たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

富士日記(55)天ぷら、奈良漬、たい焼き

思えば、寿司やすきやきだけにとどまらず、大人になってから好きになった食べ物は本当に多いなあ。天ぷらも奈良漬もたい焼きも全然興味なかったのよ、子どもの頃は。

朝 麦飯、豆腐味噌汁みょうが入り、さつまあげ大根おろし、切干と豚肉いり煮、きゅうりトマト。
夕食 パン、豚肉とじゃがいもといんげんの入ったボルシチスープ。

夕食 麦飯、天ぷら(きす、桜えびの天ぷら、野菜精進揚げ)。
きすの天ぷらがおいしいと主人いう。精進揚げも沢山食べる。「海」を休めるし、その上、「文学」のシメキリものばせたので、ゆっくり陽に当ったり、草刈りしたり、仕事に入るまで本を読まないで、好きにしているのだという。天ぷらを食べながら言う。

朝 麦飯、納豆、大根菜漬もの、南瓜の煮たの、生卵、のり。
主人、納豆に大根菜のつけものの刻んだのをまぜて、それに海苔をもんでいれて御飯にかけて、二膳食べる。私は同じようにして二膳、もう一膳を生卵をかけて食べる。
夕飯 ハンバーガー、いんげんとじゃがいもバター炒め、トマトのスープ。

8月5日(木) くもり時々小雨
朝 麦飯、緑豆と桜えびの卵とじ、味噌汁(豆腐)、まぐろ油漬、サラダ、大根おろし。
夜 花子と3人 麦飯、清し汁、サンマ塩焼、さつまあげ大根おろし、なすしぎやき、パイナップル。
(中略)
電報配達人は傘をさした女の人。鳴沢郵便局のものだという。果物かんづめをあげる。

朝食 花子ハンバーガー、主人ハンバーグステーキ、麦飯、トマト、アスパラガス、味噌汁(茄子)。
朝食後、しばらくして大岡夫人がみえる。さっき、おそばのだしを添え忘れたといって。

夕食 主人だけ5時にとる。パン、トマトと玉ねぎのスープ、ソーセージとサラダ、コーヒー。
私たちは玄米の焼きにぎり飯2個ずつ作って出かける。
(中略)
花子と私はおにぎりを食べながら観る。9時位になると2人増えて、私たちが9時半に出る頃には14、5人となる。
ここは全部で12、3人の客に、しょっちゅう呼出しがかかる。黒い幕をくぐって音もなく小母さんが入ってきて、すぐうしろで急に「アスミの何とかエミ子さあん」とどなるので、ジョーズがいつ出るかいつ出るかと思って観ている皆は一斉にギョッとする。
(中略)
大福とおせんべを食べて、お茶をのむ。主人、ふとんの中から「面白かったか」といったが、起きてきて大福とおせんべを食べなかった。

新しいドライブインが沢山出来たので、前からあった、雉など育てて肉なべ料理やそばを売っていた田舎家風の食堂は、ペンキがはげて古ぼけて、客が全く入っていない。ここは富士が真正面に見える。
(中略)
3時頃足を洗って、鮭の燻製半分と中国王宮風焼肉のたれを持って大岡さんのところへ。

3時にタイヤキを食べるとき「タイヤキがこんなにうまいなんて知らなかった。何でも馬鹿にしたもんではない」と、私に訓示を垂れる。私は「生れてから、一度もタイヤキを馬鹿にしたことはない」と言う。
夕食 かけそば、有合せのおかずと。

8月11日(水)
花子に電話をかけに行く。「奈良漬が壇ヨソ子さんという人から送られてきたから、少しわけて管理人さんにあげて、あとは今度山に持って行く。とてもおいしいから。そのほかには連絡することなし」と言う。

イトーヨーカ堂の食品売場は人の体温と息で冷房なんか効いていないみたい。お盆の買物をする地元の人ばかり。お盆用品と赤いビラに書いてあるところを見ると、いなり用あぶらげ、焼豆腐、卵豆腐、そうめん類、まぐろの刺身、いかの刺身など。
カタマリ肉(つまり大量の肉)を買った人には絵皿一枚プレゼント、と書いてある。お盆特別サービスコーナーが所々にある。山と積み上げて売っているそのコーナーは、果物(スイカ、ブドウ、スイミツ)、菓子(大福、ピンク色のスアマ、草餅、チューインガム、あめ、袋菓子)、いなりずし、そうめんとつけ汁かん入り。浜松のうなぎ蒲焼1串470円(よくよく見たら、うまそうでなかった)。
(中略)
ビール、木須肉、かにときゅうりと錦糸卵の中華酢かけ、あわびと数の子。
(中略)
夕食 かけそば、くだもの。
外が真っ暗になってから、テレビを二人でみていると(8時頃だったかな)バラスを踏む音がして、硝子戸の外に庄司[薫]さんの顔が浮かんでいる。そのあとから紘子さんが現れた。5日ほど前から富士ビュー[ホテル]に来ていて、今夜東京に帰るので帰りがけに寄ったとのこと。庄司さんはナポレオンコニャックを「はい」と下さる。紘子さんはレコードを下さる。

8月15日(日) くもり時々小雨、涼し
朝 麦飯、トンカツ、はんぺん煮付、あわび佃煮、サラダ、白桃。
夜 うどん煮込み、納豆をいれてみる。
(中略)
主人「トンカツを食べて元気をつけたから、午後からはじめるかな」と、朝食後いう。午後、岩波講座「文学」原稿後述筆記はじめる。

8月17日(火) くもり、夕方より小雨
朝 麦飯、味噌汁、炒り卵ととりひき肉そぼろ煮、いんげんと玉ねぎ中華風サラダ、トマト。
午後、口述筆記。
夕食 麦飯、納豆、サンマ塩焼、かぼちゃ甘煮、ひじきとあぶらげ煮たの、白桃、トマト。

充電する間に、魚勘でかます12枚としそ巻かまぼこを買い、青埜で赤坂もち10個とおやき10個買う。
(中略)
夕食 赤飯、かますの干もの、かぼちゃ、ひじき、なすとみょうがのスイトン汁。
かますを沢山食べた。タマにも1枚食べさせてやる。タマは頭も目玉も食べてしまう。
東京までかますを買いに行っただけ。主人、かますをおいしいと言う。以前は、かますの干もののことを馬鹿馬鹿しいなどといっていたのに。魚ならブリ、サンマ、マグロ、サバが大好きで今も大好きだけれど。口述休み。

夕食 ざるそば、天ぷら(桜えびと枝豆のかきあげ)、なすからあげ、キャベツ酢漬。

武田百合子著『富士日記』より