たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

Departures『80's』

90年代後半から21世紀の初めまで東京で過ごした者として、著者のいう街の音楽はとてもリアルなのだが(My Heart Will Go Onとかね。『タイタニック』を池袋の地下の映画館で見て地上に上がったら雪が降っていたものだ)、GlobeのDeparturesもその中に入ってたのはちょっとビックリ。なんかかなり最近な感じなんだけど...。

観光のあと、旧市街のカフェでワインを飲みながらチェバプチェチェという郷土料理を食べた。羊肉のケバブにピタパンを添えたもので、トルコ料理によく似ている。こんなところでワインをボトルで頼む客は珍しいらしく、ひとのよさそうな店主は片言の英語でかいがいしく世話を焼いてくれた。

それでも手ぶらで家に帰るのが気が引けて、駅前のパン屋に寄って、300円くらいでブドウパンを1斤買った。

中央道を富士吉田インターで降り、1時間ほどのところに第4サティアンはあった。(中略)
台所にはゴキブリが這いまわり、ネズミのかじった跡があちこちにあった。不殺生の戒律を守るために、生き物は殺せないのだと説明された。プラスチックの小さな皿に、イースト菌を使わずにつくったパンと、根菜類の煮物が載っていた。信者はその皿を受け取ると、手づかみでたいらげ、修行へと戻っていった。

東京に戻る途中のサービスエリアで夕食にした。Iさんは慎重に具材を吟味すると、刻みねぎが載った素うどんを注文した。

音楽はクラシックとオペラ、ワインをこよなく愛し、貴腐ワインがどのようなものかを得々と話した。ちなみに貴腐ワインとは、白ワイン用のブドウをカビに感染させて糖度を上げたデザートワインで、ハンガリーのトカイ地方のものが有名だ。ぼくは最近になってブダペストのワイン祭りではじめて飲んだが、佐藤さんは30年以上前に知っていた。

橘玲著『80's エイティーズ ある80年代の物語』より