たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

富士日記(47)お弁当散らばし事件

このお弁当散らばし事件、緊張感が伝わってきてすごくイヤ。別に連れ合いが暴力的になっているわけじゃないけど、百合子さんの味方をしてしまう。

10月25日(日)快晴のち曇
7時に起きる。主人は早くから起きていて、昨夜のすいとんを食べて散歩に行ってきたと言う。
朝(主人は2回目の朝食) ごはん、けんちん汁、たらこ、海苔、オムレツ(主人だけ)。
りんごをむいてゆっくりと食べていると、庭を下りて来る足音がする。岩波さんに似た人が管理所にいるんだな、と近づいて来る人を見て思っていると、本物の岩波雄二郎さんだった。あとから夫人と夫人の妹さんとお嬢さんが現れた。ぎんなんをストーブの上で煎って、紅茶を出す。岩波さん一家は昨日富士ビューホテルに泊り、これから山中湖へ出て帰られる途中。昨日は吉田の人の案内で山中湖の山で茸採りをした。ホテルのコックに料理してもらったらおいしかったのでこれから又採りに行くのだ、と言われる。その茸はバターで炒めて白ぶどう酒をかけ、上にレモンをしぼるとおいしいのだそうである。誘われて私はついて行くことにした。お嬢さんにもんぺをお貸しする。
(中略)
隣りにくりたけを少しあげる。おばあさんは「わたしもついてゆきたかったねえ。今度奥様が茸採りに行かれるときには、是非、忘れずにつれて行って下さいね。わたしはねえ。この、採ったり、もいだりすることが、だーい好きなの。胸がどきどきしてねえ。イヤなこと忘れちゃうの。じいちゃんの憎らしいことなんかも忘れちゃうの」と、声や仕草まで妙に幼女めいてせがんだ。おばあさんに教わった通り、木綿糸にくりたけとしめじを通して干した。
夜 ごはん、白菜、豚肉、椎茸、ほしえび、うずら卵、いんげんの炒めもの。
3時に、岩波さんに教わったとおりに茸を料理してみた。普通の味だった。

石川で買った鮭ちらしずし弁当を、剣丸尾公園で食べる。寒いので車の中で食べる。私はちらしずしの食べ残しを包み直すとき、手もとが狂って車の中に散らばしてしまった。助手席の主人の胸に少し、膝に沢山、床にはひっくり返った折箱。「こういうことが一番イヤだ」と低い声で吐き出す。「ごめんなさい」と言って、セーターやズボンの、御飯粒や沢わんや鮭の千切れたのをそっと急いでとる。主人の体も息も震えている。
昼 ごはん、いわし丸干、大根おろし、かきたま汁、とり肉入りきんぴらごぼう。
(中略)
夜 ごはん、かにコロッケ、野菜スープ。

11月8日(日)晴
秋晴れ。昨夜のネズミ、バケツの底でちぢかまって死んでいる。
朝 ごはん、コロッケの残り、大根味噌汁、わかめと玉ねぎサラダ。
前11時ごろ、紅葉見物に下る。本栖湖へ。
本栖湖入口で罐ビール1箱、カッパえびせん1袋、はっか飴1袋買う。
主人はカッパえびせんを膝にはさんで、罐ビールをすすってはカッパえびせんを口に入れ、窓から陽のあたっている山の紅葉をうっとり眺めつづける。
(中略)
昼 パン、ベーコンの入ったスープ。
夜 ごはん、かれい煮付、山芋千切りと大根おろし、のり吸い。
夕焼がする。少し鳥が啼いた。
花子のズボンの型紙を作り、縞の木綿地を裁つ。主人の夜中起きているとき用のすいとん汁を作っておく。
朝 ごはん、鮭罐、大根おろし、さつまいも味噌汁、湯葉の煮たの。
昼 パン、とりのスープ、ベーコンエッグ、パイナップルゼリー。
夜 お赤飯、まぐろ照り焼、さつまあげ、大根、キャベツの煮たの。

石川で天ぷらそば2つ140円。
(中略)
夜 桜めし、おでん、煮豆。

朝 ごはん、鯖干物、大根おろし、しらすの煮たの、おでん。
(中略)
昼 月見まんじゅう(山芋をうらごしして皮にし、中味はとりひき肉の甘辛く煮たあん。ふかして、おつゆに浮かして食べた)とほうれん草。
歯がないから、こんなものをためしに作ってみた。主人「おいしいけど、1回だけでいい。ワンタンの方がいい」と言う。
夜 ごはん、ひらめのでんぶ(私)、ハンバーグステーキ(主人)、野菜スープ。

●昭和46年

石川で買ってきた鮭ちらしずしを主人は食べる。私はここで山菜釜めしを買ってきて食べる。食堂は満員だ。売店で一番売れているのは、ふかしながら売っている肉まん。

S農園の食堂で。とろろそば2杯200円、みかん150円(また買う)、絵葉書2組250円。
(中略)
昼 ごはん、鮭と卵の油炒め、海苔。
濃いココアを入れて飲む。
(中略)
雪が降る中を隣りのおばあさんが、袖で小鉢を掩って下りて来る。ゴボウのきんぴらと、北海道の子供のところから送ってきたソウハチというかれいの干物のような魚4枚。「きんぴらは私が作ったの。じいちゃんではない。ソウハチはとてもおいしいから」と言う。
夜 お雑煮。ソウハチを焼く。おいしい。タマにもやる。ごぼうのきんぴら。

朝 カレーライス、コーヒー。
昼 うどんバター炒め。
夜 とり雑炊。
遅くなってお汁粉に餅をいれて食べた。

談合坂食堂で、カレーライス(主人)、サンドイッチ(私)を食べる。
(中略)
昼 ごはん、ハンバーグステーキ、野菜サラダ、スープ。
夜 グリンピースごはん、塩鮭、わかめ味噌汁、大根のとりそぼろあんかけ。

朝 ごはん、さつまいも味噌汁、さんま干物、大根おろし、海苔、卵。
昼 3時ごろ食べる。うどんバター炒め、野菜スープ。
夜 湯豆腐(ベーコン入り)、中にキャベツをいれてみたらまずい!! 失敗。

釜あげ桜海老は、沼津から今朝買ってきたというので買ってみたが、何となく、わざとらしいピンク色で、へんでもある。
ガソリン32リットル1850円。
夜 ごはん、たらこ、おからとフキの煮たの、桜えびかき揚げ、かきたま汁。

武田百合子著『富士日記』より

富士日記(46)ウインナカレー

今、イースター前の断食中なので、何を見てもうまそう。でも、ウインナが半切れ入った食堂のカレーはまずそう。

9月29日(火)くもり、時々雨
前6時東京を出る。霧雨。
石川で、ちらし弁当一つ、談合坂にて、釜飯一つを買い、談合坂に車をとめて、車の中で食べる。観光バスが続々と着いて、商店の主婦たちらしい団体、男子高校生の団体など、便所に続々と入り、出てきて車に乗る。
昼 ごはん、かます干物(私)、トンカツ(主人)、佃煮、煮豆(大豆)、さといもとわかめ味噌汁、キャベツとにんじんの酢油漬、小松菜煮びたし。
(中略)
夜 おかゆ、にしん煮付、佃煮、はんぺんとみつばのおつゆ、炒り卵。
仕事部屋にこたつを入れる。食堂にストーブを焚く。

朝 ごはん、ビーフシチュー。
昼 ごはん、塩鮭、あぶらげと菜っ葉の煮びたし、大根味噌汁。
夜 湯豆腐(ベーコン入り)。そのあと、チーズトーストを食べる。

10月1日(木)くもり
朝 ごはん、大根味噌汁、鯖味噌煮、おからの煮たの。
(中略)
駅の天ぷらそば2杯160円。
駅には、電車が着くのを待っている地元の人がいるだけ。
昼 チーズトースト、茄子にんにく炒め、野菜スープ。
夜 炒り卵と海苔のまぜごはん、はんぺんのおつゆ。

朝 ごはん、みょうがとかき卵汁、鯖塩焼、大根おろし。
昼 うどんバター炒め(玉ねぎ、桜海老、パセリ)、スープ。
夜 中華粥(とり、グリンピース)、いわし油漬(この罐詰西独製で、いわしというより鰊に近い大きさ。大へんおいしいと主人言う)。

10月12日(月)一日中霧雨
朝 ごはん、もやし味噌汁、いわし油漬、生卵、海苔、佃煮。
(中略)
店にきた主婦が一抱えも買ってゆく「おもち」とよんでいるこのおだんごは、「いつもはないものなんよ。十三夜様のおだんごなんよ」と酒屋のおかみさんは言う。いま出来たてのおだんごを、私も10個買う。
昼 ごはん、オムレツ、スープ、野菜五目炒め。
夕方、霧雨の中で、主人は門の脇のすすきを刈る。松の下枝も払う。
夜 さつまいもを電気鍋で焼く。おだんごを食べる。貝柱のスープ。

10月13日(火)くもり時々晴
朝 カレーライス(とり肉)、コンフリーのおひたし、高菜油炒め。
昼 クリームスープ、手製クッキー(私)、ハンバーグステーキとじゃがいもうらごし(主人)。
夜 五目雑炊。
明朝帰るので、残りものを食べてしまう。
今日はときどき陽があたった。夕方までむし暑かった。隣りへハンバーグステーキを2つ持って行くと、おばあさんは綿入れのチャンチャンコにつぎをあてていた。

談合坂で弁当とみかんを買う。
(中略)
夕飯の支度をしていると、おばあさんが勝手口に現われる。「T先生から」といって、毛がにの茹でたのにつけ汁を添えて届けてくれた。
夜 ごはん、毛がにの茹でたの、小鯛から揚げあんかけ、菜っ葉とみょうがとちくわの清し汁。

10月20日(火)快晴
眼がさめて、そのまま小窓から見ている空は真青。風がない。
朝 ごはん、豆腐味噌汁、鰊サワークリーム漬(主人は好き。私は食べない)、海苔、卵。
(中略)
鳴沢バス停の文房具屋で、日記用のノート(今、書いている、これ)100円、セロテープ、ウエハースを買う。夏に仕入れた残りのアイスクリームが3個、アイスクリーム用の冷凍ケースの中に転がっていた。
(中略)
昼 天ぷらうどん(桜海老のかき揚げ)。
夜 ごはん、オムレツ、もやしとのりの三杯酢、きゅうり味噌。

談合坂食堂で、主人カレーライスをとる。私は食べたくないので何もとらない。主人はカレーライスを十分の一ほど食べて「やる」と言う。私はカレーがかかっているところだけ食べる。カレーの中には何にも入っていない。ウインナーソーセージが半切れ入っている。「やる」と言ったはずだ。
(中略)
朝 ごはん、かれい煮付、ぎんなんを煎って食べる。
テラスの椅子で、ぎんなんを食べながら、主人眠りはじめる。
(中略)
昼 ごはん、けんちん汁、とりのささみつけ焼、白菜漬物。
(中略)
夜の食事もせずに主人は眠り続ける。とりの入ったすいとん汁を作って、私は食べた。

武田百合子著『富士日記』より

富士日記(45)ケーキ店アルプス

先日の「サニーデ」に続き、「アルプス」っていかにも地方の昭和のお店の名前でいいわー。看板のフォントが懐かしそう(勝手なイメージ)。富士山麓でなくてもありそうで。

「命の母」という薬を知ったのは小林製薬が引き取ってからだが、この名前についてはおどろおどろしいな...と思ったのを覚えている。今でもうっすらキモいと思う。

7月22日(水)晴、午後俄か雨
朝 ごはん、かにたま、がんもどき煮たの、海苔、味噌汁。
昼 からみ餅を作る(納豆、大根おろし、ねぎ)。
夜 うどんバター炒め(ベーコン、玉ねぎ)、水蜜桃を食べた。

肉、かますの干物、うなぎ蒲焼、しらす、チーズケーキ、野菜、パンなど買って3時ごろ赤坂を出る。
大岡さんへ干物をもって行くと、カーテンがひいてあって車がなかった。
夜 うなぎ蒲焼(主人)、かます干物(私)、豆腐とみつばのおつゆ、ほうれん草ごま和え。

7月24日(金)快晴
朝 ごはん、かれい煮付、じゃがいも味噌汁(卵入り)、海苔。
昼 チーズケーキ、とりのスープ、果物ゼリー。
夜 ごはん、シューマイ、ほうれん草バター炒め、丸焼茄子。
朝ごはんの前に、大岡さんへ干物を届けに行く。

原稿を渡してから、ビール、鮭と玉ねぎのオイル漬。ハンバーグステーキ、きくらげとねぎの酢油漬などで一休み。運転手さんもよんで、おにぎりとハンバーグで食事をしてもらう。
「東京から来るとき車の中で『向うへついても空が青いなあとか、空気がいいなあとか、絶対に言うのよそう』と運転手さんと話してたんですけど、やっぱり空は青くて、空気はいいなあ」村松さんは言う。
(中略)
7時半ごろ、夫人はアルプス[富士吉田の菓子屋]のケーキと五目ちらし一皿持って、迎えにみえる。「レイテ戦記」のときに話をきいた吉田の人が子供をつれてきて今までいたので、迎えにくるのが遅くなった。このケーキはその人がお土産にくれたのだ、とのこと。ケーキは普通のケーキの2倍半ほどの大きさで、バナナやメロンがのっている。
大岡さんは一昨日、富士吉田で「吸血鬼」と「激戦地」ともう1本、3本立400円を観に行って、一寸観て出て、向いのすし屋に入ったら、その日はタネがとてもよくて、うまかったそうである。映画は8月一杯の上映予告ビラを貰ってきてあって「毎週行くのだ」とおっしゃった。4時半に山を下ると、夜の部がすっかり観られるらしい。私も行きたい。
(中略)
夜遅く、私は一人で五目ちらしをゆっくり食べた。おいしかった。

朝 ごはん、キャベツとわかめ味噌汁、海苔、生卵、昨日ののこりのおかず。
昼 すいとん(茄子とみょうが)、トマト。
夜 ごはん、コロッケ、アスパラガス、トマト。
日曜日。一日中主人と草刈り。

昼 ごはん、鯖、大根おろし。
夜 うどんバター炒め(ベーコン、玉ねぎ、パセリ、桜海老入り)、西瓜を食べる。
星空となる。
テレビで。東京はスモッグ警報が出た。光化学公害というのだそうである。

いまでもおばさんは錠剤「命の母」と、のみ薬を4種類毎日のんでいる。

私がきじ料理屋の話をすると、「あのきじ料理屋は宿屋だったが場所がわるくて、ほかの宿屋がどんどん出来はじめて客をとられるので、考えてきじ料理の店にした」のだと言う。
(中略)
観光バスが入ってくると給油している間に、車の窓の下からぶどう液の一升瓶を宣伝して売っている。「冷蔵庫に入れておけばうまいよ。砂糖を入れて薄めてのんでもうまい。酔払わないよ。ぶどう液だから。運転しても大丈夫。ほかのところで売っているのはまぜものがしてある。これは勝沼の–––ほれ、ここにちゃんと書いてあるら–––ここから山を越してすぐのぶどうの産地から持ってきたで、特別製だ。重くて困る人には4合入りのもある。冷蔵庫に入れれば、うんと永くもつよ」と、いつものように低い静かな口調ですすめ乍ら、盃位の小さなコップにぶどう液の見本をついでは窓からのませている。1本か2本売れたらしかった。
(中略)
夜 ごはん、鯖干物、大根おろし、じゃがいも千切りとベーコンの油炒め(にんにくを入れる)、煮豆、とろろ昆布のおつゆ。

7月29日(水)快晴 とても暑い
今日も陽がさしてこないうちに草刈り。
朝 カレーライス、トマトとアスパラガス、紅茶。
(中略)
昼 パン、野菜スープ、チーズ、桃。
(中略)
夜 ごはん、紅鮭罐詰、大根おろし、おろししょうが、茄子の丸煮、炒り豆腐(にんじんとひじきを入れた)、桃。
歯がなくなってきて、主人「桃っておいしいな」といって、皮をむくそばから待っていて、すするようにして食べている。

大岡さんはジョニ黒と瓶入りのピクルスを持ってこられた。
ゴマ豆腐(今日のはわりあい、うまく出来たと思うが)、とり手羽香味揚げ、鮭の燻製と玉ねぎ酢油漬、木須肉などで、皆で飲む。

昼 ごはん、さんま、大根おろし、がんもどきの煮たの、とろろ昆布のおつゆ(主人だけ食べる)。
夜 あぶらげとにんじんと椎茸の炊き込みごはん、コンビーフ、海苔、大根味噌汁。

9月7日(月)晴
朝 ごはん、豆腐味噌汁、手羽肉から揚げ、大根おろし、りんごとにんじんのジュース。
ごはんを食べていると、あかはら位の大きさ(ひょっとすると、あかはらの雌かもしれない)の、嘴がオレンジ色の鳥、食堂に舞い込んでくる。
(中略)
昼 お好み焼き、ふかしじゃがいも、スープ。

武田百合子著『富士日記』より

富士日記(44)自慢焼

鯛焼きの円形版のお菓子の名称についてはたびたび話題になるが、「自慢焼」は初めて聞いた。

店売りのおにぎりって、型で抜いてあるでもなんか美味しいよね(コンビニ・スーパーのおにぎり除く。アメリカでは日系スーパーにも売っている。ナイーブだが、米を薬液で洗っている工場の映像を見て以来食べてない)。

6月6日(土)晴、時々くもり
朝 ごはん、大根味噌汁、かにたま、佃煮。
昼 ホットケーキ、貝のスープ、オイルサーデン。
夜 ごはん、ハンバーグステーキ、野菜スープ。

中央道、石川で、そば70円(主人)、おにぎり1個30円(百合子)、鮭ちらしずし弁当(主人)。
おにぎりには、おかかがかかっていて、大箱にずらりと並べてある。「一つ下さい」と言うと、じかに手にのせてくれた。
(中略)
河口終点ゲートを出て公園のようなところで、主人は鮭ちらしずしを食べる。魔法水筒のお茶を飲む。主人はこの鮭ちらし弁当は中央道の弁当の中で一番おいしいという。私は少し食べてみたが、好きでない味だった。
(中略)
昼 ごはん、シューマイ、漬物、野菜五目煮、中華スープ。
昼寝。赤い着物をきている夢をみている。起きたら暗くなっていて、雨が降っている音。
夜 新じゃがをふかして、バターとマヨネーズで食べる。とりのスープ。

朝 ごはん、炒り豆腐(かつぶしを沢山いれた)、茄子にんにく炒め、山芋の千切りと大根おろし、わかめ味噌汁。
昼 パン、マッシュルームスープ、鮭燻製と玉ねぎ油漬。
夜 新じゃがのふかしたの(百合子)、ごはん、鯛から揚げ野菜あんかけ(主人)。
一日、裁縫。花子の洋服仕上る。

石川で、ちらし弁当(主人)200円、ホットドッグ(百合子)70円。
(中略)
昼 茄子とねぎを入れたすいとん。

朝 ごはん、鯛のから揚げ野菜あんかけ、佃煮。
昼 グリンピースごはん、ベーコンオムレツ、はんぺんとみつばの清し汁。「はんぺんとみつばの入ったおつゆが、おつゆの中では最高だな」と主人言って、お代りをする。歯がなくなってきて、嗜好が変ったのかしら。前には、「はんぺんなど無意味」といっていた。
夜 ごはん、まぐろ油漬、大根おろし、丸焼茄子、キャベツ味噌汁。
今日買った味噌は、Nマーケットの裏にある「みそ、こうじ加工所」というところで買った。(中略)こうじの箱が洗って干してある。棚には味噌が一杯。眼鏡をかけたおかみさんが出てきて、委託でなくても売ってあげるというので、1キロ袋を買う。委託加工の味噌は新しくて出来たてなので、1年ねかせておかなくてはならないのだそうだ。
帰ってきてから、味噌を包んでくれた包紙をみると、甘酒と味噌の作り方が刷りこんであった。今度、味噌も甘酒も作ってみよう。

石川で、鮭ちらし弁当(主人)200円、サンドイッチ(百合子)200円。
(中略)
昼 すいとん(茄子、ねぎ、卵)。
枇杷を食べる。主人は枇杷を千切りにしたのを食べる。おいしいという。主人がゆっくりと2個食べ終るまでの間に私は8個食べた。おいしかった。
(中略)
夜 ごはん、卵焼、大根おろし、野菜煮〆、じゃがいも味噌汁。
(中略)
富士吉田にて。(中略)自慢焼という今川焼のようなのを作って売っている。50円から2000円までのどんなものがあるのかと、暗い店の中を覗くと、自慢焼のほかは何もない。自慢焼の中味のあんこがいやに紫っぽいので買う気が起きない。で、50円から2000円までのみやげものの正体もみきわめられない。いつもそこを通るとき、気になっている。

朝 ごはん、生鮭バター焼、かぶ味噌汁、佃煮、海苔。
昼 ふかしパン、じゃがいもスープ、ウインナーソーセージ、紅茶、まくわうり。
(中略)
夜 ごはん(豚茶漬)、畑のコンフリーをおひたしにした。うまくもまずくもない。

談合坂に寄り、へそまんと月見団子を一箱ずつ買う。
(中略)
朝 ごはん、オムレツ、わかめとかぶ味噌汁、にんじんと大根のなます。
昼 すいとん(上にかつぶしを一杯かけてみた、それと、海苔ものせた)。
夜 ごはん、まぐろ煮付、ほうれん草ごま和え、豆腐とみつばの清し汁。
(中略)
紅茶とケーキが出たが、紅茶だけ飲んで誰もケーキを食べない。私だけ食べた。7時ごろ終る。

朝 ごはん、まぐろ煮付、生卵、海苔、かぶ味噌汁。
昼 お雑煮(粟餅)。
夜 ごはん、鰊つけ焼、大根おろし、さつまいも甘煮、丸焼茄子、ほうれん草おひたし、みつばと卵のおつゆ。
鰊があんまりおいしいので、私は4本食べた。4本目のとき、急に気持わるくなる。

8人分ほどのおにぎりと鶏のから揚げと漬物を持たせる。
(中略)
昼 シューマイ、茄子味噌汁、とりから揚げ、きゅうり千切り、小松菜辛子醤油、ごはん(おにぎり)。
夜 うどんバター炒め(コンビーフ、玉ねぎ、パセリ)、スープ。

昼 すいとん(畑のかぶを抜いていれる)。
今日みたいな日は、体のすみまでのびのびして、歩いていても猫かハイエナの気分だ。
夜 ごはん、木の葉カツ、キャベツ、けんちん汁。

隣りに生鮭2枚あげる。おばあさんは、こんにゃくの煮たのをくれる。「じいちゃんが煮たのとではない」と言う。10センチ位の長さの屑毛糸を編みこんで、ふとんカバーを作っていた。
夕食後、ぼんやりと外を見ていると、大岡夫妻がみえる。桃1箱と神戸牛の粕漬を頂く。
(中略)
出版社から話をつけにいったら、桃2箱と山菜の味噌漬のようなものをごちゃごちゃと持って謝まりにきた。秋まででやめてもらうことになった、という話。この桃はその1箱。
デデは1週間経ったら山へ来るそうだ。
大岡さんと奥様は、きじ料理屋に入ってみたそうだ。1200円できじ鍋というのを食べた。肉は数えるほどしか入っていない。でも、まあまあ食べられる味だった。

昼 かにと卵の焼飯、スープ。
夜 中華風おかゆ。
今日が本当の満月らしいと主人言う。

武田百合子著『富士日記』より

富士日記(43)駅弁

「駅弁の魚のフライというのは。しんみりとした味がする」とのこと。昔、まだ500mlペットボトルがなく(あの規制は続けるべきでしたね)、お茶がコップ・持ち手付き容器で販売されていた頃の駅弁は泣きたくなるほどまずかった。俵型ご飯がべったりくっいていてさ...。SNSで最近のを見ると、食べてみたいのがたくさんあります。

夜の下りの新幹線は、問題も多かったけどやっぱり楽しかったものですが、もう「出張帰りウィ~」みたいなのは戻ってこないかもしれませんね。

4月30日 晴時々曇、午後俄か雨
朝 ごはん、かにたま、味噌汁。
朝食が終ってから「今日は眠い」といって主人、仕事部屋のふとんの中に入って眠ってしまう。
昼 お好み焼、とりのスープ、野菜五目炒め。
(中略)
隣りのおばあさんが「T先生が東京から鯛を持ってきたので作った」といって、お刺身を一人前もってきてくれる。
夜 湯豆腐、鯛の刺身、ひじきの煮たの。

パンと牛乳で私は遅い昼食。

夜 ごはん、東坡肉、白菜とアスパラガスとカリフラワーとにんじんなどのスープ煮。
主人の下痢とまり、すっかり元気になる。一日中眠ってタバコ、ビールを飲まないでいた。東坡肉はおいしいという。スープ煮もおいしいという。

5月14日(木)うすぐもり
前8時半、東京を出る。朝食(主人だけ) ごはん、豚汁、大根おろし、生鮭照り焼ですませてから。私は牛乳を飲んでから。
若葉の中央道。大月から先のれんげの咲き続く田。ちらちらするほどの眠気のまま山へ着く。
昼 シューマイ弁当(私)、ふかしパン(主人)、野菜スープ。
庭の桜はほとんど散って、赤い萼だけが残っている。
夜 おでん、桜めし(主人)。

夜 鰻蒲焼(主人。東京から買ってきた)、ごはん、たらの芽のごま和え(隣りのおじいさんに頂く)、豆腐のおつゆ。

談合坂で。へそまん200円、幕の内弁当200円、シューマイ200円。
土砂降りの談合坂駐車場には人影もない。とめた車の中で、私は幕の内を食べてしまう。おいしい、駅弁の魚のフライというのは。しんみりとした味がする。主人は作ってきたサンドイッチで罐ビールを飲む。
(中略)
昼 ごはん、小鯛煮付(にんにくとしょうがを入れて甘辛く、しこしこに煮たら、これが中華料理のようでおいしい)、海苔、たけのことわかめの味噌汁。
隣りの植木屋が、根つきの山椒をひきずって下りて来る。「葉を摘まないか」と言う。隣りの庭に植えこむので(そういうときは葉をとってしまって植えるらしい)勿体ないから、摘みたければ摘んでいいという。もう一人の植木屋が垣根の向うから「手袋して摘むように言わにゃ」と、うちへきている植木屋に指図している。手袋をしてザルに2杯摘む。しばらくすると又やってきて「もっと欲しいかね」と言う。もう欲しくないので「これだけあれば2人だから十分だ」と言うと「煮ればぐっと少しになるだ。もっといるならとってきてやる」と言う。黙っていると「明日、山椒のあるところに案内してやる。一緒に摘みに行くかね」と言う。「そうする」と言うと、また垣根の向うにもう一人の植木屋は待っていて「行くといってるかね」と、うちにきている植木屋にきいている。
3時まで昼寝。
夜 シューマイ、ごはん、山椒佃煮、キャベツ炒め。

朝 ごはん、新じゃがと玉ねぎ入りオムレツ、のり、山椒佃煮、豆腐味噌汁。
(中略)
昼 パン、ウインナーソーセージ、コーンスープ、キャベツとにんじん酢油漬。
夜 ごはん、麻婆豆腐、小鯛煮付ののこり。
麻婆豆腐の唐辛子が少しいれすぎで、主人ひどく汗を出す。

5月28日(木)晴、風なし
朝 ごはん、中華風オムレツ、大根味噌汁、大根おろし、しらす。
昼 パン、牛乳、ソーセージ(百合子)、ごはん、はんぺん、清し汁、大根おろし(主人)。
夜 お雑煮(とり団子とみつば、粟餅)。

談合坂食堂で。カレーライス(主人)150円、三色弁当(私)350円。
この三色弁当のまずさ!! 卵の部分は無味、ひき肉の部分は味はあるが、その味がまずい!! 犬の肉ではないかしら。これをとって食べるものはバカである。三色弁当というのは、デパートの食堂で食べても、デパートの食堂の中にまた区切ってある特別お好み食堂で食べても、私が作ったのを食べても、大体のところ味はちがわないおいしいものなのに。長い間三色弁当にもっていたイメージは狂った。
「百合子は食堂に入ると、あれだこれだとながいことメニューをにらんで考えたり、見本をみて悩んだりする。それがいけないんだな。出てきたものがまずいとソンしたソンしたと嘆く。俺なんぞ見ろ。カレーライスはどこのだって大体同じ味だぞ。何度も同じ失敗してこりないんだからな。そのたんびに騒いでいる。悪い癖だぞ」。私は叱られる。私は想像力が豊かではないんだ。
(中略)
昼 ごはん、ハンバーグステーキ、サラダ、スープ。
夜 ラーメン(ラーメンの上には野沢菜と豚肉の千切りをいためて醤油味にしたのをのせる)。

6月5日(金)くもり
四十雀、あかはら、かっこう、うぐいす、いりまじって朝暗いうちから啼く。
朝 ごはん、じゃがいもとわかめ味噌汁、オムレツ。
昼 黒パン、カレースープ、チーズ。
(中略)
待っている間に、おかみさんはりんご何とかというジュースのようなものをコップについでくれた。
河口湖駅で新聞を買う。
S農園で山芋を買う。おかみさんは「菜っ葉もっていって漬物にするかね。ちっと抜いてやるか」と、裏へ行って菜っ葉をぬいてきて新聞紙にくるんでくれる。
(中略)
夜 おかゆ、塩鮭、バター、かつぶし、あみ佃煮、さつまいもをから揚げする。
夜になると寒くなった。電気ストーブをつける。

武田百合子著『富士日記』より

寮の食事『けむたい後輩』(1)

これを読んで、私も大学に入って最初の2年間は学生寮で夕食を出してもらっていたことを思いだした。と言っても、忙しくなってからは提供時間中に帰れずほとんど食べられなかったが。
小学校の給食並みの内容だったが、途中で作ってくれる人が変わってから目にも舌にも驚異的にグレードアップしたのが印象的だった。もちろん予算は変わっていないはず。すごい腕だよね。あの違いが給与に反映されるといいのだけど無理だろうな。

「夜ご飯食べてきたの?」
「まあだ」
うつぶせのまま、真実子はくぐもった声で答える。
「何やってんの。そんなことだろうと思って、夕食のドリアをもらってきたから。スープはインスタントでいいよねえ?」
30名近くの女子大生が、門限や規制を大人しく守っているのは、寮母の久我山メアリーさんの手による食事のせいだ。彼女が、初代の寮母から受け継いだ、横浜らしいクラシックな洋食の数々。アーモンド形に押されたサフランピラフ、伊勢海老のクリーム煮、生クリームたっぷりのマロンシャンティー......。美里はこの2ヶ月で、炭水化物抜きダイエットをあきらめた。
(中略)
美里が丸テーブルに、こんがりと焦げ目のついたドリアとスープを注いだマグカップを並べた頃、ネグリジェに着替えた真実子が姿を現した。顔を洗ったのかさっぱりとした表情だ。真実子は椅子に腰を下ろし、スプーンを手にした。
(中略)
「美里、ありがとう。このドリア美味しいねえ」
そう言いつつも、唇の端からチーズを垂らし、ぼんやりしている。

柚木麻子著『けむたい後輩』より

富士日記(42)サニーデ

「サニーデ」っていかにも地方の商業施設の名前って感じでナイス。検索したら今も頑張っておられるようで素晴らしい。

12月2日(火)晴、風つよし
朝 ごはん、コロッケ、さといもとわかめ味噌汁、にしん粕漬。
昼 うどんバター炒め(コンビーフと玉ねぎ入り)、おから煮付。
夜 お雑煮、ししゃもを焼く。
ここに来て、朝寝坊出来るのが嬉しい。陽があたって風が吹いている。夢遊病者のようにめざめ、ふらふらと庭に出て、風に吹かれて歯を磨く。それも嬉しい。
隣りのおじいさんが、嫁に行った娘さんのところから送ってきたししゃもの干したのと、植木屋がくれたおからを煮てみたといって湯気のたっているおからを丼に入れて台所に来る。おからの中には、ひじきとにんじんとちくわとねぎが入っている。

朝 ごはん、大根味噌汁、にしん粕漬、生卵、のり。
(中略)
昼 お雑煮(とり肉、みつば、かまぼこ)。
(中略)
夜 ごはん、オムレツ、ちくわつけ焼、漬物(鳴沢菜)。これは隣りのおじいさんがくれた。

石川パーキングで肉まん2個60円(主人が2つとも食べた)。
3時前に着く。風が吹いていて寒い。庭には深い霜柱がたっている。
昼夜兼用の食事 ごはん、シューマイ、ひじきと大豆の煮たの、肉の佃煮、小松菜の辛子醤油、かきたま汁。
隣りにおでん種をわける。
(中略)
おでんとビーフシチューを作っておく。

ビーフシチューが鍋にできているから安心だ。外はくもり、あられのように、霜のように、うっすらと地面に白いものがある。
テレビは朝から、選挙だ投票だ、とさわいでいる。
主人は早くに起きて、ビーフシチューとパンを食べた。
朝(主人は第二次朝食) ごはん(炒り卵と海苔の弁当ごはん)、煮豆、佃煮、さといも味噌汁。
昼 おでん、ごはん、はまちの味噌漬、大根おろし。
夜 ラーメン(漬菜と肉の油炒めを上にかける)。

12月28日 快晴 風つよし
台所の水道は、出し放しているのに危うく凍りそうだった。アルプスは一層白い。
朝 ごはん、ビーフシチュー(主人)、おでん(私)。
昼 うどんバター炒め(ベーコン、玉ねぎ、桜海老、青のり)。
夜 ごはん、納豆入り玉ねぎ味噌汁、佃煮、鮭と卵油炒め(かにたまの代り)。

●昭和45年

食堂は満員、正月らしい和服の娘や主婦がきている。子供づれも多い。カレーライス(主人)、チキンライス(私)。
へそまんを買う。150円。
牛乳スタンドで、白牛乳の方へ30円いれたのに、出てきたのはコーヒー牛乳だった。
Sランドのスケート場で子供が沢山滑っている。
庭には雪がある。
家に入って、すぐにへそまんをふかして、お茶を入れて食べる。
夜 ごはん、トンカツ、キャベツ、けんちん汁。

朝 ごはん、けんちん汁、卵焼、のり、わさび漬。
10時ごろ、初詣に下る。
富士吉田浅間神社。富士祝詞、お守り札、交通安全お札を頂く。
(中略)
河口湖を一周する。大文字学園寮の前に車をとめ、車の中で持ってきたチーズケーキを食べ紅茶を飲む。陽が射してくると暖かい。
(中略)
昼 ごはん、はまち味噌漬、ピーマンつけ焼、大根おろし。
夜 ごはん、紅鮭罐詰、海苔、じゃがいもと肉の煮たの。

ソーセージの揚げたのにケチャップと辛子がついているのを1本ずつ食べる。2本140円。
(中略)
サニーデで食事。カレーライス(主人)、トーストとコーヒー(私)、510円。サニーデには私たちだけしかいない。
(中略)
2時半ごろ、ごはん、鮭燻製、玉ねぎサラダ、根みつばのおひたし。これは主人だけ食事。
(中略)
夜 お餅のつけ焼、豚汁。
おじいさんは夕方、自分で作ったたくわんを(ばあちゃんが漬けたのではないと今日も言う)最後の残りの1本だといって持ってきてくれる。

朝 ごはん、卵と鮭(かにたま風)、味噌汁、たくわん。
(中略)
昼 ホットケーキ、コーンスープ、果物ゼリー。
(中略)
夜 ごはん、コロッケ、味噌汁、わかめのサラダ。
夏みかんゼリーを作って食べる。

談合坂食堂で。カレーライス(主人)、サンドイッチ(百合子)、朝食にとる。桜の葉は少し残って、葉桜となった。

武田百合子著『富士日記』より