米国にいるとコロッケが縁遠くなる。お肉屋さんのコロッケほどおいしいものはない。しかもたいていカツと比べると申し訳ないくらい安い。
天ぷらを一杯食べたら、ただただ眠い。
ひる ごはん、生鮭バター焼、さやえんどうバターいため、味噌汁、のり、うに。
この前まいた花のタネは芽を出した。すみれが庭中に咲いている。一杯咲いているから、すみれも匂いがする。パンをむしって庭先にまく。ポコはむしったパンを一つ一つ熔岩や枯れた羊歯の間からくわえてテラスの下に入り、土の中に埋めている。自分は食べもしないで。眼のふちまで泥だらけになって、せっせと一つ一つくわえていっては埋めている。鳥に食べさせたくないために。
夜 お好み焼。私はやきそばをする。
夜 おじや、生鮭バター焼、つけもの、牛肉大和煮(これは百合子食べる)。
西湖荘で昼食。主人、わかさぎの天丼。私、牛乳とトースト。わかさぎの天丼の中味は、わかさぎ、椎茸、わらび、小さな海老の天ぷらがのっていて、ていねいに出来ていて、おいしそうであった。私たちが入っていると男2人連れが2組入ってきて、全員ラーメンをとった。
(中略)
この辺りの豆腐は、1丁といっても東京の1丁より大きいのが2つもくる。1丁買うと、この豆腐を毎日食べこなさなくてはならないのだ。
おかみさんはタクワンの袋入りをサービスにくれる。
河口湖の肉屋で。馬肉上80円を400グラム、豚肉上80円を400グラム、計640円。馬肉は犬に食べさせるのだから並を買おうと思ったら、上しかないといわれたので。
(中略)
夕方、湯豆腐だけ食べて、夜、また食事する。
夜 ふかしごはんをお茶漬にする。たらこを焼いて、のり茶漬の袋入りをあける。
大きな月が出た。
朝 ごはん、牛肉大和煮、のり、卵、うに。湯豆腐の残りにケチャップを入れる(泰淳発案百合子反対、私は食べない)。
うらうらと晴れて、風がない。
(中略)
ひる 鮭茶漬。私はさつまいもを焼く。
(中略)
ビールと、馬肉とキャベツ、桜えびを入れた焼きそばを出す。<こういう暖かい日のあと、雨が降ると、山の中はぐんと冷えこむ。するとタネを蒔いて芽が出たものや移植してやっと根づいたものは、やられてしまう>と管理所の人の話。
(中略)
夜 ふかしパン、スープ。
5月18日(水)晴
9時東京を出る。2、3日いて帰るつもりなので、冷蔵庫の中のものと、残りの野菜を持っただけ。あと、卵、コンビーフ、ひらめのでんぶ。
(中略)
茶店で、かにコロッケと御飯二人前500円。主人生ビール1杯とる。夏みかん4個入り1袋150円。ここのかにコロッケは大型で、サラダもキャベツもたっぷりついている。入ってくる人は、大てい、かにコロッケを注文している。もう、どこもかしこも青葉がふさふさだ。
朝 ごはん、コンビーフ、味噌汁、のり、卵、大根おろし。
(中略)
ひる 精進揚げ(茄子、さつまいもと桜えびかき揚げ、わらび)、ごはん。
午後から私もわらびを採りに行ってみたが、5、6本しか採れない。
(中略)
夜ごはんの支度(やきそば)をしていると、外川さんと女衆2人、石工のおじさん1人が仕事の帰りに遊びに来た。ビールと焼酎、罐詰のみかんにカルピスを入れたのを出し、やきそばをお皿にとる。外川さんは焼酎は飲まない。ビールだけである。ほかの人は焼酎を飲む。女衆はぶどう割りにして飲む。
(中略)
やきそばを全部出してしまったので、もう一度作って食べる。主人、もう、眠たくて、少し食べかけて、眠ってしまう。
外川さんは主人の耳もとで「明日10時前に、そばを打たせて持ってくる。うちのはとてもうまい」。そう言ったのだそうだ。
9時ごろ、重箱(去年花火のとき、外川さんが見せてくれた、頭バカの人から買った、当時3千円だったという重箱)に一杯手打そばを届けてくれる。早速、汁を作って食べる。外川さんは向い側に腰かけて食べないで見ている。「うまいか」と言うから「とてもおいしい」と言う。しかし、少し多すぎる。外川さんは満足そうに2人が食べるのを見ながら、もぐらの話とキツネの話をする。
朝 ごはん、味噌汁(キャベツ、卵)、牛肉、でんぶ、うに。
ひる お好み焼、スープ。
夕 ごはん、塩鮭、キャベツバター炒め、茄子とかき玉のおつゆ。
お汁粉を作って食べた。
おばさんは、蜂蜜入りアイスクリーム(大)を2個とバナナ2本をくれる。
スタンドに寄って白灯油を3罐頼む。夕方までに届けてくれるという。おばさんは、また蜂蜜入りアイスクリーム(大)を2個くれる。白灯油3罐千円でいいという。
(中略)
夜 ごはん、いわしのかんづめ、のり、うに、パイナップルのかんづめ。
(中略)
「この辺の人は、そばをよく食べる。外川さんの家へ行っても、オガライト屋へ行っても、建具屋でも、ひるどきに行くと、障子や硝子戸が閉っていて、中でずるずるッというそばを食べる音がしている。3時ごろ行っても、その音がしているときがある」という話を主人にしていたら、夜8時ごろだったが、急に2人とも、そばが食べたくなったので、台所を探したがなかったから、早々と寝てしまう。
6月18日(土)くもり、夕方より雨
朝 お好み焼、茄子かきたま汁。
ひる おかゆ、オイル漬のいわし、のり、さんまのかんづめ。
夜、ごはん、ひじきと大豆油揚げの煮たの、ソーセージ、大根味噌汁。
カッコーが朝からよく鳴く。
栗せんべいを買うと、おばさんはタダでいいという。2箱もくれてしまう。「あんないいものを貰ったからタダにしてくれる」と言ういいものというのは、本のこととノブさんに持たせた焼酎とブドー酒のことらしい。おじさんは「日本全国に読まれる本に、おらのことが書いてあって光栄だ」。おばさんは「飲むものまで貰ってなあ」とつけ加える。そのうちに、裏の母屋へ行って2冊本を持ってきて「サインしてくれや」とおじさんは出した。おじさんの苗字と名前がはじめてわかった。
車にのりこむとき、例の蜂蜜入りアイスを2個くれた。
ひると夜を兼ねた食事をする。ごはん、かにのコロッケ、トマト、のり佃煮、夏みかん。
2時前に東京に着く。ノブさんにうなぎをとって食べてもらう。
新宿発8時の便の、仲間のトラックに乗せて貰うからすぐ帰る、というので、晩の炊きこみかに御飯を、二人前ほど弁当箱につめて、トラックの中で食べるように渡す。
6月30日(木)くもり時々晴
朝5時半出発。
残りの五目ずし、野菜など積む。
7月1日(金)くもり時々陽が射す
9時半に朝食 ごはん、のり、味噌汁、卵。
(中略)
ひる ベーコン入りのコロッケ、ごはん、キャベツ。
かにのコロッケをするつもりで「今日はおひるは、かにコロッケだよ」と主人に宣言してしまってから、納戸を探しても台所を探しても、かに罐はなかったので、ベーコンのコロッケにした。「あれ? これ、蟹か?」と主人はけげんそうに食べる。「たしかに、かに罐が十位あると思ってた。でも探したら一つもなかった。かに罐が十位ある夢みたの」。
夕飯の前に冷やっこを食べる。
夕飯 ごはん、とんカツ(私)、たらこ(主人)、サラダ。
7月3日(日)くもり時々晴
朝 ごはん、昨夜のとんカツでカツ丼(主人)。
(中略)
ビールと残りのトンカツを出す。早速、箸を割って食べはじめた。
(中略)
ひる ごはん、塩鯖を焼く(主人)、塩鮭(私)。
(中略)
外川さんの車は「俺(う)らの車は乗っているとキャアキャアいう」と言っていたが、本当にキャアキャアいった。キャアキャアいうのを直すために、部品を買いに工事場から町へ下るつもりで出かけてきて、門の前で焚火をしている2人をみかけて、つい、うちへ寄って、ビールと豚カツを食べたら、つい、うぐいすの巣の秘密を洩らし、とってくれてしまったのである。夕方、庭で焚火をする。刈草のしまつ。
夜 手製クッキーとコーンスープ。
松田の食堂で、かにコロッケライスを食べる。小山のあたりから霧が出て、須走では視界10メートル以下となる。
昨夜別れ話を相談にきたE夫人と12時近くまで酒を飲んでいたので、私は睡気を催す。忍野のあたりではいよいよ眠くなったので、チョコレートを出して口の中へ入れる。
(中略)
夜 持参のおにぎり、キャベツとピーマン炒め。
かにコロッケ二人前400円、ビール200円、松田の食堂にて。
7月15日(金)くもり時々晴
朝11時 トーストとスープ。
昼 手製クッキーとスープ、コンビーフ。
夜 卵入りおじや、塩鮭。
武田百合子著『富士日記』より