 さつま汁、ごはん、いり卵。
昼 パン、トマトジュース、かきオイル漬。
夜 鯵くさや干物、ごはん、さつま汁。
(中略)
3時に、古いお餅を切って、つけ焼きにしてみる。

ゼリーを作っておいたので管理所へ持って行く。
(中略)
夜 ごはん、ハンバーグステーキ、こんにゃく油炒め煮、キャベツ酢漬。

9月23日(土)晴
6時出発、厚木まわり。大箱根にて食事。ヒレカツ定食二人前700円。わさび漬100円。
(中略)
昼 ごはん、牛肉ねぎすきやき風、わさび漬。

朝 カツ丼(主人だけ)、大箱根でヒレカツをとり、三切れ残したので紙に包んできたのをカツ丼にする。
昼 ごはん、さんま、のり、わさび漬、大根おろし。
夜 ごはん、とり肉団子甘酢あんかけ、プディング、トマトジュース。
大岡が来る、と主人心待ちにしていたが待ち呆け。肉団子は夕食に食べてしまう。
9時半、地震あり。

おはぎ8個120円(菓子舗桃太郎にて)。
陽が射すと吉田の町は、まだ夏のように暑い。
昼 湯豆腐、おはぎ。
関井さん来る。庭の手入れ手間賃を支払う。関井さんも湯豆腐を食べる。
(中略)
4時、トンカツの支度をしておいてから、大岡さんをお招びしに行く。大岡さんは、あと1時間ほどで原稿が仕上るので、それから出かけます、とのこと。奥様は車のワックスかけ。
6時頃、大岡夫妻みえる。
木くらげ酢漬、トンカツ、ピータン、チーズクラッカー、栗御飯。
(中略)
「兎は松葉ボタンの葉を食べますよ、おいしそうに。食べているところを見ましたよ」と、今日、大岡夫人の話。

9月26日(火)くもりがち
朝 栗ごはん、ニラとじゃがいも味噌汁(納豆入り)、のり、煮豆、佃煮、卵。
昨夜のトンカツが沢山残ったので管理所にあげる。管理所の女の人は御飯の残りをにわとりにくれてやっているが、にわとりは食べない。南側のタタキに新聞紙をひろげて、茸が干してある。茸の隣りにかぼちゃの種子が20個ばかり。女の人の話では<この茸は布引きという。チョコ茸ともいう。猪口の形だから。布引きは、ほうとうに入れたり、三杯酢や味噌汁にもつかう。とりたてをつかうと水分が出て、一向うまくないし、小さくなってしまうから、少し干してからつかう。布引きというのは、この茸が生えている有様が、白い布を引いたようだからだ。酒を飲む人は、布引きを食べて丸一日は酒を飲んではいけない。心臓を圧迫して苦しくなる。これから、霜の降りるまで、から松の葉が落ちるまでに、この辺りで採れる茸は、赤とか青の色のはっきりしたものは食べられないが、その他はみんな食べられる>。
そう言って、トンカツの御礼にと、干してあった布引きを全部くれる。帰りがけに男衆が私をよびとめる。「布引きを食べたときは、丸一日ではなく、二日は酒はダメだ。命取りだ」と言う。

今夜の「11PM」に深沢[七郎]さんが出ていた。お湯に入っているところが出た。山梨のぶどうまつりの特集で、名物のほうとうを作るところなどあったが、見ていれば見ているほど、山梨というところは何にもないところなのだなあ、とつくづくと感じた。コンフリー、ぶどう、バラの花、菊の花まで天ぷらにして騒いでいる。

武田百合子著『富士日記』より