たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

富士日記(26)原始長命食

この山の人たちは運転するしないにかかわらず、いっつもビール飲んでるよね。私も一度助手席で飲まれたことあるけど、なかなか嫌なものだった。

朝 ビーフシチュー、ごはん。
毛がそそけ立ったような、栄養のわるそうなリス、やってきて、ひょろひょろと去る。
(中略)
昼 ふかしパン(ひき肉を入れた)、みつばのスープ、夏みかんゼリー。
(中略)
夜 焼飯(残りの春巻の中味を入れた)、スープ、わかめのおひたし。
うす赤い空に月が出る。

6月5日
5時、帰京。海老名で朝食。
ハンバーグステーキ(主人)250円。クッキーと牛乳(私)230円。クッキーは大へんまずい。

6月12日(水)晴 ときどき曇
6時東京を出る。東名高速、横浜に近い売店で、サンドイッチ(200円)、中華弁当(200円)を買う。ジュース(60円)も。
(中略)
黄色い小型車の若い男は、売店の備えつけのテーブルで、ジュースとパンを、ゆっくりと食べている。
(中略)
昼 ごはん、ハンバーグステーキ、玉ねぎとキャベツとにんじんのサラダ。
サンドイッチの残りのパンをリスがくわえて帰って行く。
(中略)
夜 ごはん、鯛の浜焼(冷凍の鯛で作ってみた)、とろろこぶのおつゆ、ひじきの煮たの。

朝 ごはん、さんま干物、卵焼、大根おろし、わかめ味噌汁、牛乳ゼリー。
(中略)
2時半、帰って昼食。卵とさくらえびの焼飯、はんぺんのスープ、煮豆、夏みかん。
(中略)
夜 チーズトースト、とりのスープ、サラダ。

野鳥園のそば屋は、まだ開いていない。ぶらぶらしているうちに、おばさんが来る。そば200円。
(中略)
昼 ごはん、さば味噌煮、なすのおつゆ。
夜 じゃがいもをふかしてバターをつけて食べる。

6月22日(土)
朝 ごはん、ビーフシチュー。
昼 トーストパン、スープ(百合子)、おかゆ、あいなめの煮付(主人)。
夜 ごはん、新じゃがと牛肉のいため煮、わかめとねぎのぬた。

9時50分ごろ、「文学界」の高橋さんが来られる。早めの昼食にビーフシチューとサラダ、鴨の紅焼。みんなで食べていると雷が鳴って、大粒の雨が降りだす。すぐあがる。
(中略)
遅い2度目の昼食 ごはん、鯛味噌、卵の油炒め、ほうれん草のおひたし。
夜 ふかしじゃがいも、バター、スープ、果物ゼリー。
夏ものを出すため茶箱を動かすと、原始長命食[黒ゴマ、黒豆など粉末にしたふりかけ食。これを食べれば無病息災というので、歯の少なくなった主人に食べさせようと買い求めたもの。<こんな、インディアンが食べるみたいなもの>と武田は一口も食べず、代りに私が食べていた]の紙箱の角が喰い破られて、中のポリ袋の原始長命食が大分減っている。わかった、台所のものを食べないわけが。長命食を食べていれば、さぞますますネズミは丈夫になってきているはずだ。
夜、ストーブを焚く。

6月30日(日)くもり時々晴
5時東京を出る。東名高速の売店で、シューマイ弁当200円、おにぎり弁当200円。
一休食堂に車をとめて、車中で食べる。
(中略)
5時、大岡さんへ2人で行く。デデ、喜ぶ。7時半帰る。キスの塩焼を4尾頂く。
大岡家の御馳走。
ウインナーソーセージのフライ、ゆで卵のバター和え、とり肉バター焼、鯵のたたき、キス塩焼。みんなおいしかったなあ。ことに鯵のたたきがおいしかった。

7月1日(月)時々晴れる、夜に雨
朝 ごはん、梅干の吸物、きすの塩焼を煮てみる。のり佃煮。
網戸をはずして洗う。時々陽が射すが、すぐに曇る。西の空に黒い雲が動かない。アカハラが大きくなった。トキョキョカキョクと啼くのはアカハラだ。
昼 ごはん、コロッケ、サラダ、味噌汁。
3時、ふかし新じゃが。
夕方、草刈り、焚火を2人でする。毎年咲く赤い百合、今年も同じところに出て蕾をつけた。
夜 チーズトースト、トマトと玉ねぎのサラダ、スープ。
食事の途中で主人気持わるくなる。ぶどう酒の飲みすぎ。

武田百合子『富士日記』より