たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

ドライブ・マイ・カー!原作の『女のいない男たち』

欧米で高評価の映画『ドライブ・マイ・カー』を見て再読。私のムラカミ時代はやはり過ぎ去った、と思った。女性の描き方と「アリスのうさぎの穴」エレメントがもう無理。
旅行エッセイは好きなのでこれからも読む。

この映画を「原作、ムラカミ」とクレジットしてもらえるムラカミが一番ラッキーボーイだと思う。ムラカミ臭が濃厚なシーンよりも、ムラカミ原作から距離があるシーンが良かったので。

夕暮れの街をしばらく散歩してから、桜丘の小さなイタリアンの店に入ってピザを注文し、キャンティ・ワインを飲んだ。カジュアルで、値段もそれほど高くない店だ。照明は落とされ、テーブルにはキャンドルが灯されていた(当時のイタリア料理店では大抵キャンドルが灯されていた。テーブルクロスはギンガムチェックだった)。

「それで何を食べたんや」
僕はピザとキャンティ・ワインの話をした。
「ピザとキャンティ・ワイン?」と木樽は驚いたように言った。「ピザが好きやなんて、ちっとも知らんかった。おれらは蕎麦屋かそのへんの定食屋しか行ったことないもんな。ワインなんか飲むんか。あいつが酒を飲むことすら知らんかった」

必要に応じておいしいカクテルもつくれるし、肉じゃがからスズキの紙包み焼きまで、一通りの料理をつくることもできる(この手の料理人の大方がそうであるように、食材の購入に際して金に糸目をつけないから、基本的においしいものができあがる)。

ビールを注文し、ホワイト・ラベルのダブルを飲み、そのあいだにロールキャベツまで食べた。

コンビニエンス・ストアでウィスキーのポケット瓶とミネラル・ウォーター、そしてつまみのクラッカーを買った。ベッドに寝転んで本を読み、本を読むのに飽きるとテレビを見て、テレビを見るのに飽きると本を読んだ。

村上春樹著『女のいない男たち』より