たべもののある風景

本の中で食事するひとびとのメモ帳2代目

おつけもの、レタス『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』(10)

スナッキングといえば、西海岸のおつまみとしての枝豆の浸透ぶりに驚く。日本食レストランで名指しするのはもちろんのこと、普通に冷凍の「エェダマァミィ」を買って家でも食べている。鮨店に加えてどんどん増えてるラーメン店が出してるんですかね。

一般の家庭では一月七日には七くさがゆを食べるのかしら、とそんなことが気になりながら、それでも、

「何か七くさがゆの材料をとどけて」

とたのんだら、水ぜりと大根を持ってきた。

「へー、大根も七くさなの」

と私は驚いたが、七くさとは七種類の「七草」と書くのかと思っていたら、「七種」と書くときき、もう一度びっっくりして、浅学のなさけなさをつくづく味わった。

七くさとは、「せり、なずな、おぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ」といわれるが、すずなはかぶ、すずしろは大根のことなのだそうだ。

そこで仕方なく、大根、かぶは身も葉もこまかくきざんで入れ、せりもこまかく切って、塩味だけのぞうすいをつくってみたら、なかなかおいしかった。

昔から七くさにせりを使っていたにしては、日本人はあまりせりを使わなすぎるのではないだろうか。

レストランのビフテキのお皿の横に、せりの一つまみがのっているのはよくみる。脂っこい肉をたべた後、ひとつまみのせりを口に入れると、プンとせり独特の匂いがし、口がさっぱりしておいしいが、せりはもっともっと他にも使いみちがある。前にせりと赤かぶのサラダ、せりのおひたしのことを書いたが、せりのスープもおいしい。

(中略)

裏ごしで野菜をこしてなべのスープでのばし、塩コショーをしたら、うぐいす色をしたポタージュ・クレソニエール(せりのポタージュ)ができ上る。ポタージュといっても、このスープはあまりどろどろではなく、さっぱりした口ざわりで香りもたかくおいしい。

私はだいたい夜おそくまで仕事をしているので、夕食をすませていても、ねる前にちょっと何かたべたい時が多い。そんな時は、あまり胃にもたれないものがよいので、スープ類をよくつくる。

日本的な汁ものや中華風では、やはりごはんがほしくなるので、西洋風なスープにパンがよい。

スープといえばきこえはよいけれど、要するにありあわせのものを何でも入れて、ぐつぐつ煮こんだものをたべるのだが、野菜でも、ハムや肉を使う場合でも、あう、あわないがあることに気をつけないと失敗する。大根、かぶ、白菜などは、西洋風のスープにはなんだか向かない。

(中略)

さっぱりしすぎると思う人は、コッペパンを1センチ幅に切るか、食パンなら四つ切りにして油で揚げておいて、でき上ったスープのなべに入れ、ぐらぐらっと煮たたせてからスープと一緒にたべる。

(中略)

食パンにしても、ただトーストにするだけでなく、ちょっと工夫してたべるとよい。

焼き上ったトーストに、にんにくを半分に切り、その切り口をごしごしとなすりつけてから、バタをぬれば、ガーリックトーストができる。

もっと本格的なガーリックトーストをつくる気があるなら、まず、にんにく1コ皮をむいてからおろしがねですり、これにバタと少量の塩をまぜてねり、これをパンに塗ってから天火で焼く。

スープのつけあわせには、もってこいのトーストで、にんにくのきらいでない人なら、何枚でもたべられる。

また、牛乳と卵があったら、卵をよくほぐし、牛乳でのばしてから、お砂糖少しと塩少々入れてかきまわし、食パンを半分に切ったのをその中にひたひたにつけて、フライパンにバタをたっぷりととかして、その中で両面こげ目がつくまで焼いて、フレンチトーストをつくってみるのもよいと思う。

牛乳と卵を吸ってふかふかになったパンが、黄金色に焼き上っていて、甘くてちょっとバタくさくておいしいものだ。甘党の人には蜜またはジャムをそえて出せばよろこばれる。

この場合は、むしろスープなどより、紅茶かミルクをそえて出す方がぴったりしている。

フランス人は、私たち日本人がおつけものを必ずたべるように、レタスのサラダをよくたべる。それで私も、なんとなく習慣になってレタスをよくたべるが、二枚のガーリックトーストにレタスの洗いたての葉を二、三枚はさんでパラパラッと塩をふり、バリバリたべるとじつにおいしい。

ちょっと人さまにみられては困るような大口をあかなくてはならないし、二枚のトーストの間からはレタスの葉がはみ出しているのを、バリバリたべるのだから、決してお行儀はよくないけれど、ぜひ一度ためしてごらん下さい。

石井好子著『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』より